「三浦春馬とHEROたち」(6)
三浦春馬と尾崎豊
―感受性と、喜びや苦しみのレベル―
春馬さんの逝去後まもなくYouTubeで公開(2020.7.24)された『ナイトダイバー』のミュージックビデオ。そこにコメントをされた20代の男性から尾崎豊の名前が出たことをおぼえている。
わたしは、「尾崎」がなくなったあとにテレビの特集でみて出会った。そして心惹かれるアーティストのひとりになった。ロックなどに縁遠かったけれど、その激しさ、やるせなさのどれからもメッセージ性を感じて揺さぶられるような感覚になった。
その番組のなかで心に残ったことが、知人女性の次のような言葉だった。「母親の事情で、小さいころに他へ預けられた。そのことを本人はとても寂しかったと後々までいっていたが、そのくらいでそんなふうに思うものなのか」。わたしには彼の気持ちはほんとうだったのだろう、と思えた。
そう、感受性が強いと言えるのではないだろうか。
感受性は本人が感じる主観的な世界だから、外側からはみえにくく、かつ社会の中で少数派に位置づけられることもあり、特性自体よりも「理解されない」ことの方が辛いという。ゆえに感情を共有することも難しいものだとも。しかしその特性は、よろこびも悲しみも受け取る量が人一倍多いから、本人が感じるよろこびと悲しみは、レベルが違うようなのだ。そしてそれらは表現者としてのちからとなり、わたしたちが享受できる。
―『語り継がれる伝説のロッカー、26年の生き様
尾崎豊 没後25年特別出版 Forget Me Not』(2017)を読んで—
三浦春馬のファンとしてこの本を手にしたとき、たくさんの共通点をかんじた。
そのなかでも、冒頭にあげた「感受性のつよさ」のほかに、「瞬間にかける集中力の凄まじさ」、そして反面にあわせもつ「素朴でまじめ、シャイ」な素の顔だ。
この本は身近で接していた写真家と音楽関係者、そしてあとからファンになって影響を受けたという元AKBの女性が語る形で構成されている。その中から引用させていただく。そして春馬さんのエピソードをまじえながらその共通点をみていけたらと思う。
エネルギーの塊
有無を言わさぬエネルギーみたいなものが皆を引きつけている。常に限界を超えていくところ、全力なところ。エネルギーの塊ですね。(前掲本)
三浦春馬と作品でかかわった方々の中から多く聞かれていたのも、この「エネルギーの塊」という言葉だ。
『太陽の子』の黒崎監督、そして『オトナ高校』共演者の高橋克実さんから。『天外者』の丸山智巳さんからはエネルギッシュ、画面からはみでていた、と。おなじく筒井真理子さんからはそのテンション、集中力を。大河ドラマ『おんな城主直虎』の高橋一生さんもエネルギーを指摘。cinemacafenet(2019.5.21)のインタビューでは、ひとつひとつの動きすべてが絵になるのは、エネルギーが満ち溢れているからだと評されていた。
同様に、その熱量をかんじられるエピソードとしてミュージカル『キンキーブーツ』(2016/2019)を観た方々が異口同音にはなされたのが、「号泣した」「涙した」だ。
このような声をきくたびに「尾崎」も三浦春馬も、観客の反応をじかに感じ熱量を届けられるステージをこころから楽しんでいたと思えるのだ。
一瞬のなかの永遠
スイッチ/集中力
突然ゾーンに入って、人が変わる。世界を自分で演出できちゃう集中力。「感情のセンサーの画素が通常の人間よりも異常に細かい。デリケートで繊細な心をもっているから、あれだけ歌が人の心を打つ。かれらの感情をのせた声って、粒子が細かい。だから拒んでも拒んでも時代をこえて人々の心に吸い込まれていく」(前掲本)。
「現場での三浦を知る人は一様に口をそろえて、そのたぐいまれな集中力を称える。マグマが噴出するようにグワっと感情を立ち上がらせる瞬間が彼の芝居にはあり、そういう時の研ぎ澄まされ方は只者ではない。恐るべき20才だ。」(『+act mini』2011vol.12 鷲頭紀子さん―10代から30才まで見続けてきた編集者―)
カメラが回ったとたんスッとその人になっていくことも多くの現場のかたが伝えてくれたエピソードだ。瞬間にかける。そして演じるその役柄に、ひとつとして同じ顔はなかった。
「くりかえす一瞬が永遠へと至る」「すべての命はその内側に永遠を宿している。」(映画『キャプテンハーロック』YAMA役—声優三浦春馬—のセリフ)、「一分一秒もむだにせず過ごしている。」(共演した水川あさみさん)
一日たりとも無駄にせず必死で生き抜いたと、熱くいまもこうして感じられること自体が、「尾崎」の、また三浦春馬の凄さなのではないだろうか。
一瞬が永遠だから、瞬間瞬間にマグマをたぎらせ限りあるいのちを生きることは、そのひとが永遠であることを保証する生き方だ。そして「今、この瞬間、ここから」、Here and Now. 自分もそんな生き方をしたいという気づきをくれる。
素朴でまじめ、普遍性を指向
寄り添い/だれも置き去りにしない
一方で、いままでみてきたこととのギャップに驚くほど、2人ともその素顔はいつまでも少年のようでもあった。純粋で無垢。だからこそか、「普遍的なものを探し求めていた」(前掲本)という。
三浦春馬も25才のときに「利己的よりも利他的でありたい」と話した(2015.7.23 モデルプレス)。また俳優として今一番興味があることはと問われ「より良く生きること」と答えている(2020.1.5 週刊女性)。
「尾崎」の本より、ファンからの思いを載せておわりたい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?