トラブルメーカーの選手の本音

久々に低学年のTRを見た。ミニゲームでゴール前の攻防が熱く繰り広げられている中、後ろの方でなにやら取っ組み合いが起きている。

「あぁ、いつものAくんね。」

心の中でそう呟きながら駆け寄った。

Aくんはだいたい対人トラブルを起こす。学校でもあまり評判が良くないらしく、TRをしていても2日に1回はなにかしらの喧嘩やトラブルで大人に怒られては、輪から退場させられて、本人も戻ってくることはなかった。

こういう時、まず自分はどちらかに肩入れせずに事実だけを聴きとるようにしている。「ムカついた」とか「あいつが悪い」みたいな言葉はいらない。"何が起きたか"だけをAとBに徹底的に聞く。徐々に冷静になったBくんから口を開きはじめた。

俺が見たのはAがBに掴みかかって蹴っている場面だったが、どうやら話を聞いているとAは最初Bが口走ったチーム分けの認識が間違ってることを指摘したらしい。それを間違ってる間違ってないの水掛け論にしてしまい、あげくヒートアップしたBが悪意のある強い言葉を使い、逆上したAが手を出したようだった。

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子供の喧嘩の常でもあるが、結局紐解いていけば(大人からしたらクソ)どうでもいい、どっちが悪いとかすらないようなことが原因だ。

「元々悪意がない同士が揉めるのは意味ないしもったいないよ。怒られてる時間は面白くもないだろうし。でも手を出したり、悪意のある言葉を使ったりすると、その時点で悪者になっちゃうし、それはめちゃくちゃ損だよ。」

その言葉にBくんは納得したようだが、Aくんはまだバツが悪そう。
いつもならここで閉廷して終わらせるが、Bを帰したあと、もう少し言葉を変えて「なぜ手を出したのか?」聞いてみる。この一回だけでなく、なんども手を出してしまうことが気がかりだった。

しばらく拗ねて(あるいは考えて)黙り通していたAくんだが、勝手に責めないことを徹底しながら伺っていると、ようやく意を決したように教えてくれた。

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『学校でもいじめられたりして最初は先生に言ったりしてたけど、先生はまたAか、って言って俺を悪者にしてきた。それからは俺のことをからかってもいい雰囲気もちょっとあるし、何回大人に訴えてもそうなる。』

『だからもう大人に言っても意味ないし、自分でやり返すしかないねん。』

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涙を流しながら、でも勇気を持って告白してくれたその言葉にかなりショックをうけた。

なぜなら俺自身もまた小中学生の頃は(いじめられていた訳ではないが)同じようになにかのはずみで悪循環に入ってしまい自分だけが悪者にされる日々が続いて、周りの大人すら頼れない孤立した心情だったからだ。自分の場合はその本音を結局誰にも話せないまま大人になってしまった。

あの時かけられた言葉や振る舞いが、今の自分にも呪いのように刺さっている。

自分にはついぞ他人に話せなかったことを、彼が俺に向けて話してくれたからこそ深いショックをうけたのだった。

Aくんと俺の境遇は他にも似ているところがある。そもそもトラブルメーカーだったこと、片親でどうしても親と接する時間が少なく、故に信頼できる第三者を作りづらかったこと。

いろんな家庭の事情はそれぞれにあるし、事情があるからと言ってそれが良い方に転がるか悪い方に転がるかは人と環境と運による。
だが、今回はAくんの気持ちが痛いほどわかった。

勿論全て自分が正しい訳ではないし間違ってることはある。自暴自棄な行動は余計なトラブルを生んでしまうだろう。それはチームにはいらない種だ。

でもそこには今まで誰にも話せなかった根元があった。ここでAくんを見捨てたら、もう彼が本音を話すことはなくなるだろうし、露悪な振る舞いをやめられなくなるだろう。そう確信した。

他のコーチからもう放っといて指導に戻ってくださいと言われた(その判断は絶対的に正しいと思う)が、どうしてもとお願いして特別に時間を少し作ってもらい、本人の勇気に敬意を評して伝えることにした。

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「実は俺もAくらいの歳の頃はそうだった。毎日トラブルを起こして先生に怒られてたし、自分が悪くない時でも悪者にされた。学校中で俺の評判は悪かった。ムカついて余計なことしてまた怒られたりもしたよ。今はいかにも善い人そうな見た目してるけどね笑」

「正直今この歳になっても俺は悪くなかったなと思うことは全然あるし、クソな大人も沢山いると思うんだよね。勿論俺もコーチって名札がついてたら偉そうにみえるけど、間違えることは沢山あるし。」

「だから、Aのいうことが本当だったとしたら、それは絶対周りの大人が間違えてるし、お前は悪くないよ。」

「他の全員がお前のことを決めつけても、俺は一方的に決めつけたりしないし、お前が間違ってなかったら一人でもお前の味方になるから。」

「だからこそやり返す時に暴力に頼ったり、悪意のある言葉を使うのをやめよう。お前は悪くなかったはずなのに、それをしちゃった時点でお前も悪くなっちゃうから。」

「嫌なことしてきたやつと同じレベルに落ちるな。それを続けてると気づいたらものすごく低いレベルになっちゃう。」

「嫌なやつが持ってる世界はとっても狭いんだよ。サッカーでもスペースを見つけて大きな世界観を作れる選手になれって言ってるよね?それと一緒で、嫌なやつがいたらそんなやつは放っときな。まわりをみたらもっと広くてかっこよくておしゃれで好きにできる世界があるから。」

その間にも次から次へとこれまであった嫌なことエピソードが出てくるが、一つ一つほぐすように心がけて話した。

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先の通り、俺の学校生活は嫌な思い出がほとんどだ。事情も聞かれずに自分がいの一番に怒鳴り散らかされるのは毎回のこと、先生から露骨にハブられたり、今はようやく問題視されている意味のない校則も当時は受け入れて当たり前だったので、自分だけ反発して教師陣から執拗に詰められたこともあった。

だけどその中で少なからず自分の支えになってくれている思い出もある。

ある先生は問題ばかり起こしていた小2の俺に手を焼きながらもしつこく「お前は男の中の男やから」「いつかわかってくれると思うから」と言い続けてくれていた。

色々な事情を差し引いても自分が悪いことばかりしていたのは明白だが、この先生が諦めなかったおかげで今回Aくんとも向き合えたんじゃないかなと思う。

この時期に出会う言葉や態度は本当にその後一生を左右する呪詛にも守護にもなる。”先生”の言葉は今でも時々自分のお守りのようになっていて心の中でぐっと握りしめる時がある。

俺はAくんにとってそういう存在になれるだろうか。グラウンドは彼の居場所であれるだろうか。

今回彼はしばらく冷静になる時間をとったあと、自らの判断でゲームに戻っていった。仲違いしたBくん共々元気よくプレーしていた姿をみてコーチと「成長しましたね」と確認しあった。


サッカーは少年を大人にし、大人を紳士にするスポーツだ。


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