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細かすぎる英文契約解説(第1回)〜As of とDatedの違い〜

この留学で力を入れた学修の一つに、英文契約のドラフティングがあります。インハウスロイヤーとして、英文契約のドラフティングはそれなりの数をこなして来ましたが、本場のドラフティングの授業を受けて、いろいろな発見がありました。個人的に新たな学びがあった点を整理して書いていきたいと思います。

第1回はAs of とDatedの違いについてです。

通常、As of もDatedも契約の発効日付を表現する時に使いますね。例えば、

(1) This Agreement made as of April 1, 2022, by and between…
(2) This Agreement dated April 1, 2022, by and between…

などと記載して2022年4月1日に本契約が発効したことを示します。

ところで、この二つの表現は場面によって使い分ける必要があることはご存知でしたでしょうか。私もこの留学で教授に教えられるまでは知らなかったのですが、as of は発効日と署名日が異なる場合に使い、Datedは発効日と署名日が同じ場合に用います。

別にどちらでもいいだろう、という率直な感想ではないかと思います。ただ、拙いながらも個人的な英語と契約成立の感覚からすると、やはり双務契約は両者の合意が合致した時に成立するのであり、その「時」を素直に表現するのであればDatedが直裁的かつ自然であろうと思います。

一方で、ケンブリッジディクショナリーによれば、as ofの意味はstarting from a particular timeです。(https://dictionary.cambridge.org/us/dictionary/english/as-of)

つまり、as of は合意の時点を表現するというよりは、何かの開始時点を示すときに適切な用語といえるでしょう。ここまでみて比較してみると、as of については、datedという客観的な日付を記載するのではなく、特定の契約開始日を合意したというニュアンスが滲み出てくるような気がします。

言い換えれば、as of April 1との記載だけある契約書では、「契約開始日を2022年4月1日と合意したことはわかったが契約の成立時点はいつなのか厳密には書いていない」とのツッコミもあり得るかもしれません。このように考えると、署名日が別途記載されており、その署名日と発効日が違う場合にのみas of を使うという整理も合理的です。

もちろん、日本の大手の企業や法律事務所でも、両者を区別せずに使っている契約書は多いと思われますし、この混同が直接的に何か紛争を引き起こすものでもないでしょう。むしろ、細部にこだわり過ぎることのコストも考慮すべきとさえ思います。そもそも発効日を署名日と分けることが重要な契約であれば、発効日の条項を独立して設けるのが良いでしょう。

ただ、少なくとも米国人のドラフトを読んだり契約を修正したりする上で、このような用語の使い分けがあることを知っておくことは有用であろうと考えます。また、契約の成立時点が紛争の争点になること自体はよくあり、このような書き分けが一つの考慮要素にもなり得るでしょう。そして何より、細部まで用語の統一がされた契約書をとても「美しい」と思い、起草者に少なからず尊敬の念を抱きます。

個人的に細かい知識をひけらかして契約のダメ出しをする法務担当者に少なからず嫌悪の感情を抱くことも多々あります。ただ、テーブルマナーと同様に、個々人がより洗練された契約書を目指すことは推奨されるべきだろうと思います。そのような趣旨で、一見細かすぎるような英文契約に関する気づきを(五月雨式になると思いますが)今後も書いていきたいと思います。




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