呼び名のこと
夫はかつてわたしのことをぶうちゃんとよんでいた。
言葉が出るのが遅かった夫の甥っ子が、しゃべるようになったら何に対してもぶうぶう言っていて、それが可愛かったので、私のことをぶうちゃんとよぼうと思ったらしい。あくまでも、可愛かったからのぶうちゃんであり、まるっこいからぶうちゃん、ではない(と今でも思っている)。
ぶうちゃんはあるときからぶっちになったりもした。しかし、流石にこっぱずかしい気持ちになったのか、人前では私のことを名前でよぶようになった。そして、夫が私をぶうちゃんとよぶことはなくなった。
20年前、妊娠した時、ぶっちのおなかにいるからぷっちだね、とおなかの胎児にぷっちと名付けた。ぷっちは生まれた後、なかなか名前が決まらなかったので、ぷんちょ、と我々はよんだ。小さいという意味のチューティーをくっつけて、ちゅーてぃぷんちょ、とよぶこともあった。
そして、なぜか、我々はぷんぷんとよぶようになった。ぷっちがぷんちょになりぷんぷんになる、あだ名が変化を遂げるのは、まあよくあることだとは思うけれど、我々は息子をぷんぷんとよんだ。
そしたらどうなるか。
息子も自分のことをぷんぷんとよび始める。そりゃ当たり前だ。息子は自分のことを表現するときにぷんぷんというようになった。
小さな子が自分のことをぷんぷんというのはとてもかわいらしい。想像してみてほしい。2歳くらいのカーリーヘアの男の子がぷんぷんと言いながら遊んでいる姿を。三輪車で暴走しながらぷんぷんと言っている姿を。
そしていつの日かカーリーヘアはどこかに消え、剛毛になり、ひげも生え、胸毛も生えて、まあ他にもいろいろ息子は大人になった。
でも今でも日本語を話すとき自分のことをぷんぷんという。
面白いから直さないし、僕とか俺とか私という日本語の語彙を持っていないからぷんぷんとしか言いようがないんだと思うけど、もうこの際、爺さんになるまで自分のことぷんぷんって言って欲しい。
呼び名でふと思い出した。
私、夫のこと呼び捨てにできないのよ・・・
25年一緒にいて名前で呼べないなんて。
なんなの私、恥ずかしがり屋なの?!
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