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【昭和TVドラマダークヒーロー列伝◎前編】『傷だらけの天使』萩原健一VS『探偵物語』松田優作

オサムちゃんと工藤ちゃん。人間くさいそのキャラは従来のヒーローとは全く違う、男が惚れる男たちだった──

人間臭いキャラが魅力

 1974年に萩原健一主演でドラマ化された『傷だらけの天使』と、1979年に松田優作主演でドラマ化された『探偵物語』。いずれも、後に様々なパロディやオマージュが生み出されていることからもわかるように、当時の日本国民にとっては、それこそ“誰でも知っている人気ドラマ”であったことは、殊更言うまでもないことであるが、そもそもなぜこれほどまでに、この“二大探偵ドラマ”は人気を博すこととなったのか。
 双方に共通する特徴といえば、当時のドラマとしては斬新だった要素を多分に盛り込んでいるという点だ。たとえば、先行の『傷だらけの天使』は、それまでドラマに限らず、様々な作品でシリアス&ハードボイルド、頭脳明晰といったイメージが定着していた“探偵”という役割を、コミカルで親しみやすい粗野な若者キャラとして登場させ、その衣装も個性的。実際には売れ残った服を買い取る形で使用したものに過ぎなかったのだが、ドラマが大ヒットし、萩原演じる主人公・木暮修が大人気となったことで、巷には“木暮ファッション”を真似した若者たちが急増するまでになった。また、一言で言えば粗野でしかない振る舞いと、その奥に潜む優しい心根といった、独特な木暮のキャラクターが、当時の若者たちにとって、“新しい時代の男らしさ”ともいうべき魅力として捉えられ、そうした経緯から、ファッションのみならず、日常の立ち居振る舞いまでも木暮を真似るような若者も増えることとなった。それまでの刑事ドラマや探偵ドラマをはじめとした作品の中の“ヒーロー”の多くが、一般の若者たちにとって、ちょっとやそっとじゃ真似できないような、ある意味、浮世離れした“スタア”であることが中心だったことに比べると、木暮というヒーローは、初めて登場した親しみやすいヒーローであったとも言えるかもしれない。

裏社会に切り込む身軽さ

 一方、『傷だらけの天使』のヒットの後を受けて登場した『探偵物語』では、『傷だらけの天使』と同様に、OPシーンからして、主人公・工藤俊作をコミカル&ワイルドさを併せ持つキャラとして印象づけているが、木暮に比べ、工藤はより洗練された、都会風のスタイリッシュなキャラとして描かれているフシがある。しかし“都会風”といっても、現代の若者たちが思い描くような洗練されたものではなく、それは「都会」というものが持つ、光と影の部分を自由気ままに行き来するアングラ稼業の男、というようなニュアンスのものであった。また、『傷だらけの天使』では、木暮もその相棒・乾亨(演・水谷豊)も、劇中の社会では“イケてない若者”だが、工藤の場合は、そうした若者たちの成長後、進化系ともいえる、完成された若者であることも特徴。これは、両者の放映に5年のインターバルがあり、視聴者である若者たちが現実社会で成長したことに合わせる形での配慮であったのではないかと考えられるが、いずれにしかり、アングラ要素のあるスタイリッシュさというのは、いつの時代も若者が憧れる定番要素の1つ。そうした意味で松田が演じる工藤は、新しい時代の訪れを感じさせるヒーローであったといえるのかもしれない。
 これら2作品は、当時の若者たちに対して、カルチャー的な意味で、大きな影響を与えることとなったが、そのいずれもが、“ダークヒーローらしい結末”を迎えていることも興味深い。木暮は相棒の亨がしょもないキッカケから肺炎で死に、その遺体を埋立地である夢の島に遺棄するはめになるし、工藤も仲間の仇討ちを成し遂げた後に暴漢に刺されるという、それまでのコミカルさがすべて吹き飛ぶような、絶望的ともいえるバッドエンドとなっている。正統派のストレートヒーロー作品にはないような、こうした結末も、これらの2作品と、2人の主人公に、今なお多くの人々が魅了され続ける理由のひとつであるといえそうだ。


取材・文/ハヤシイスケ