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ネコクインテット #毎週ショートショートnote

 晴天静穏な昼日中ひるひなか、握った買物袋が歩調に合わせてかさかさと音を立てる。何者かの視線を感じ、ふと歩みを止める。振り返れば、見慣れた軒並み。弓手ゆんでには古ぼけたガレージ、馬手めてには耕耘こううん済ませた田のが広がるばかりで人影はなし。再び家路を急ぐも落ち着かない。

 大通りを渡れば、我が家はもう指呼の間である。赤の電灯で停まる車を余所目にゼブラを渡ると、車輪の隙間を縫う影が一つ。歩行者信号が点滅し、出てこぬ影に胸走り火が起きる。身を屈めつつ白線と平行にくるりとつま先をまわした途端、にゃあの声と共に影が飛び出す。往来に残るは我一人のみ。

 クラクションに急かされて、道の端へ駆けるその人を、したりと見遣るは一匹の三毛。何を隠そう彼女こそ、秘密結社NNNねこねこネットワークの調査員である。足取り軽く先回りし、玄関脇にあるサボテン鉢と見極めるやいなや、陰に一匹子猫を潜ませた。

 やっと帰ったその家主は、目やにで閉じた子猫を見つけ、買い物袋を放り出す。上がりかまちをさっと越えれば、鈴の音鳴らして遊んでくれと茶トラ寄る。遊べぬ代わりに背中をひと撫でし、クロがカリカリに舌鼓打つ脇を通り、キャリーケースはどこかと部屋を見回す。しかしそこではぷうぷうと、サビが伸びて高いびき。そっと除けて脱衣所行けば、タオルの山でもサバトラが雙門曲。にゃあにゃあの調べに振り返れば、せんの子猫がすぐそばに。気づけば辺りはネコクインテット。

<了>


たらはかに(田原にか)様の下記の企画へ参加しています。

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