オースティンみたいなやつ

完璧な計画に沿った狂いのない人生の対岸に、私の生活があります。仮に「規則正しさ」「無駄のなさ」を人の基本とするなら、配属先の先輩方から歓迎のサッカー鑑賞会に誘われ、飲みすぎてさいたまスタジアムを一人後にしたばかりか、気づいたら終電で上野駅に着くなどという弾丸宇都宮トリップを人知れずこなし帰れなくなった私はきっと人の道を外れているのでしょうか。
そうじゃないと言って欲しくて反意語で結ぶのを許して、共感してくれる方だけ読み進めて欲しいものです。

こんばんは、「冗談」と申します。都内でサラリーマンをやっております。

そんなミスも内省するばかりか34年染み付いた個性として絶え間なく自己肯定し続ける日々を過ごしています。会社でクビ同然のミスをかまし続けても「お前はハイリスク、ハイリターンだから採用したんや」と後日談をくれた採用時のボスを父親のように慕い、その言葉を免罪符のように掲げ失敗と失敗と失敗と失敗大きめの成功を繰り返しつづけて生きています。偉くなったお父さん、元気ですか?クビにしないでくれてありがとう。

そんな私にとって耐え難いのはノーミス至上主義が服を着て歩いているような人間に、「ミスってなに?」「しんじらんねえ」みたいな顔をされる瞬間です。

一番覚えているのが失敗のない人生が当たり前と思っている、大学受験で早慶上智、新卒で当たり前に4桁末から5桁の社員規模の大企業に勤め、それほど偉いポジションではないのにタワマンに住んでますというような人間に、我が家が火事になった話(原因俺)を聞かせた時のあの表情。

誰が好んで、ダイナブックとマジックザギャザリングのデッキ4つ、これまで読んだ全ての本とレコードと書いた日記と全学校の卒業アルバム、そして23年間集めた衣服を全部燃やしますか。
誰が好んで、衣食住の66%を自分で消し炭にしますか。だれが、その実況見分の際に優しい署長から15分なだめられあんしんさせられた後に、怖い顔した副署長から「最近、家族と仲悪かった?」などと、あの刑事物でよく見るグッドコップバッドコップをやられ、放火の線で取り調べを受けたいですか。(火事の話はまた今度書きます)

でもね私は、愛の総量がでかい私は、そんな顔してきたやつにも酒場で隣になっても、ご挨拶と駄話をしっかりと提供し「冗談さんと話して楽しかった、LINE交換してください」といわれても、LINEIDは与えても魂と私からの発話の機会だけは売り渡さないと決めているのです。

こういう出会いよりかは酒場でイキリ野郎に出会う方ががまだマシというものです。先日は髪型もメガネもスーツの着こなしもオースティンパワーズそっくりのサラリーマンとカウンターで一緒になり、彼がいかに本当は暴力的か、サイコかという話を聞かされ続けたのですが、サイコなやつはそもそも自分をサイコと言わないからサイコなのであるという前提と、オースティンパワーズと寸分狂いない見た目である点から、彼はサイコでないばかりかただの善良なオースティンパワーズのフォロワーなのでしょう。「オースティンパワーズのフォロワー」?

は?

と思ったところでサイコ気取りのエセサイコ話にも飽きたので、「オースティンパワーズって知ってます?」と、こいつがオースティンパワーズではないという事実以外全てがオースティンパワーズな人間に問いましたところ、「オースティンパワーズってなんすか?」と、オースティン。

酒場に必要なのはこういうやりとりであって、ノーミス至上主義野郎の予定調和な人生なんぞこれっぽっちもおもしろくねえやい、とエリート達を僻みながら「明日彼女とデートだからもう帰る」と23時でバーを出たオースティンを見て、てめえ明日の計画のためにちゃんと帰るじゃねえか、サイコじゃねえじゃんと思いながらもう一杯酒を飲み、結局歯医者で親知らずを抜く前日なのに朝まで飲んでいた、私自身がサイコなのかもしれません。

さて今宵も脳のリソースを一ミリも使わない駄文にお付き合いいただきありがとうございました。次回は火事の話か、飲みすぎて水曜に国府津で降りたら、人生一長くて怖いタクシーに乗った話をお届けします。それではまた。

joedann 20210205

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