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「わたしは一般の女性と違う。セックスで金を取るのは正当」男たちはなぜ金を貢ぎ、殺されたのかーー|首都圏連続不審死事件・木嶋佳苗

2009年8月、埼玉県富士見市の駐車場内で発見された41歳男性の不審死を巡り、交際していた木嶋佳苗が結婚詐欺の容疑で逮捕された。木嶋は死亡男性のほかに婚活サイトで知り合った多数の愛人がおり、そのうちの数人も過去に不審死を遂げていたことが発覚。計3件の殺人罪などに問われ、2017年5月、死刑が確定している。
週刊誌記者として殺人現場を東へ西へ。事件一筋40年のベテラン記者が掴んだもうひとつの事件の真相。報道の裏で見た、あの凶悪犯の素顔とは。

「性の奥義を極めたい」

 1審の死刑判決から1年半が経った2013年10月17日、東京高裁に木嶋佳苗(38)が出廷した。
「赤地に白の水玉が入ったワンピース姿。名前を尋ねられると、小さな声で答えた。傍聴席から『少し痩せたのでは』との声が」
 報道各社は木嶋佳苗の一挙一動に注目した。それは、さいたま地裁で開かれた法廷が木嶋佳苗座・独演ショーと化していたからだった。幕が開いたのは2009年10月。
「連続不審死。1億円貢がせる。結婚詐欺容疑の女聴取」
 メディアは匿名の“東京・豊島区の女”を一斉に報じた。しかし、女の顔はすぐに晒された。世人が抱いていたイメージは、バットで殴られたように壊された。

料理好きでネットにも頻繁にアップしていた木嶋佳苗。
家庭的な一面に男たちは騙されたのか

 10月29日、わたしは木嶋佳苗の生い立ちを取材するため北海道中標津空港に降り立った。故郷の別海町は人口1万6千人、その十倍近く牛が飼われる酪農の町である。司法書士事務所を営む祖父は町議会議長を務め、父は祖父の下で働き母親はピアノ講師。地元名士の娘が起こした犯罪に、小さな町はてんやわんやの騒ぎかと思いきや、同級生の男性は「然もありなん」と淡々と語るのであった。
「頭が良く、中学では“キジカナ”だけ特別に高校のドリルをやっていた。中学2年の時に『中年のおじさんとアパートに一緒にいた』と噂になりました」
 キジカナの男の噂は小学生に遡る、と親しかった女性が言う。
「小学3年生で、身体は18歳ぐらいの女性と同じぐらい成熟していました。4年生で生理が来ていたし、キジカナの初体験は6年生でした。あるとき『従兄弟のお兄ちゃんとHしちゃった』と、当時わたしはHの意味が分からないので聞くと、セックスだと教えてくれました」
 小学6年生で妊娠の噂が立ち、担任が生徒を集め説明会を開いたという。中学では援助交際の疑惑が持たれる。男子同級生が語る。
「中学校にタクシーを呼んで帰っていました。クラスの男子にCDや服を買ってくれるのでキジカナは人気がありました。金の出所が中年のオヤジだとみんな知っていました」
 中学2年生の時に知人宅から通帳を盗み祖父が尻ぬぐいするなど、殺人以外の犯罪は体験済みだったのだ。

 3件の殺人と詐欺および詐欺未遂、窃盗が問われた初公判は2012年1月さいたま地裁で開かれた。木嶋佳苗の口から飛び出す証言は下手なエロ小説よりそそられる。
 デートクラブの相手の男にどこを褒められたのか、との弁護人の問いに「テクニックというより本来持っている機能が高いということで」と自身の名器を誇った。裁判官には「わたしは一般の女性と違う。いろいろ研究していくうちに、性の奥義を極めたいと。セックスの対価としてお金を受け取るのは、それなりの努力をしているので正当な報酬」と宣った。あけすけに性を語る木嶋佳苗に羨望か好奇心か、追っかけの女性も現れた。
 法廷証言で明かされた12人の男から巻き上げた金額は約1億4千万円。逮捕時に同居し、最後に金を詐取された千葉県在住のAさんに話を聞くことが出来た。
「婚活サイトで知り合い、翌日には彼女の池袋のマンションで会いました。お菓子教室を開きたいというので合計450万円を渡しました。4日後にうちに越して来たのですがわたしは1階、彼女は2階で寝ていたので男女関係はありません。料理が絶品で食後にサッとお茶が出る。家庭的な彼女に、結婚を真面目に考えましたね」
 介護していた母親が亡くなり、心の拠り所が欲しかったのです、とAさんは苦笑いした。逮捕後、家の7個の火災報知器がすべて無くなっていた。
「わたしも狙われていたのでしょう」
 正直、デブで美人でもない木嶋佳苗にどうして男たちは金を貢ぐのか? この世には分からないことが多すぎる。

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小林俊之(こばやし・としゆき)
1953年、北海道生まれ。30歳を機に脱サラし、週刊誌記者となる。以降現在まで、殺人事件を中心に取材・執筆。帝銀事件・平沢貞通氏の再審請求活動に長年関わる。