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海外遠征記

オリエンティア Advent Calendar 2023 1日目

はじめに

こんにちは、筑波大学オリエンテーリング部2年の山崎葵です。この度主催者の方から声をかけていただき、Advent Calendarのトップバッターを担当させていただくことになりました。せっかくの機会ですので、私の今までのことに加え、今夏の海外遠征について記していきます。拙い長文ですが、最後まで読んでいただけると幸いです。


自己紹介

2022年に筑波大学に入学し、同時にオリエンテーリング部に入部しました。入部してからずっとオリエンテーリングに夢中になっており、土日はほぼ山か公園に生息しています。

幼いころから山で遊ぶことが好きでした。家の近くの山の斜面をただ登り、親に内緒で友達と山に遊びに行き秘密基地を作り、山の新しいルートを地図も持たずに開拓するなど、今考えると少し危険なことをしていました。
その幼少期の原体験が影響したのか、高校では山岳部に入部。週2~3日学校の裏山で、10㎏のザックを担いで30分ほどのトレランがてら苔を観賞したり、木に登ったりと、山に親しんできました。

大学入学当初は登山を続ける気でしたが、新歓で見つけたオリエンテーリング部が気になり、興味本位で体験会に参加しました。フォレストオリエンテーリングとの出会いは2022年4月16日、日光和泉です。高校での山岳部入部当初、登山が登山道をたどるだけであることに驚いた私にとっては、森の中の好きな場所を走れる自由さに心惹かれました。また、25000分の1の地図では書かれていないような小さな地形までもO-mapには書かれていて感激したことをよく覚えています。
先輩の小野さんに熱心に勧誘してもらったこともあり、オリエンテーリングをするなら今しかないと思い、入部しました。本当に感謝しています。

入部後は森に入るたびにオリエンテーリングのナビゲーションがますます楽しくなり、週末の練習会や大会に高頻度に参加するヘビーオリエンティアにすぐになりました。

ただ、入部当初は根本的なオリエンテーリングに対する悩みがありました。オリエンテーリング中に私の大好きな苔を踏まないように注意深く走ると遅い、ということです。その案件は先輩に相談して今では解決しています。

エゾスナゴケさん。見た目から生態まで大好きです。

WOCの出場権獲得と長期海外遠征の決断まで

世界選手権(WOC)出場が決まったのは、今年4月に朝霧根原で行われたWOC選考会を兼ねた富士山麓大会でした。難テレインで上位選手が崩れる中、ミス率を10%に抑えて2位となり、日本代表として選考していただきました。

当時、WOCに出たいが、技術力が低く走力もずば抜けてあるわけではない私が日本代表に選ばれることは厳しいだろうと思っていました。ただ、2025年のWOC出場と来年以降の学業を考えるとこの夏が長期でヨーロッパ遠征を行うチャンスであり、補欠選手としてでも認めてもらえる走りをすることが目標でした。このレースの目標は丁寧にレースを行い、たとえ自分がミスをしても他の人も同様にミスをしていると思ってメンタルを維持することでした。スタート地区での、ありさんからのアドバイスを実行することで全体的に丁寧なオリエンテーリングができました。

WOC出場が決まったことで頭の中でぼんやり考えていた海外遠征の骨格が定まり、多くの人の協力を得て全日程を決めることができました。皆川さんの2020年Advent Calendarの海外遠征の記事も大変参考になりました。

ヨーロッパ遠征日程2023

どの国でも2週間以上のまとまったトレーニングができ、その土地特有のテレインに慣れるまでオリエンテーリングに没頭する経験ができました。

7/5      出国 成田→チューリッヒ(スイス)
7/6~7/10   トレキャン 
7/11~7/16  WOC2023
7/17~7/22  スイスOウィーク
7/23     移動日 スイス→チェコ
7/24~8/1    Bohemia5days(トレキャン)
8/2~8/6   チェコワールドカップ
8/7       移動日 チェコ→フィンランド
8/8~8/25    フィンランドでの個人トレーニング
8/26~27    preWOC in Kuopio
8/28     出国 フィンランド→成田
8/29     帰国

スイス世界選手権(WOC2023)

やはり海外遠征で一番思い出に残っている期間です。

5年ぶりの体調不良のため出国、現地入りが他の選手よりも遅れ、トレキャン期間が短くなりました。重要なレースを前にして自分の体調を管理できない不甲斐なさや申し訳なさ、そして練習できない悔しさでいっぱいでした。少し体調が戻ってからは先輩が撮影してくれた現地のテレインの動画を見たり地図読みをしたりして、前向きな精神状態にもっていくように努力しました。

