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【オリジナル小説】ブラックホール病【続】

↓前回の続きになります。コツコツ書いていこうと思いマッスル!


終わりの始まり


「でさー俺名前もつことにしたわ」
「は?マジで?なんで?」
驚くこいつの顔は意外と嫌いじゃないと思いながらあの時のことを思い出す。
片腕が無くなっているにも関わらず、あの警備員は先生とかいうやつをもう片方の腕で抱き締めていた。「まだ名前を聞いていません」と泣きながら。

先生が無線で事細かに今の状況を伝えてくれていたおかげで救急班やら警備班やら、特に何もできないけどと言いながら何か助けになりたいと思うやつらがあっという間に駆けつけることができた。みんな助かったのだ。
俺とこいつもあの親子のことが気になって現場に向かったのだが、そこで見た光景があの警備員だ。まぁなんとも悲惨な状況であるのに、可笑しくて仕方なかった。
あの親子はというと倒れて気絶していたが無傷だった。そして奇妙なことにその親子の周りにはあの怪物化した時のような黒いどろどろしたものが広がっていた。

「なぁお前なんて名前にすんの?」
覗き込むこいつの目はいつもより輝いていた。
「まだ決めてねぇ」
「おっ!じゃあ俺が先に名前をー」
「フィリア」
しまった、と思ったが口に出してしまったからにはしょうがない。
「…は?」
「お前の名前」
ずっと心の中でこいつのことをそう呼んでいた。
「え!いいじゃん!ふぃりあ…フィリアか…」
そう呼ばれた本人も俺の心のうちを知ってかしらずか、その名前がしっくりきていたようだった。
「よし!そしたら俺は今日からフィリアだ!」
意気揚々と周りにいた奴らに自己紹介し始めたフィリアは嬉しそうだった。そして聞いてもいないのに自己紹介された方も心なしか喜んでいた。
その中には「俺にも名前つけてくれ」と俺の方にやってくる奴らもいて、少し面倒な事になってしまった。
いつの間にかフィリアがそばまできて「名前が欲しい人は並んで並んでーはいそこ押さない!」なんて言うもんだから一週間、俺は名前を考え続けるハメになった。
心の中で「もうひとりじゃないね、ステラ」と聞き覚えのある声が響いた。


研究はこっそり進めていた。シリウスが知ったらきっと止めるだろうから。
それにセレス・リーのところへこの情報を持っていけば少しは役に立つかもしれない。
彼女は優秀で、決断と行動力がある。ブラックホール病の発生源と言われたシルビア惑星に乗り込んだのも彼女が初めてだった。
上からの「あの惑星との友好関係の保つために誰か行ってくれ」というお達しはその場のものを凍りつかせた。誰も行きたがらない、ましてや感染して死んだらどうするのか、そんなことは上の方々は考えていないようだった。自分さえ助かればいい。そんな考えが透けて見えた。
そんな中で彼女はきっぱりと言い放ったのだ。
「私でよければ行きましょう。ただし、惑星同士の友好関係のためではなく、命を救うために行くことお忘れなく!」
今度は上の方々が凍りつく番だった。
言葉を選び、それとなく圧力をかけ、しかし自分の責任は負いたくないものたちは彼女の言葉を非難した。
もしこの彼女の姿がニュースで流れなければ、彼女はもうこの世界にはいなかっただろう。でも大勢の国民は見たのだ、彼女のその堂々たる宣言を。
私は緊張した面持ちで船に乗り込み、まっすぐとその先を見つめる彼女の姿を映像越しに遠くから見ていた。

その矢先、私たちの惑星でもブラックホール病患者がでたのだ。なんでも裏で極秘に取引されていたという荷物からだった。それがわかった時にはもうすでに手遅れであっという間に広がっていった。
荷物は生きた赤ん坊だった。



突然のサプライズ

「ねぇシリウス」
本当はパパと呼びたいけどまだその時じゃない。そんな気がして名前で呼んでいた。
「どうしたんだい?」
「あのね、ママはいつおうちに帰ってくるのかな」
いつもだったら我慢して聞かないことを今日は聞いてしまった。シリウスは少し寂しそうに「もう少ししたら帰ってくるよ」と言った。
「もう少し?もう少しってどのくらい?」
シリウスは時計をチラッと見た後、ちょっと意地悪な顔をしてそれを取り出した。
「これを一緒に作っている間、かな」
「それってケーキ?!ケーキを作るの?」
「ママには内緒で作ろう。サプライズだ」
シリウスのこういうところが好きだった。きっとママもそうなんだと思う。
「大変!サプライズだったら早く作らないと!ママが帰って来ちゃう!」
さっきとは打って変わって慌て出した私を見てシリウスは嬉しそうに笑った。

