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『北の国から』という毒親地獄…親に否定され続けた子どもは人生が不幸になります【中村淳彦の名前のないコラム】

1983年から約20年にわたり放送された名作ドラマシリーズ『北の国から』(フジテレビ系)。いわずとしれた名作ですが、しかし主人公・黒板五郎の言動は子どもにとって正解だったのかというと疑問が残ります。いま風にいえば五郎さんは、「毒親」だったのかもしれません。

大自然を舞台に繰り広げられる壮絶な毒親物語

 ノンフィクションライターの中村淳彦です。

 毒親の本(『私、毒親に育てられました 』宝島社新書)をやっていて、最後の方に否定され続けた子がどうやって厳しいことになるか、みたいなことを載せた。そこに衝撃的な毒親ドラマだったフジテレビの名作『北の国から』の描写を少し載せました。
『北の国から』って素晴らしいドラマと思っていたけど、その肯定的な感情は世間の評価に持っていかれている感じで、『北の国から』をよくよく見ると、無茶苦茶な毒親の話なわけです。『北の国から』を絶賛して、本当に素晴らしいドラマだって言う人は膨大にいて、素晴らしいドラマであることに異論はないのですが、こんな話は行き過ぎた毒親物語であることは間違いありません。

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『北の国から』がいかにまずいか。まず、毒親に育てられたら子どもたちは人生が不幸になります。毒親に振りまわされて成果が出ないし、能力が活かせないわけだから社会で活躍できないし、貧しい人生となる。五郎さん(田中邦衛)という壮絶な毒親に育てられた純(吉岡秀隆)と蛍(中島朋子)は、本当に貧しく底辺な人生になってしまった。
 北海道富良野の自然とか、東京に住んでいるといい。素晴らしいと思うけど、北海道の極寒地域に移住した家族を描いた長いドラマで、感動的ではあるものの、よくよく見るとものすごく酷い話が展開される。
 毒親の定義は子どもに悪影響を及ぼす親っていうこと。子どもに悪影響を及ぼしたらその親は毒親で、毒親に育てられると子どもは不幸になっていくわけですね。


『北の国から』は、まず五郎さんが奥さんと離婚して死別するわけですね。シングルファーザーになったことをきっかけに、東京23区のどこかに住んでいた家族は五郎さんの故郷である富良野に移住する。都市生活をしていた純と蛍を無理やり連れて北海道富良野の原生林みたいなところに引っ越して、親子3人で自給自足の生活みたいな生活をはじめるわけです。


 一家は元々世田谷区とか杉並区とか、そのあたりに住んでいて、奥さんは文明的な普通の女性でした。どうして北海道の開拓民の五郎さんと、その文明的なお母さんが結婚したかわからないけど、五郎さんとお母さんは昭和10年代生まれで、純と蛍は完全に僕と同い年なので団塊ジュニア世代ですね。
 富良野に移り住んでから、水道とか電気とかインフラが全くないところで、五郎さんが一つ一つ作っていく。家も手作り。自給自足の五郎さんは基本的に無職なので、収入めちゃめちゃ低くて出稼ぎに行って稼いでいるだけ。年収はおそらく100万円とか130万円とか、そのくらいのレベル感の貧困家庭だと推測できる。

 
純が中学3年のとき、家に電気がないと困るって、自家発電を開発した。すげーなと見ていました。純が理科に詳しいみたいで、それで廃品を使って風力発電の機械を中学3年生で作り上げた。純はお父さん喜ぶかなと、「自家発電作ったよ」みたいなことを五郎さんに報告したら、五郎さんが出稼ぎで疲れてイライラしていたみたいで、なんだこんなものをみたいなことで怒鳴り散らしてしまった。
 純がせっかく、家とお父さんのことを思って、風力発電を作ったのに思いっきり否定されて、親子関係がおかしくなった。
 五郎さんはどうして否定するのかさっぱりわからないけど、五郎さんは経済的弱者の無職の出稼ぎ労働者ってことで、なんにも知らない価値観で、中学3年生の純に才能があったり、こういうこと生かしたら社会で活躍できる片鱗を見せたのに、自分の機嫌で全否定してしまうわけですね。そんな態度をとるならば、富良野に移住して貧困生活を送らないで、東京で都市生活をして働けばいいって話です。

