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きっとあなたの140字

目覚めると病室だった。
また運び込まれたようだ。もう何度目か分からない。
開け放しの窓から桜の花びらが舞い込んできた。
ベッドの脇で眠る彼の頭に、ひらりと落ちる。
目を覚ますと彼は必ず傍にいてくれた。
桜が散る頃には、きっと私は――

花びらを彼の掌に置き、そっと包む。
ずっと傍にいるよ。

ハナサカステップ解釈小説のアンサーとして。
Annabelさんの「Above your hand」を聞いてたら、もうそれにしか聞こえなくて文章化しました。

乾杯

「いらっしゃい」
月光の降り注ぐ庭。
小さなテーブルで一人、少年が微笑む。
少年がグラスに流星を注ぐ。手渡されたグラスの底でパチパチと星が弾けた。
「君の新しい次の人生に」
乾杯。 グラスの中身を呷る。
星が弾ける度、走馬灯が浮かんでは消える。
ああ、きっと生まれ変わるとはこういうこと――

グラスに流星を注ぐシーンだけ思いついて、いっそただ綺麗なシーンを書きこうと思った一本。


映画

連日の雨。気怠くて何もする気になれない。
ふと近所のミニシアターを思い出す。
まあ映画なら、と重い足で向かう。

名も知らぬ古い洋画。ぼんやり見る内に引き込まれた。
白黒なのに夏の鮮やかな映画だった。
軽やかな気持ちで館を出る。
頬にぽたり冷たい感触。
そういや雨なんかも降ってたっけ。

映画館を出た時の、非日常から日常へ切り替わる感じってなんかいいよねっていう話。

蕎麦

「いらっしゃい!」
「かけ蕎麦」
「あいよ!」
出された蕎麦には頼んでないかき揚げが乗っていた。
「アンタよく来てくれるからな。おまけだ」
親父がにかりと笑う。
立上る湯気。出汁の香り。一口啜ると冷えた体に染みる熱。
ほぅと息をつく。
やはり何度食べても、行方知れずの父の蕎麦と同じ味だ。

探してた父が蕎麦屋をやっていた、というワンシーンのつもり。親父は本当に親父、という設定だったのだけど、ちょっと分かりにくいかも。

私はお盆が嫌いだ。
大好きだった祖母の墓参り。今でも信じられず、墓など見たくもなかった。
いずれあの柔和な笑顔で目の前に現れるに違いない。
そう思っていたのに。

墓石に止まる一匹の蝶。
目が合う。
ひらり。何か言いたげに私の周りを舞う。

――ああ、そうか。
祖母の死後、初めて涙が溢れた。

こんなに書けそうなお題なのに、全然思いつかずひねり出した一本。蝶は霊魂の比喩ともいうけれど、あの儚さを捉えた的確な例えだと思う。

「夜が怖いのです」
その狼男はそう言った。
かつて愛した人を傷付けた。もう誰も傷つけたくない、と。
「月を見なければ良いのでは?」
私の言葉に彼は首を振る。
「その声。その面差し。私にとって、貴方はもう月なのです」
彼をふわりと抱きしめる。差込む夕日が私達を赤く染める。
じきに夜が来る。

ロマンティックな恐怖。

爆発

炬燵に居座っていると何もやる気が出ないのは何故だろう。
蜜柑を手に取り、匂いを嗅いでみる。甘くて心弾む香り。甘酸っぱい果汁が想起されて、その鮮烈さが脳に染み込んでくる。
鏡餅の上にそっと置いてみる。これが檸檬なら爆発するのかなと想像し、少し楽しくなる。
さてと、そろそろ動きますか。

梶井基次郎の檸檬を参考に。陰鬱とした主人公の気分とレモンの鮮烈さの対比が美しかったので、そのカジュアル版。

来る

「夕暮れ、迎えに来るよ」
優しいご主人の声。頭を撫でるごつごつした手。
あの日、ご主人はいつものように船で海に出て、帰ってこなかった。

日暮れの海岸、いつもの岸壁に向かう。海が一望できる場所。
海に向かって遠吠え。
返事はない。
それでもいい。
いつかご主人が迎えに来る日を待っている。

昔書こうとしていた短編のワンシーンをそのまま引っ張ってきたやつ。いつか形にしたいなあ。

飛行機

飛行機の窓から夜の街を見下ろす。
光一つ一つにそれぞれの生活。
無数の星の中、自分も小さなその一つに過ぎない。不安は尽きない。
反対を押し切り旅立つ私に、見送りに来る者はいなかった。
ただ、バッグの中に手紙が一枚。
「また会おう」
手紙を握りしめる。 僕にはまだ帰れる場所があるらしい。