現地入りしてからは、まずテレインウォークから始めました。見慣れない地形と地図からしてテレインウォークなしでは走れる気がしませんでした。焦る気持ちを抑えつつ、時間は限られているけれどそこは省かないでおこうと考えました。日本とは全く違うサイズのこぶやピーク、岩崖、尾根沢などをじっくり観察して理解するようにしました。3回のテレインウォークを経て格段に現地と地図の対応ができるようになりました。その後もトレキャン期間中はほぼ毎日2部練を行い、徐々に走れるようになり、ミスが減っていきました。

そしてターゲットレースのミドル予選。結果は35人中24位、ボーダー(15位)+8分30秒。私のベストに近いものを出せましたが、目標としていたミドル予選通過には全く及びませんでした。レース直後に書いたアナリシスではこのように振り返っていました。

初めての世界大会。
トレキャンでは練習をするたびに現地と地図が合ってきて、登り調子だった。ただ、体調不良でトレキャン期間が短かったこともあり、スピードを出して走るまでにはなれなかった。もしかしたら自分の技術の限界だったかもしれない。
前日までは実感がなく、当日の朝は緊張していたがひどい緊張ではなかった。スタート地区では緊張よりもワクワクの方が勝っていた。レースが始まると緊張はなく、いつもより少し集中できている感じだった。走っている間は、自分の中ではうまくいっているが、技術が足りないなと感じていた。また、登りで全然走れなかったのと、途中でおなかが痛くなった。1時間前にバナナを食べたからかもしれない。大きなミスはなく、小さなミスがたくさんあった。

WOCミドル予選のアナリシスより

世界大会という大きな舞台で自分のベストを出せたことへの自信と、それでも世界トップレベルには全然かなわないことへの悔しさを感じました。

ミドル予選のルート図

次はリレー種目です。私は3走を務めることになりました。3走を経験したことがなく、人に抜かれると順位が落ち、抜かすと順位が上がるという局面に惑わされたこともあり、一つ大きなミスをしてしまいました。

WOCは自分のレース以外も刺激的でした。
長くて登りの多いロングを走っている選手、観戦者の声援で沸き立つアリーナ、私と同年代で表彰台に登っている選手の存在。私もWOCロングを走りたい、ミドル決勝に出たい、海外のトップ選手と戦いたい、もっとオリエンテーリングが速く、上手になりたいと強く思いました。ただ、それに見合うだけの努力ができるのだろうかと考えている弱い自分にも出会いました。

スイスOウィーク

お世話になった日本チームと別れて次はWOCの併設大会です。氷河地形の上、WOCミドルで使った難しいぼこぼこエリア、ほぼ一面オープンが広がる牧草地など6レースを走りました。毎回テレインの雰囲気が異なり、対応が困難でしたが、様々なタイプのテレインを経験する良い機会となりました。

宿は筑波OGの方にスイスOウィーク日本人参加者のコテージにねじ込んでもらいました。初めて話す方もおりましたが、みんな優しくて、変でとても楽しかったです。今でも会うと嬉しくなります。オリエンテーリングの正置の方法を話し合ったり、ナッツアゴーゴーというゲームで真剣になったりと楽しく充実した日々でした。

スイスOウィークのようす

チェコ Bohemia 5daysとワールドカップ

大栗さんと共にスイスからドイツを経由してチェコに行きました。チェコはなんといってもあの巨岩!WOC2021や今回のワールドカップで使われたエリアに特有らしいです。ただ、大きな岩崖を除けば地形は日本と類似している印象を受けました。そのため、トレキャンのBohemia 5daysでは特に岩崖周辺でのナビに集中して取り組みました。あくまでも次週のワールドカップで良いレースをするためのトレーニングと位置づけ、練習だとみなした回ではレース中やレース後に復習に戻り、レースとみなした回では本番を想定したレースをしました。スムーズに本戦につなげることができ、トレキャンの重要性を知ったWOCの経験を活かせたと思っています。

今回のワールドカップでは、スプリント、スプリントリレー、ミドル、ロングに出場しました。もちろんどのレースでも課題を感じましたが、世界のトップ選手、私より少し格上の選手、同世代の選手などと同じ場所で同じレースを行うことができました。WOCを経たからこそ生まれた憧れ、緊張、やる気が混ざりあい、こみあげてきた気持ちは、このような舞台でしか感じられない貴重なものでした。

