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【Dynamiteは"明るいポップソング"ではない】BTSの代表曲に隠された、エンターテイメントの本質=「切なさ」とは

ColdplayがBTSとコラボするらしい。僕が思い出したのは、AviciiとColdplayの共作「A Sky Full Of Stars」だった。

当時、Coldplayのクリスマーティンはこんなことを言っていた。

「創作に行き詰まっていたから、EDMの力が必要だと思ったんだ。アポイントを取って会いに行くと、AviciiはPCから向き直り、トレードマークのキャップを後ろ前にしてこう言った。『ぜひやりましょう。お代は14億円だけど。』もちろん冗談だったけどね。」

その4年後、Aviciiことティム・バークリングは自ら命を絶った。死に至るまで、彼が何を考えていたのかはもちろんわからないけれど、勝気だった彼が、「彼のすべて」ではなかったことはどうも確かに思える。

BTSは文字通り世界を席巻し、ポール・マッカートニーをして「昔の僕らを見ているような現象だ。」と言わしめた。欧米においてもその立場を確固たるものにした(もうとっくに確固たるものだったかもしれないが)「Dynamite」はYouTubeでの再生回数が10億回を超えている。

「Dynamite」は一聴すると「明るいポップソング」だ。コロナ禍にフラストレーションを溜める人々に希望を与えた。それは真っ当で、嘘はないのだが、本質的ではない気がする。

「Dynamite」は、「切ない」からこそ、無意識的に多くの人の心を打ったのではないかと僕は考える。

ヒップホップにルーツを持つ異色の実力派KーPOPアイドル。ご多聞に漏れず、そんな肩書きからBTSに興味を持った僕だが、彼らのキャリアの中で最も重要な意味を持つ曲は、花様年華 Young Foreverに収録された「Save Me」とLOVE YOURSELF 結 'Answer'の「I'm Fine」だと思っている。

2016年リリースの「Save Me」は当時流行していたEDMど真ん中の曲調だが、こんなことを歌っている。

「僕でさえ自分を制御できない 誰か僕を助けて」

2年後に発表された「I'm Fine」は「Save Me」へのアンサーソングだと言われていて、他者に助けを求めていた歌い手が「もう大丈夫」と危機を脱した救いの歌に思える。

一方で、端々にはこんな言葉が挟まれる。

「どうしようもなく塞ぎ込んでいるんだ」「君の名前の呼び方すら忘れてしまった」「でも、大丈夫だよ。心配しないで。」

言うまでもなく、韓国のエンターテイメント業界では自ら命を断つアーティストが多い。その社会的背景や個々の事情を計り知ることは到底できないが、僕が上記の2曲に重要な意味を見出すのは、そこに薄いもやのような死の匂いを感じるからだ。

「Dynamite」でBTSはその鍛え抜かれた肉体と美しい声で歌う。

「今夜、僕は星の中にいるから。火を灯して暗闇を照らすのを見ていて。」

ダイナマイトは一瞬で爆発し、光を晒して消えていく。それが太陽でもなく、燃え続ける炎でもないのが、この曲の本質的な魅力だと思っている。人がエンターテイメントに心打たれるのは、そこに自己犠牲があり、夕暮れのような物悲しさがあるからではないか。

亡くなっていった方のかけがえのない命に、こうあってはいけないというぶつけようのない怒りを感じながら、その奥底に、こごりのような美しさを見つけてしまっている。それは自己犠牲であり、美しくあろうと選び抜いた尊厳のように思える。それを切なさと呼ぶなら、「Dynamite」にはそこに至るたゆまない強がりと美しさが表れている。

意図せずか、意図しているのか(意図されたものに違いないけれど、それでも)その切なさがBTSの魅力の本質であると、僕は思っている。

*記事画像は公式サイトより引用



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