上北健の「MIST」を聴きながら書いてたら自然とこういうお話に。

ライフ

良きぶいちゃライフを。
案内の最後にそう言ってくれたあの人は、いつの間にか姿を消した。感謝も言えずじまいだ。

ふとすれ違った人から聞き覚えのある声。
声の主を見ると名前も見た目も違う。でもひょっとして。
声をかけるか悩み、結局止めた。
そっと心の中で呟く。
どうか良きぶいちゃライフを。

半分実体験。この投稿の後にご無事を確認した。あの節はありがとうございました。

群馬

彼の実家から立派な下仁田葱が送られてきた。
折角だし高い牛肉を買って今日はすき焼き。
「火を通すとトロトロになって甘いんだ、ほら」
いつものように私の器に嬉しそうに放り込んでくる。
自分で取れるよと言っても、お構いなし。
まあ好きだし良いんだけど。
全く、これだから群馬産は。甘いなあ。

群馬行ったことない中で何とかひねり出した一本。気づいたら連続ですき焼きになっていた。すき焼き食べたい。

一人暮らしを始めて9カ月。
年末に実家に帰ってきて、改めて親のありがたみを実感する。寝転がってるだけでご飯が出てくるなんて!
「今日はすき焼きよ」
年末定番のご馳走。
ぐらぐら煮立った大きな鍋を家族皆で取り囲む。
一人鍋にはない光景。
あぁ、懐かしいな。
今日の鍋は一際ほっこりと温かい。

我が家の年末年始はおせちは食べないけれど、必ずすき焼きを食べるのです。

愛してる。
そう言った彼を忘れるため調合した忘れ薬。
最後の仕上げは勿忘草の朝露。
あれからアトリエに篭りきりだったが、窓の外を見れば朝のようだった。

外に出るとキンと冷えた空気。
草木には霜が降りている。もうそんな季節か。
霜の降りた葉を摘み、食んだ。
じわりと溶ける。
涙が溢れた。

久しぶりに140字復帰の一本。霜というテーマから、とにかく透明で綺麗な空気感を目指した。

サンマ

鮮魚コーナーで僕は悩んでいた。
『サンマ一匹3000円!』
絶品と名高い幻の魚。昔は一匹100円で買えたと言うが本当だろうか。次に店頭に並ぶのはいつになるのか。
エイヤと購入し、大切に冷蔵庫に仕舞った。

翌日のTV。サンマが絶滅危惧種から外れたというめでたいニュース。
僕は冷蔵庫を見遣った。

時間が足りずオチがやっつけになってしまった。
祖父が言うには、松茸は昔そこらへんに普通に生えてた、って話だし、いつかサンマがこうなるのもありそうな未来。

プログラム

「また失敗。やはり不可能なのか」
『人間には無限の可能性があります。頑張りましょう』
助手のAIマシンが無機質に応援してくれる。
国費を投入し開発される宇宙生成シミュレーション。人間のような知的生命体の誕生を目指している。
「無限の可能性、ね」
成功した瞬間、俺は君と同じになるんだが。

知的生命体を完全シミュレーションできるなら、それってAIと同じプログラムでできている証明になっちゃうよって話。ちょっと分かりにくいかも。

描く

何度も夢で見た風景。
それをキャンバスに落とそうと今日も筆をとる。
緑の鮮やかな田園、目が痛いほどの夏空と水平線。同じ物を描いていても違う物が出来上がる。
共通するのはそこに帰りたいという想い。

最近、そこに一人の女性が加わった。
常に後ろ姿。顔は見ずとも知っている。そんな気がする。

なんかこの頃、郷愁に捕らわれていたんだなと感じる。

つばめ

目の前に燕尾服の紳士。
「今年もお世話になりました」
軽やかに優雅なお辞儀。
しかし私にはとんと覚えのない御仁だ。
――どちら様で?
そう口に出して目が覚めた。
妙な夢だったなぁと首を傾げ庭先に出ると、軒先の子燕が巣立つ所であった。
周囲を飛ぶ親燕と目が合う。
私は、あぁと合点がいった。