ロングのルート図

WOCとワールドカップを経て感じた課題は、正置動作の遅さ、コンパス直進の精度の低さ、CPで止まってしまうこと、地図読み、走力、登坂力でした。オリエンテーリング技術のほぼ全てですね…

フィンランド 個人トレーニングとpreWOC

WOC、ワールドカップという大きなレースを経て、課題が山積みであることを痛感している私は早くレース形式ではない基本技術を磨く練習がしたくてたまらず、フィンランドでの集中練習期間は楽しみでしかありませんでした。

フィンランドのEspooという都市のEspoon suuntaというクラブに入り、練習に参加させてもらいました。Espoon Suunta – The best orienteering club in the world
このクラブのコーチをしているikisは2005年WOCに向けて日本代表のコーチをされていた人です。落合さんのつてで私もクラブに参加させてもらいました。ikisは私たちのために練習環境、移動の手配もしてくださり、週2~3日はレース形式の練習ができました。

お世話になったikisと

宿泊場所であるクラブハウスの扉を開けるとテレインが広がっており、ほぼ毎日2部練をしました。さらに、ヘルシンキやエスポ―周辺は公共交通網が張り巡らされており、離れたテレインに気軽に行くことができました。ワールドカップの時にフィンランドの現役レジェンドであるVenla Harjuさんにお勧めしてもらった高難度のテレインにも行きました。

最初は見分けられなかった湿地、A、オープンの違いや露岩など北欧特有の地図表現から、基礎的な技術まで学ぶことができました。ただ当初の目標であるフィンランドのテレインで10min/kmを切ることは、一度も達成することができませんでした。

それでも、帰国後に先輩などから遠くを見れるようになったと言われました。視線を高く保てるようになったのは、ブルーベリーのおかげです。テレインには高さ30㎝程度の低木のブルーベリーが一面に広がっていて、おいしい実がたくさんついています。食欲に耐えるのは厳しいと考えた私は、練習中に食べない現地の人との差を考えました。ブルーベリーが見えるのは視線が低いからだと考え、見ないように練習しました。この練習を続けていくうちに手続きがスムーズになり、スピードも上がりました。日本にもブルーベリーが植生していたらいいのになと思います。

テレイン一面にあるブルーベリー

Espooで練習を続けて2週間後、フィンランド中央部のkuopioという都市で開かれたWOC2025のプレイベントであるpreWOCに参加しました。

フィンランドで得たものを発揮するまとめレースとして位置付けましたが、4.8kmのmiddleでトップと約28分差がつく結果となりました。ただ、得られるものは多くありました。preWOC後、このように振り返っていました。

ワールドランキングポイントのためにまとめるレースをしたいという気持ちもあったが、結果を気にせず少しリスクが高くてもスピードを出したレースをやってみたいという気持ちがあったのでスピードを意識的に出そうとした。そのため1レッグ10分近くの大きなミスをしてしまったが、それ以外は小さなミスに抑えることができ、この遠征での成長を感じるとともに、WOC2025につながる走りができたと思っている。しかし、悔しかった。

preWOCのアナリシスより

まとめ 2年目で海外遠征をして考えた事

本編の最後に、私が競技歴2年目で海外長期遠征を行った事に対する考察を記します。

私は当初国内の日本ランキングが9位とそこまで良くもなく、CPごとに止まる、正確な直進ができないなど技術が高い選手ではありませんでした。ミスしにくいルートを選び、それを確実に実行し、少し不整地が得意だというだけでそれなりの結果を残していたのだと思っています。

そんな私が海外で2か月間弱オリエンテーリング漬けの日々を送りましたが、やはり基礎技術の不足が律速となることがありました。本当はもっと多く習得したかったです。

多くの方のご支援で実行できた海外遠征なのに、自分のものにできているのかと自問自答することがあります。レースなどの結果はあまり変わっておらず、ミスも増えた気がしていて、インカレロングも全日本も思ったような結果を得ることはできませんでした。私は上手くなれたのだろうかなどと考えてしまいます。「どう、遠征を経て上手くなった?」と聞かれても「上手くなりました!」と胸を張っては言えません。

海外にいる時は森に入るたびに上達している感覚がありましたが、帰国後はそれをあまり感じられていません。テレインの様子が異なるので仕方ない部分はあるかもしれませんが、悔しいです。今でも海外遠征で得たことを自分の中で消化しきれていない気がしています。

