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【第一回】関本郁夫・茶の間の闇 緊急電話インタビュー 自伝「映画監督放浪記」に寄せて

取材・文/やまだおうむ

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脚本作りに苦しんだ高島礼子版「極道の妻たち」

──「好色元禄(秘)物語」(75)や「大奥浮世風呂」(77)、「天使の欲望」(79)などでカルト的人気を誇る関本監督ですが、80年代以降のメジャー作品も見応えがあります。まずは1999年に始まった、現時点で本邦最後のヤクザ映画シリーズともいえる高島礼子版「極道の妻たち」(~05)についてお聞きしたいのですが、意外な俳優たちがこれまでにないヤクザを演じていますね。


関本 高島礼子版「極道の妻たち」は、ロードショー公開とはいえ都内では一館の公開でした。予算も岩下志麻版の三分の一で、フィルムも35ミリではなく、16ミリのブロウアップだった。そこで、中尾彬さんはじめ、テレビで一緒に仕事をした俳優たちに出て貰ったんです。これは推測ですが、16ミリということで、東映はギャラもテレビと同程度という条件で交渉したんじゃないかな。


──三田村邦彦や草刈正雄といった二枚目が、繊細な演技で悩めるヤクザ像を体現していて意表を衝かれました。


関本 彼らも、僕のテレビに出演した縁で出てくれた。それが逆に、意外性につながったのかも知れないね。


──何より、主演の高島礼子の佇まいに、従来の姐さんとは違う不思議な存在感があって惹き付けられます。


関本 高島君は「東雲楼 女の乱」(94)で、衣装調べの後、彼女のスケジュールが合わなくなって、役を降りて貰った経緯がありました。だから、どうしても実現したかった。僕は阪神大震災の時、その一日前まで撮影で関西にいた経験があって、一作目「赤い殺意」(99)では、崩壊した街を背景に、商社のOLが極道の息子と運命的な出会いを経て極妻になる物語を構想したんです。


──高島礼子が六平直政の脚を撃ち抜く場面は、静かな迫力がありました。


関本 脚本の中島貞夫さんは僕の師匠であり恩人でもある方で、一読して、ラストは見事でした。でも、展開部でダレると感じたんです。そこからホン直しが始まって、和久田正明さんにもノンクレジットで手伝って貰った。


──テレビ時代劇の脚本や時代小説を書いている方ですね。松野宏軌監督の「新・必殺仕置人」(77)の一挿話(第28話「妖刀無用」)で有名です。


関本 「金田一シリーズ」(93~97)は、彼と一緒に作りました。腕のいいライターでしたよ。「赤い殺意」では最終的に1シーンを使っています。・・・・・・まあ、そんなふうに、シナリオで悪戦苦闘していることがプロデューサーの(日下部)五郎ちゃんの耳に入ってね、「死んで貰います」(99)では、ヤクザ映画の第一人者で、僕自身も敬愛する高田宏治さんが入ってきたんです。インするまではプロデューサーが指揮を執る、というのが五郎ちゃんの考えだったのでしょう。「地獄の道づれ」(01)でも高田さんが、風格あるホンを書いてくれました。ヤクザ映画の脚本には、独特のセオリーがあって、簡単には書けないのです。

自宅で寛ぐ関本郁夫監督 (無断転載厳禁)



改めて目を瞠った、撮影監督・水巻祐介の魅力


──鴨川で高島礼子と東ちづるが壮絶な取っ組み合いを展開する「死んで貰います」にも驚かされましたが、4作目「地獄の道づれ」では、水巻祐介のキャメラが、いつにも増してサイレント映画のように流麗で、さらに深く見入ってしまいました。絵巻物のように、台詞がなくても画面の流れで全て判るといいますか・・・・・・。


関本 ラストでとよた真帆が、血みどろになりながら死んでいく場面は、今も覚えています。あのシャシンは、「死んで貰います」同様、評判が良かったんです。トップ・シーンは金沢で撮ったんですよね。砂浜で向こうに海が見える。そこで車を走らせた。私の母親が富山の新湊(現・射水)なものですから、行ったことがあるんですよ。


──北陸の暗い海が、透明感のある画調で捉えられていましたね。個人的には、木村大作のキャメラよりも好きです。


関本 それ言ったら水巻、大喜びしますよ。僕はテレビで、井口勇と水巻とを交互に使って、腕を競わせていたんです。監督として、ちょっと厚かましい考えだったんですけどね。それもあって、二人とは物凄い本数の仕事をしました。水巻は、僕と同期で、気心の知れた仲だった。当時、彼はもうキャメラマンは辞めると盛んに言ってたんですよ。でも、何とか「極妻」だけはやってくれと頼んだ。予算の関係で木村大作さんにはとても頼めなかったというのが実情だったのですが・・・・・・。実際、仕上がりを観て、水巻は何て巧いんだろう、と改めて思いました。

(第二回に続く)
次回は11月14日の掲載予定です

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『関本郁夫 映画人生タイマン勝負!』

滅多に劇場で掛からない作品も含め、関本郁夫の全てを凝縮した史上初の電撃的レトロスペクティブ。
2023年10月14日(土)まで ラピュタ阿佐ヶ谷(東京)にて開催!

無断転載厳禁

<著者プロフィール>
やまだおうむ
1971年生まれ。「わくわく北朝鮮ツアー」「命を脅かす!激安メニューの恐怖」(共著・メイン執筆)「ブランド・ムック・プッチンプリン」「高校生の美術・教授資料シリーズ」(共著・メイン執筆)といった著書があり、稀にコピー・ライターとして広告文案も書く。実話ナックルズでは、食品問題、都市伝説ほか数々の特集記事を担当してきた。また、映画評やインタビューなど、映画に関する記事を毎号欠かさず執筆。