懐かしい作風。こういう人の形をした人じゃないモノにまつわる、ちょっと不思議な話が好き。

夕焼け

夕焼けは心がざわつく。
赤茶色に染まった空、羊雲。どこまでも続く岩砂漠のようだ。
ぼんやりと眺めていると、何かを思い出しそうになる。胸の奥がうずうずと何かを訴えているのに、掴みどころがない。
あの先から自分は来たんじゃないか。ふとそんなことを思う。
それはまるで、生まれる前への郷愁。

小学生の頃、下校中に見上げた砂漠のような夕焼けを思い出しながら書きました。

あの山には狂人が住む。決して近付くな。
そんな場になぜ立寄ってしまったのか。
草陰から踊り出してきた毛だらけの男にいきなり組み敷かれた。
殺されるか思ったが、男の様子が妙だ。
「弥助……ッ!あぁぅあ、儂は……」
男は咆哮を残して去った。
弥助とは私の父の名だ。親友に殺されたと聞いている

コロナの熱にうなされながら絞り出した。まさに高熱の時に見る悪夢のような話。
文字数の都合で最後に「。」が付いてないけれど、結果的に妙な余韻が出来てて良きかな。

夏の終わり。
一緒にやろうと言っていた花火の袋を、一人で開けた。
暗い庭にライターのカチカチ音が響く。
湿気ってしまったのか、なかなか火が付かない。
「何やってんだろ」 一人呟く。
――閃光。鮮やかな光が溢れ出す。
眩しい。火薬の匂い。
ようやく付いた花火は煙が多くて、なんだか目に染みた。

映像的に書こうとした一本。うまくいってるといいな。

これまでで退治した中で一番厄介な霊だって?
なんだってそんなことを聞くんだい?
そうさね、大概の奴には足がないが、足がある奴が一番怖い。
妖力が強いから?それもあるが、白くて艶やかな、白玉のような触れ心地の足が特に怖い。
俺みたいな男はそうすりゃイチコロさ。
分かったかい、お嬢さん。

人間の女性に化けてる妖怪に、まんじゅうこわいに掛けながら挑発する妖怪退治のおっちゃん、という設定だったけど、文字数的に伝わらず無念。

あれは儂が七つの頃の話だ。
この家は海に近い。毎夜波の音が煩く、寝付けぬ夜は難儀しておった。

あの夜は珍しく凪いだ夜だった。
妙だな。気味が悪いほど海の音がしない。
そう思い、窓越しに海を見ると、何かが蠢き光っている。
儂は怖くなり布団に隠れた。

あれがなんだったか、今でも分からぬ。

チエカさんの直近の遠野物語風作品に刺激を受けて、自分もやってみようと思った話、だったはず。海が近く、波の音で寝られないというのは小さい頃の実体験。

七夕の日二人で星を見よう。
そう約束して出会ったその日、空は雲に覆われ、担いでいった望遠鏡は無駄になった。
「残念。一年に一度しか会えないって理不尽ね」
隣の彼女が天を仰ぎながら呟く。
それは誰のことを言ったのか。
「そうか? 天の川が無いなら毎日会えるだろ」
手の中の指輪を強く握る。

文字数(以下略)。果たしてプロポーズシーンということがちゃんと伝わるのかさえ疑問。

紫陽花

その子の名前は紫陽花と言った。
とても美しい人だった。
「紫陽花には毒があるのよ」
どこか歌うように、彼女は言う。
「それはそれは、きっと甘美な毒なのだろうな」
「馬鹿ね」
そう言って私たちはキスをした。

彼女がいなくなって、今でもその毒は私を蝕んでいる。

時間が無く10分くらいで書いたせいで、書き込みが足りなくて悔しい。もっと華やかに、あるいはもっと耽美にしたかった。紫陽花も書きたかった内容も、思い入れがあるから、なおのこと。

