電動自転車ごっこ

私が密かにやっている遊び、電動自転車ごっこ。坂道で自転車を立ち漕ぎせずに電動自転車のようにスーッと上りきるという遊びだ。

子供の頃にやっていたとか誰かと一緒にやるとかではなく、成人してから1人でやっている。

ポイントは、ギアは重めで姿勢はできるだけ前かがみにならないようにすることだ。上り坂で重いギアにするのはギアの役割を完全に無視した使い方であるが、電動自転車っぽく見せるためには一漕ぎで大きく進む様子を演出する必要がある。また、苦しさを微塵も感じさせない姿勢の良さも重要だ。

もちろん立ち漕ぎはしないし息があがらないように努めるので、坂を上りきる頃には疲労困憊である。

それでも、歩行者や他の自転車から羨望の眼差しを受けていることを信じていたし、電動自転車ごっこにどこか達成感を感じていた。電動自転車ごっこをライフワークにしようかなとも考えていた。


先日、本物の電動自転車が現れた。

一瞬だった。

真後ろに来るまで近づいてきたのさえ気づかなかった。

スピードも力強さも姿勢も息遣いも、何もかもが違った。


行きの上り坂は帰りの下り坂になる。上り坂の電動自転車ごっこはやめた。代わりに下り坂の夏色ごっこを始めた。

まだ夏は遠いけど、そんなに長くもない下り坂だけど、後ろに乗せる人もいないけど、
ブレーキいっぱい握りしめてゆっくりゆっくり下っていく。

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