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最低気温

思い出したように水を遣っているせいで我が家の観葉植物はいっこうに生長している気配がない。まるで身長が伸びなかったじぶんを見ているようで呆れる。毎日欠かさず牛乳飲んで夜更かししなければ背が伸びたか? と言えばノーだが。これはまぎれもなく遺伝である。

土曜の朝に3回目のワクチンを打って副反応で丸三日寝込んだ。3回目の副反応は大したことないとか言ったやつはだれだ。「3回目はそうでもないんですよね!」と調子に乗って予診でそう医師に尋ねたら「いえ、2回目と同等かそれ以上の副反応が予想されますが……」と冷静に返され、動揺して、接種したその足で近所の喫茶店へケーキを食べに行った。おいしかった。喫茶店からスーパーへ向かう道すがら、路上生活者のおじいさんが鳩にパンくずをやりながら「実は2代目のプーチンがそろそろ出てくるってぇ話だぜ」とぶつぶつ独り言を言っていた。独り言にしては面白そうな話だったのでうっかり話しかけそうになった。2代目のプーチンってなんだよ。

スーパーでは寿司とドーナツを買って帰った。いつも寄らないスーパーなのでいつもお目にかかれないようなものが売っていて浮かれたので、これから具合が悪くなるのだというのに浮かれたものばかり買ってしまった。果物も買おうかと思ったが、皮を剥いたり切ったりする余裕はなさそうだったからやめておいてよかった。気がつけばいちごがずいぶん安くなっていた。春ですね。

帰宅してからは熱が出る前に家事と仕事を済ませ、日が暮れる前に『映画ドラえもん のび太と鉄人兵団』を観ながら寿司を食べて寝た。この映画はとにかくしずかちゃんがとてもいいのだ。あとスネ夫のスノッブさもちゃんと際立っている。最近のアニメ版での成金的? なスネ夫をめぐって、「スネ夫はただの成金キャラじゃなくて教養あってこその嫌味を言うキャラだったのに」みたいな論争をつい先日見かけたのを思い出し、なるほどねと思った。時代の変化なのか単に子どもの視聴者への配慮なのかわからないが。わかりやすいものを作ろうとするなとは思う。


0時前に全身の激痛にうなされ、そこからは2時間おきに目が覚めてほとほと参った。2回目と同等かそれ以上の副反応。そうですね。おっしゃる通りでございます。とにかく寒くて、iphoneで確認できる範囲の外気温からすれば気持ち悪いくらいに暖房をかけて湯を沸かした。衣擦れすら痛みに拍車をかけるので満足に寝返りも打てず、まあとにかく参った。降参したって絶好調にはならないのは戦争といっしょ。どうしたらいいか誰にもわからない。

寿司とドーナツを買って満足したがために薬や保冷剤の準備をすっかり忘れていたのだが、家に残っていた、一番高価なバファリンが非常によい働きをしてくれて、鎮痛効果が切れたら飲むことを何度も繰り返して(もちろん用法に沿って)どうにか連休のうちに乗り越えた。バファリンはバファリンでも名の後ろにプレミアムDXと付くだけある。市販薬は遠慮なく高いものを買うべきだ。たぶんこいつは半分以上優しさでできている。愛と勇気とか。

月曜の夕方に微熱がやっと下がり、あとは半身の痛みがなくなれば完治。まあ今晩寝ればなんとかなるだろう。

明日から仕事に戻らなければならないので半ばリハビリのようにして日記を書く。結局寿司は食べられたがドーナツは胃が受け付けなくて早々に冷凍庫送りにしてしまった。あとはうどんと残りのごはん。常日頃から異常なほど異常事態に備えている(もはや夢見ていると言ってもいい)おかげで、たぶんこの家は2週間くらいは外部からの補給なしでも問題なく生きていける。水はそんなにないから水道が止まったらちょっと困るけど、電気とガスは止まっても多少なんとかなりそう。備えあれば憂いなし。備えておく空間と経済的余裕がじゅうぶんにあるのに家に生活物資をほとんど備蓄しておかない人のことをよく理解できない。本当に困った時誰かに分け与えてもらうんだから、ひょうひょうとしてるなよなと思う。生きるのに貪欲ぽくてきっとダサく見えるのだろう。けっこうです。いや生きるも死ぬもなく、美学としてあらゆる戸棚はみつしりと詰まっていたほうがいいでしょう。どう考えても。

身体の調子が悪ければ当然良い夢にありつけるわけもなく、終わらない仕事はもちろん、マンションの廊下で珍獣に追われたり、逆さまの食堂で見知らぬおじさんと氷ラーメンを取り合う夢などを見た(文字に起こすとまぬけだがこれはまぎれもなく悪夢なのだ)。あれもこれも書き残しておかなくちゃ、と思うわりに脳も指先も動かず、こんこんと眠って3日も経ってしまったことがただ信じられない。ああもったいない。ワクチン、4回目を打ってくれと言われたらさすがに考えものだと思う。何度もこんなことを繰り返してられっか。

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