ここまでちょっとネガティブなことを書きましたが、ポジティブなことも多くあります。まずは、オリエンテーリングをほぼ毎日できてとにかく楽しかった!そして、海外遠征を経てできるようになったことは、走りながら細かい地形や特徴物を拾っていくこと、現地→地図のナビゲーション、遠くを見る意識です。これらは格段に変わったと思っています。そして、2つの世界大会でトップ選手と同じコースを走って、どこに差があるのか、どこは相対的に良いのかなどを知ることができ、今後どのようなトレーニングをしていくかを考えていくうえで貴重な経験になりました。preWOCに参加してフィンランドWOC2025へのモチベーションも高まりました。今でもこの遠征で得た気持ちや技術はいつも私の中にあります。

将来この遠征はあの時絶対にして良かったと言えるようにこれからも練習し続けていき、基本技術からしっかり身に付けていきたいですし、時折この遠征で学んだこと、アナリシスを見返して方向性がずれていると思ったときは修正していきたいです。そして、今一番のターゲットレースであるWOC2025で自己目標を達成したいです。来年ブルガリアで開催されるユニバも、WOC2025へのステップと考えている大会です。

私の海外遠征食事事情(おまけ)

おまけとして私の遠征中の食事を紹介します。私はパンはおやつだと思っている人なので、パンが主食のヨーロッパで2か月も暮らせるのかという心配がありました。本気で炊飯器を持っていこうとしたくらいです。結局炊飯器は持って行かず、白米約5㎏を持っていきました。本当にお米を持って行って良かったです。

WOC期間

トレキャン中は朝、昼は自分でパンや卵を焼いて好きなように食べていました。夕は他のメンバーが作ってくださるおいしい料理を食べていました。毎日メニューが変わって、みんな料理が上手でおいしかったです。ある時お米が恋しくなって鍋でご飯を炊きました。炊飯器より短時間でおいしく炊けました。

噂には聞いていましたが、スイスの物価は本当に高くて、驚きました。卵10個で700円以上…

海外で始めて炊いたご飯

本戦期間中は豪華なビュッフェスタイルの食事でした。

毎日メニューが変わって楽しかった。

スイスOウィーク期間

同じコテージの人と順番で交代しながら夜ご飯を作りました。

本場のチーズフォンデュ。苦かった…でも楽しかった。
もちろんお米も炊いて食べました。

チェコ期間

チェコは物価が日本と同じくらいだったので、値段をそれほど気にせず好きなものを食べることができました。一番食べていたのは、ズッキーニ、玉ねぎ、人参、卵の野菜炒めです。白米はほぼ毎日炊いて食べていました。その影響もあってか、ワールドカップ期間も元気に過ごせました。

チェコでは、トレキャン期間も本戦期間も自炊で、3日に一度料理当番が回ってきました。私はパスタをあまり料理しないので、だいたい4人で1㎏かなと思って茹でました。大量のパスタを前にみんなにドン引きされました!大きな鍋一つに収まらないほど大量のシチューも作りました。大笑いでした。
遼平さんは本当に料理が上手で、毎回おいしかったです。

お皿に盛り切れないほどありました。

特筆すべきはロフリークというパンです。チェコの白米みたいなものらしく、スーパーに行くと30本以上買っている人があちこちにいました。私がこの遠征中に一番好きだったパンです。安くて、甘くなくて、バターをあまり感じない。甘さとバターが嫌いな私にはぴったりです。おそらく合計で50本は食べたと思います。ちなみに他のメンバーはパサパサしていて好きではないと言っていました。

だいたい20円くらい

フィンランド

ここでもほぼ自炊です。ルームメイトの落合さんと毎晩夜ご飯を作りました。カレーライス、ミートソースパスタ、シチューなどをよく作りました。朝昼は野菜炒めと白米かパンでした。
ブルーベリーは練習のたびにたっぷり食べました。

ミートソースパスタ

おわりに

書き始めたら書きたいことが多くあり、長文になってしまいました。海外遠征から約3か月がたった今、あの頃を振り返るとともに今の思いと目標を書き留めることができました。遠征は本当に楽しかったですし、学びあるものでした。総合的に本当に行って良かったと思っています。サポートしてくださった方々、本当にありがとうございました。これからもオリエンテーリングを楽しみながら速くなりたいと強く思っているので、応援よろしくお願いします!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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