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グループ企業間融資の罠

「ゾンビ企業、3年連続の増加―帝国データバンク : ゼロゼロ融資で延命したものの… 」という記事がありました。

記事によると、
コロナ下での経済対策として実施された実質無利子・無担保のゼロゼロ融資は、中小企業の資金繰りを支えたが、もともとゾンビ化していた企業を延命させた側面もある。帝国データバンクは、「足元ではコロナ支援策の反動が顕在化しつつあり、業績改善できないまま事業継続を断念する企業も目立つ」と指摘している。

出所:nippon.com

 一方で、このゼロゼロ融資については返済も本格化しております。中小企業経営者の皆様におかれましては、足元の売上入金などの状況を見ながら、資金繰りについて頭をグルグルと巡らせていらっしゃる方も多い昨今です。そんなときにグループ経営を行っている会社であれば、会社間で資金を融通し合うということも多々あります。

 グループ間企業貸付について「グループ企業だし…」「親会社からの要請には断れないし…」というところで悩みながらも貸し出しを実施してしまう中小企業グループの子会社の経営者にもお会いします。
 一方で融資を受ける側が例えば親会社だとしたら以下のような理屈や、メリットをお考えなのだと思います。

【グループ企業間貸付のメリット】
① グループ内資金の効率的な活用
 グループ会社間で貸付を行うことにより、グループ内資金を効率的に活用することができます。例えば、資金調達が必要なグループ会社に、余剰資金のあるグループ会社から貸付を行うことにより、資金調達にかかるコストを削減することもできます。また、グループ会社間で資金を融通することで、グループ全体の財務体質を改善することにもつながります。

② グループ経営の円滑化
 グループ会社間貸付は、グループ経営の円滑化にもつながります。グループ会社間で貸付を行うことにより、グループ会社間のシナジー効果を高めることができます。また、グループ会社間で貸付を行うことにより、グループ全体の経営判断を迅速化することもできます。

③ グループ全体のリスク管理 
 グループ会社間貸付は、グループ全体のリスク管理にもつながります。例えば、グループ会社間で貸付を行うことにより、グループ全体のリスクを分散させることができます。また、グループ会社間で貸付を行うことにより、グループ全体の財務状況を把握しやすくなる場合があります。

 何しろ簡単にしようと思えば、送金だけで済んでしまいます。

 しかしながら、以下のような点も注意が必要です。特に貸し出す側の企業、特に社長を含む取締役の方々は、知らないでは済まされない事項があります。

【グループ企業間貸付の注意事項】
① 親子関係を背景とする力関係
 グループが親子間の場合、貸付に親子間の力関係が反映されることが多いです。貸付先となる親企業の財務状況や事業内容を十分に調査せずに貸付けが行われる場面が多々あります。また、貸付金利や返済条件が適切に設定されていない場合もありますが、親会社が返済不能に陥ると連鎖してリスクが高まります。

② 貸付先企業の経営判断への介入
 子会社から親会社への貸付けを行うにあたり、親会社が子会社の融資審査・判断に介入する懸念もあります。この場合、子会社の経営の独立性や意思決定の自由度を損なう要因ともなります。役員構成なども慎重に検討していないと、利益相反のリスクも孕んでしまいます。

③ 対外関係者への情報開示の不十分さ
 取引先や取引金融機関は、グループ会社間の貸付がある場合、対象会社のみならず、親子関係の背景事情、親会社、兄弟会社の与信、代表者の資産状況等、調べる範囲が急激に増えてしまい、避けられがちです。正しい企業の評価には大きな支障となります。

 中小企業経営を取り巻く経営環境は不確実です。ですので、一概にこれもダメ、あれもダメとは言えません。やっている当事者が一番わかっているはずです。

 もう一度利点を整理します。

 季節変動が大きなビジネスにおいて、経済環境が不安定な時期には、資金調達が困難になる時期もあります。このような状況では、グループ内での資金融通により迅速に資金を調達し、短期的な流動性問題を解決することができます。また、グループ内で資金を融通し合うことで、外部環境の変化に対して柔軟に対応することも可能になることがあります。グループ内での資金融通を行うことで、取引コストを削減し、資金調達の効率性を高めることが可能です。

 だからといって、取引そのものには大きなリスクがあることも知っておくべきです。
 
 法律上の観点では、取締役の善管注意義務が問われることもあります。

 経営不振に陥り、再建の見込みのないグループ会社に対する支援として、無担保で、かつ、 利子による利益をも見込むことができないような態様で金銭を貸し付けるときは、会社に損害を生じさ せるおそれもあることから、役員が責任追及されることがないよう、慎重に行う必要があります。 

TMI総合法律事務所 LEGAL INSIGTS
滝琢磨弁護士、上村祐聖弁護士
『グループ会社・取引当事者間での資金貸付等に関する留意点』より

 税務上のリスク管理も必要となります。
 例えば、グループ間貸付が税務上の寄付とみなされる懸念は、貸付条件が市場の金利から逸脱して低い金利で行われている場合に発生することがあります。ですので、貸付金利を市場のレートに準じた適正な水準に設定し、貸付時の条件を文書化し、組織として適切な手続きを踏むことが重要となります。


 結論としては、必要ならやむを得ないと思っています。ただし、あくまでも緊急対応であり、恒常化は避けたいです。
 最後に、私の私淑する森信三先生のお言葉を紹介して終わりとさせていただきます。

「お金は、すぐ簡単にお金を貸してくれるところから借りてはなりません。」

寺田一清編「森信三先生のことば お金の根本原則」たねまき文庫

 急場であってもすぐに借りられることは例外的なのであるという自覚を持っている経営者であれば、何とかなると思います。お互いに乗り越えていきましょう。


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