今年やった写真展と紙の選択の話

たかが紙、されど紙

白を白く表現するということ

撮った写真をプリントして人様にお見せするようなことを始めてから数年経ちますが、未だにプリントに使う紙の選択には頭を悩ませることが多いです。
そもそものことの起こりは、写真において白をどうやって白として表現するか、ということ。この話、写真だけではなく絵画の世界でもキャンバスや画材紙の選択は大きな課題のようなので、当然奥が深いし突き詰めていくと結構なことになってしまいます。
プリントでの白は紙の色でしか表現できない、いわゆる土台のようなものなので、ここが変わると作品のテイストが一気に変わってしまうくらいの結構重要な問題だと認識しています。

RGBとCMYKという闇

言うまでもないですが、写真の色空間はRGBで表現されます。フィルムから銀塩プリントするのであれば、それって美味しいの?で済みますが(印画紙のベースの色や、感光剤による影響は無視できないですけどそこは今回は置いときます)、色空間も通常のsRGBと拡張色空間となるAdobe RGBでは一部の色域が変わってきますので、そこは撮影時に押さえておく必要があります。
デジタル画像をプリントするとなると、CMYKによる色表現に変換されますので、いざ印刷してみたら、「あれっ?」ということになります。さらに
白のベースが使う紙によって変わってきますから、その色乗りの補正もする必要が出てきます。また使用するプリンタの色の癖、インク種類(染料とか顔料とか)も絡んできますので、モニターで見た目通りの写真をそのままにプリントすると言う作業は実は面倒な話だったりするわけです。
私はこの色空間の変換作業(と色味の確認)と印刷用紙への適合(ICCプロファイルの当て込み)をAdobe PhotoShopで行ってますが、これは撮って出しだろうと、LightRoomを使って現像やレタッチ作業を行なった後であろうとプリントする以上は必要な手順だと割り切ってやっています。

紙の選択

写真用プリント用紙もそれだけで家電量販店で大きなブースを占めるくらいの種類があるわけで、数多ある紙の中から自分の作品に合う紙を選ぶと言うのはこれまた結構面倒な作業です。とりあえず紙の光沢(超光沢〜無光沢)と白色度、さらに素材まで含めるとこれは一種の沼ですね。
自分の中で標準となる印刷用紙を決めておいて、展示内容や意図を踏まえてそこからどう展開するかを考えるのが結局は早い感じがします。
フィルムの場合はデジタル化してから印刷するか、ラボへ出して、印画紙へ焼き付ける、と言う選択もありますが今回はそれは置いときます(またか!)。
私のベースはピクトリコのセミグロスペーパーのOEMとも言うべきヨドバシカメラのA4のオリジナルフォトペーパー(半光沢紙)を使ってます。
そこから光沢紙ならピクトリコのプロフォトペーパー、シャイニーブルー、シャイニーゴールドなど、半光沢紙なら前述のセミグロス、微光沢紙ならソフトグロス、スムースフォト、無光沢を選ぶ場合は和紙、画材紙など、あまり使わないのですが、超光沢ならメタル紙とかホワイトフィルムなどを使うことになります。
和紙はアワガミファクトリーの紙だと各社プリンター用のICCファイルもあって結構便利です。和装の写真にはアワガミの竹和紙を頻用しています。
画材紙だとピクトリコならレッドラベルプラス、無茶苦茶高額になりますが、Canson Infinityのものが手元にあります、
その他パール紙とかメタルマット紙とかあげていくとキリないのですが、紙選びもなかなか楽しいです(沼の住人)。

展示の実例

プラスポートレート2022(+p2022)

+p2022(2022/2/24−27)

A3ノビのメイン、A4の6枚はアワガミファクトリーの竹和紙250g/m^2を使いました。また周囲の小さい方はやはりアワガミファクトリーの白峰手漉きはがき260g/m^2を使いました。
会場の照明がどうなるか分からなかったことと、無用な照明からの反射を避けるための無光沢紙の選択です。直貼りにしたこともあって結構いい雰囲気を出していました。

Real Portrait Tokyo 2022

リアポ東京 (2022/6/7−12)

壁面のサイズを目一杯使って1枚だけの展示にしようと思ったので、A2サイズのプリントをピクトリコに依頼し、それを額装しました。
この展示は絵画風な印象を持たせたくて、紙はピクトリコのGEKKO レッドラベル プラスを使いました。
いい感じではあったのですが、周囲の写真が結構彩度高めでインパクト重視的な感じだったこともあって、少しおとなしすぎた印象でした。

Petit撮影会2周年記念写真展

petit展2 (2022/7/11-17)

可愛い感じの写真が多いだろうと言うことが予想されたこの写真展は、少し地味だけど印象に残る展示を目指そうと思いました。
ベースに使ったアルミのプレートとの馴染みも良くて、結構好評でした。
使用した紙はピクトランのシルバーマットというメタル紙です。
メタルなのに艶消しマットというのがちょっといい感じで、夕刻の光の変化を巧く表現できたのではないかと思っています(自画自賛)。

+ps Plus Portrait Summer

+p summer (2022/7/19-24)

過去5年分(2020年は着物が借りられなかったのでなし)の角館の桜と着物の撮影をまとめようと思いまして、着物といえば和紙だろうってことでこちらもアワガミファクトリーの竹和紙250g/m^2を使いました。
ただ、バックのアルポリプレートとの相性なのか、和紙が持つ風合いが何となくですが損なわれた感じがあります。展示室内の温度と湿度の変化で和紙が締まった、ということはあったかも知れませんが。
ただ、色味という点では、モデルのmarinさんの肌の色を最も綺麗に見せる撮影設定と紙の組み合わせだと思っているので、そこは間違いなかったです。

秋元るい展4

秋元るい展4 (2022/8/3−8)

クールで格好いいるいさんの写真を展示するということで、この2点を選んだ段階で、紙はほぼ自動的に普通ではないものを選ぶという方向に行きました。
左のキャンフルメイドの夜撮の写真はバックストロボの光が綺麗に出ていたので、それを生かすべく金属光沢が出せるピクトランヘアラインを使いました。
右のシルバーウルフは妖艶な感じとゴージャス感を出したかったので、こちらはパール紙のピクトリコプロ・シャイニーゴールドを使いました。
こちらの意図する作品になったようで、展示はなかなか好評でした。

次の展開

沼で溺れないように

白を白く出したいという話を冒頭にしましたが、やはり綺麗な写真を綺麗な色で表現したいというのは突き詰めていきたいですね。
また展示手法と紙質との相性、アルポリプレートを使った展示の深化なども引き続きやっていかないと、とは思います。

その一方でローキーな写真にも手を出したいという欲求もあって、これまた紙の選択が難しいこともあってまだまだ試行錯誤は続きそうです。
ただ、輸入物の画材紙の値段が驚くほど高騰しているので、CansonやIlfordにはなかなか手が出し難くなってきたなというのが率直なところです。

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