 
その一件で純と五郎さんの仲が悪くなってしまって、純はもう富良野にいたくなくて、東京に行くってことになった。中学卒業して、高校は働きながら東京の定時制に通う選択をするけど、そこから転落が始まってしまうわけですね。
 高校の定時制は環境が良くないから、不良グループみたいなのに入って、しかも働きながらっていっても、働いているところの環境も中卒の工場みたいなところ。ヤンキーだらけで環境が良くなくて、どんどんどんどん転落する。
 こんなことになるんだったら、中学3年生で風力発電を開発したとき、五郎さんだってそういう手作りで家作ったりしているのだから、お前すごいじゃないかってことで、なんか富良野の工業高校に行かせたら才能が開花して普通に幸せに生きることができたはず。なのに、自分の機嫌で否定しまくってそんなことになってしまった。
 高校の3年間は無茶苦茶重要だから、そこで転落したら、純はもう一生底辺なわけです。
五郎さんは自分が底辺だからって、すごく重要な場面で純を全否定したことによって、純の人生が終わるまでいかないけど、底辺を確定させてしまった。自己中心的なとんでもない毒親ぶり晒すわけですね。



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 その後、蛍もやっぱりやばいことになる。蛍は中学卒業して准看護学校に行く。准看護学校は旭川で、原生林の居住地から頑張ってそこまで通ったわけですね。
 電車に乗って通学して勉強しているとき、富裕層の大学生と知り合って恋愛関係になった。それが蛍の初恋、でも富裕層の大学生と、五郎さんの無職の出稼ぎ労働者と、あまりにも格が違う。その格差を蛍が引け目に思って、五郎さんにわからないように隠れてコソコソ恋愛するわけです。

 ふたりは惹かれあって仲良くなった。でも結局、五郎さんの存在が邪魔で、破局してしまうわけです。富裕層のめちゃめちゃ優秀な大学生とせっかく付き合ったんだから、これも五郎さんが社会的な、まともな人だったら、蛍もコソコソ恋愛しなくてもよくて、幸せな恋愛ができて、最高のパターンだったら富裕層に嫁ぐみたいなことも十分にあり得る展開だった。五郎さんは、とにかく子どもたちの足引っ張るわけです。


 破局した蛍は准看護師になって就職するけど、既婚者の医者と不倫して、根室に駆け落ちみたいなことをしてしまう。
 純は東京で転落、ガソリンスタンドかなんかのフリーターになって、蛍は既婚者の医者と根室に駆け落ちとまずいことになるわけです。

どんどんどんどん子どもたちがおかしくなって、揚げ句に蛍は妊娠する。不倫の医者の人と別れた直後、妊娠していることが発覚、それを五郎さんにどうしても言えなかった。
 蛍はめちゃめちゃ悩んで、自殺しちゃうかもしれないぐらい悩んで、地域の人もとても五郎さんにそんなこと言えないから、幼なじみの正吉(中澤佳仁)と、もうお前ら結婚しろってことになった。五郎さんに不倫と妊娠がバレないように、幼なじみ同士で結婚させて入籍という、とんでもないことをやった。もう、めちゃくちゃなわけです。
 根本的な原因はすべて五郎さんにある。けど、五郎さん自身が自分が最低最悪な毒親だってことになにも気づいてない。アッパラパーな感じで、もう底辺で生きることがフィックスになっている。

 この絶望的な末路を眺めて、本当に田舎は嫌だなと思ったし、底辺は嫌だなと思ったし、きついなあと思ったわけです。
 

子育てをしている人に言いたいけど、この五郎さん見てわかりますよね。子どもがやっていることを否定しちゃいけない。子どもが言っていることを否定しちゃいけないわけです。否定するとどんどん隠すようになって、物事がどんどんおかしな方向に進んでしまう。子どもの人生を潰した『北の国から』は、いい例です。
 だからまず、誰かと話す時に、否定はしないってことです。意識すれば、簡単にできるし、あなたの一度の否定で子どもの人生が潰れかねないってことを知りましょう。

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<著者プロフィール>
中村淳彦(なかむら・あつひこ)
ノンフィクションライター。無名AV女優インタビュー『名前のない女たち』シリーズ、『東京貧困女子。: 彼女たちはなぜ躓いたのか』、『悪魔の傾聴』などヒット作多数。花房観音との共著『ルポ池袋 アンダーワールド』(大洋図書)が絶賛発売中。Voicy「名前のない女たちの話」日々更新中!https://voicy.jp/channel/2962