生きた赤ん坊は売られた先で意識を取り戻したのか辺りを見回し、そして泣いた。
当たり前だ、見知らぬ土地で母親も父親もおらず、ましてや大の大人でも逃げ出したくなるような集団に囲まれていたからだ。
「おい、こいつだけか?」
「はい、他に生体反応はありませんでした」
「チッ、あんなクソ見てーなオンボロ船で運んでくるからダメになっちまうんだよ!」近くにあったからのボックスを蹴った。その音でさらに赤ん坊は泣いてしまった。「おい」とそばにいる下っ端の背中をどついた。
「こいつ眠らせとけ、耳障りだ」「はっはい!」と部下が赤ん坊に手を伸ばしたその時だった。赤ん坊の皮膚から黒くどろどろとしたものが出て来たのだ。
「うわ!」と飛び退いた下っ端を後ろへ押しやり赤ん坊をまじまじと見る。
「地球のガキじゃなかったのかよ、騙されたぜ」ベルトに付けていた棒状の機械を手に持ち、赤ん坊の体をスキャンしようと顔を上げた時だった。
そこにはさっきまでうるさく泣いていた赤ん坊はいなかった。代わりにいたのは黒くどろどろとした大きな塊だった。手に持っていたスキャナーが落ちる。後ろで下っ端の叫ぶ声が聞こえた。
目の前の怪物はもう泣いてはいなかった。

その現場は酷い有様だった。かろうじて残っていた片足と二人分の尻尾からこの惑星の住民ではないことがわかった。警察によればなんでもこの二人組は複数の惑星を行き来し赤ん坊の闇取引を商売としているそうだった。
その証拠に複数の赤ん坊が見つかった。生きていたのは一人だけだったが。
「ミラー先生」声をかけて来たのはこの現場を仕切っている警官だった。
「なんでしょうか?」
「この赤ん坊はそちらの施設で預かっていただけませんか?」
この騒ぎの中警官の腕の中ですやすやと眠っている赤ん坊はとても可愛らしいが何か違和感を感じた。
「それは大丈夫ですが…この子はどうして無事だったんでしょうか?」赤ん坊を受け取りながら疑問をぶつけた。
「もしかしたら見逃してくれたとか…」
「えっ?」警官の独り言のような返事に驚く。
「いえ、まだ捜査の途中なので詳しいことはわかりませんが、不思議なことにこの近辺に犯人の痕跡がないんですよ。それにあの二人組の体もどこへ消えたのか…大きな生物にでも食べられてしまったんでしょうか?」
「大きな生物…そうだとしたらなぜ一番食べやすい赤ん坊は残したんでしょうか?それにその生物が大きいのであればここから逃げる時に誰かが見ているのでは?」
と警官に言った後に胸騒ぎがした。
「あの…もし、もしもですよ」少し震えた声になってしまった。
「ミラー先生、何か心当たりがあるんですか?」警官も声のトーンでわかったらしい。真剣な面持ちで次の言葉が来るのを待っている。
「もしもこの赤ん坊がその大きな生物だった場合、納得いきませんか?」


名前を呼んで

わたしの声に反応したのは彼だけだった。どれほどこの瞬間を待ち望んでいただろうか。「うわっ!これって犬か…?」そう言って伸ばしてきた手にしがみつくように体を預けた。
次に目が覚めた時にはボロくなっているが暖かい毛布がかけられていた。
辺りを見渡すと静まり返った場所とは思えないほど人がいた。
周りの人たちは口をパクパクさせているが声が聞こえない。とうとう耳が聞こえなくなったかと思っていると聞き覚えのある声がこちらへ向かって顔を向けた。
「あれ?生きてんじゃん」あの時の彼だ。尻尾を振って見せると嬉しそうにわたしの頭を撫でてきた。久しぶりに感じる体温が心地よかった。
「お前って犬だよな?喋ってるやつ初めて見たよ」
彼の言っている意味がわからず首を傾げると嬉しそうにまた頭を撫でてきた。
「犬ってワンって喋るんだな。俺まだ犬の言葉わかんなくてさ」言われた言葉の意味がわからず、どう反応すればいいのか迷っていると彼はどこかへ行こうと腰を上げた。待って、行かないで!「ワンワン!」
「え、なに?お前も一緒に行く?」
「ワン!」
しょうがねぇなと呟いた彼はわたしの体をそっと抱きかかえた。一緒に行けるのが嬉しくて彼の顔を舐めていたら「元気ならもう降ろすぞ!」と言われたので仕方なく舐めるのをやめた。彼の腕の中はとても温かかった。

 
犬は俺よりも賢かった。
ここが廃棄場であり、自分も捨てられたということを理解するのも早く、ここに長く居れば死んでしまうと言った。
俺はというと最初のうちは犬がなにを言っているのかわからずに戸惑った。
犬との会話ができるようにそれらしき本や教科書を探した。見つけてしまえば早いものであっという間におしゃべりができるようになった。
「どうしてあなたはここにいるの?」
「捨てられたからじゃねぇの?」
「だとしてもここにいる人とは違うみたいね」
ここに捨てられた奴らはみんな話さない、いや話せないのかもしれない。それとも聞こえていないのだろうか?ボーッと一点を見つめ続けたり口をパクパクするやつばかりだ。
はじめのうちは俺もそうなんだと思って口をパクパクさせていたが、突然落ちてきたゴミにビビって叫んでいた。「う…あ…?」
それからはここに捨てられるゴミの中から何かないかと漁り、声が聞こえる黒い塊や姿が映る大きな箱から聞こえる音でなんとなく声の出し方を覚えていった。
そんな経緯を犬に話すと「あなたはやっぱり間違って捨てられたのね」と言われた。
そしてここから出ようと提案してきた。
ここから一番近い地球という惑星に行く計画を練って失敗してを何度か繰り返した頃、犬が言った。「次が最後かもしれない」と。
その言葉を聞いて絶対に失敗できなかった。
ここにゴミを捨てにくる船を奪い、無事に地球にたどり着いた一週間後に犬は死んだ。

犬は地球に着いて二日目に俺に名前をつけてくれた。俺はそれがなんだか恥ずかしくてなんとも言えない気持ちになるからいらないと言ったが犬はそれを断った。
「この星ではあなたのことを呼ぶために名前が必要なのよ。慣れないと」
「別に俺のこと呼ぶ奴なんていねぇよ。だから慣れなくたってー」
「わたしが呼ぶわ。わたしが呼びたいの、ステラ」
胸がキュッと閉まる感覚がして少し驚いたが、嫌な感じはしなかった。
「じゃあ俺も犬の名前を呼びたい」
「考えておいて」
「えっ俺が?」
「そうよ!だってわたしはあなたの名前を考えたんですもの!今度はあなたの番よ」
嬉しそうに尻尾を振り、こちらの様子を楽しむ彼女の名前はとうとう呼ばれなかった。



きっと愛されてるはず

ママは次の日に帰ってきた。
ひどく疲れた顔をしていて私はママに声をかけることができなかった。
シリウスはママをベッドに寝かせると「一緒にケーキを食べよう」とわたしの手を引いた。ドアの隙間から見えたママの姿は、本当に私のママなのか不安に思った。

ケーキを切り分けているシリウスは「こんな美味しそうなケーキを食べ損なうなんてママは勿体無いね」と言った。
「でもママの分も切り分けてるよ?」
「これは後でママが起きた時に見せびらかす用さ」
ウインクをしながらシリウスが無邪気に言うもんだから私は笑ってしまった。
「ママは私のこと好きかな…」ひとしきり笑った後にまた不安が襲ってきてシリウスに聞いてしまった。シリウスは持っていた包丁を置いて真面目な顔をして私の方を見た。
「残念ながらシルビア、ママは君のことを好きではない」
「えっ?!」驚きすぎて持っていたフォークを机の上に落とした。
その様子を見てシリウスは慌てて付け加えた。
「この世界の誰よりも、一番に君のことを愛しているからね。好き以上に君のことが大好きだよ」
「…愛して…る…?」
「そうさ。君のママはしょっちゅう君の様子を聞いてくるよ。昨日は何をしてたかとかどんなことを話してたかとかね」
「どうして私に聞かないの?」
「さぁ…もしかしたら照れくさいのかも」
どうして、とは聞かなかった。シルビア自身もなんとなくママに直接聞くのが恥ずかしくてシリウスを通してママのことを聞いていたからだ。
「シリウスは私のこと…愛してる?」
ママの気持ちが少しわかった気がして次のターゲットはシリウスになった。
「もちろん、愛してるよ。君のママもね」
シリウスをもうパパと呼んでもいいのかもしれない。しっとりとした甘さのケーキを口に運びながらシルビアはそう思った。



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