親友に好きな男ができたらしい。
名前を聞いてげんなり。そいつはこの間、私に告白してきた男だ。
「その男はダメだ、やめときな」
「なんで!あの人の事何も知らないじゃん」
「アンタもでしょ」
なぜ誰も彼も知らない奴を好きになるの。
ぶーぶー言ってる隣をちらと見る。
普通、近しい人間でしょ。

ザ・三角関係(百合含む)。視点の子をボーイッシュにしたのが細かいこだわり。

かわいい

腕に包帯をして学校に行った。
皆からどうしたの?って聞かれるけど、何でもねえって答える。封印の事は誰にも秘密だからだ。

ある日、テレビから甲高いアニメ声。
猫耳、メイド服。可愛い仕草。
ふん、女々しいな。
でも目が離せない。
この俺様がこんなのに―――

次の日、俺は包帯を巻くのをやめた。

伝わるか不安だったけれど、じむのさんには一発で伝わっていて良かった。包帯を巻くかまではともかく、オタクの皆はこういう経験通過しているよね、って思って書いた。

世界

私は島で育った。島が世界の全てだった。
この海の先には何がある?
どれだけ危険と言われても、好奇心は私の胸を焦がして止まない。
遂に私は小舟一つで海原へ漕ぎ出した。
世界の果てを見るために!

患者は頭に各種電極が繋がれ、夢を見ている。
好奇心亢進症治療。
これを俗に邯鄲の枕療法と言う。

情熱的な前半と、機械的な語りの後半の温度差がお気に入り。好奇心は大事だけど、過ぎた好奇心は身を滅ぼすよねって話。

二人で、裏庭に死体を埋めた。
初めて会った時、私たちはまるで双子のようにお互いを理解した。それは不思議な感覚だった。
あの男が君を殴っている時、包丁を突き立てたのはどちらの意思だったのか。
蝉の声は遠く、風もない。
私たちは手を繋いで目線を交わし、微笑む。そこに言葉はいらない。

100回記念の「言葉」の時に書いた、いつか出したかったもの。
静かでじっとりとした熱気と、いやに冷たい狂気が対照的でお気に入り。

こども

夫が死んで随分と経った。
小説を書くことにかまけて、端からは酷い旦那だったねと言われた。
子供も作らずに、と非難されもしたが、妻として、編集者として、私は彼と共に在れて幸せだ。

子供ならここにいる。

「大きくなりましたよ、あなた」
街頭テレビに大きく映し出される『映画化決定』の文字。

何故かいつもよりたくさんいいねをもらって、嬉しいけれど困惑した。
分かりやすいのが良かったのかな。

ゴールデンウイーク

「今度の休みどうする?」
講義後のざわめき。仲良さげな男女の声。
俺は溜息をつく。
大学最後の年。春先、俺の告白は桜と共に散った。

灰色の大学生活だったな。

そう思い顔を上げると、件の彼女が。何やらもじもじしている。
「ねえ、10日前の話だけど…」

途端に俺の黄金週間も輝き出す。

個人的な思い出がこもった一本。結構ライトな仕上がりになって、それはそれで割と満足。

偶然

彼女は妙に運が良い。
「偶然だよ」
彼女は言う。

さて今日は何が起こるのか。
そう思って彼女を見た傍から、突っ込んでくるバイク。
危ない!言う間もなく、バイクは突如スリップし、ギリギリを掠めて壁に激突した。
運転手はピクリとも動かない。
彼女は私に振り返るとふわり微笑む。
「偶然だよ」

時間切れで投稿できなかった一本。noteで供養。ネタとしては面白いと思ったけれど、尺が足りず、文字数を削る時間が足りなかった。悔しい。

先生

次の担任がイケメンだと聞いて皆で盛り上がったのも一瞬だった。
愛想なしの仏頂面。誰だ、顔が良いって言ったのは。
その先生が花屋から出てきた時、私は本当に驚いた。
先生が微笑んでる!
写真を撮って皆にシェアしよと思い、手を止める。
やめた。
他の人には見せたくない。
何故かそう思ったのだ。

とある事情で煩悩に苛まれながら書いた話。その割には比較的ピュアな話に仕上がったではないだろうか。

春休み

夜の公園を一人で歩く。
少し前までは花見に沸いた桜並木も、今では花が散って閑散としたものだ。
枝には青々とした若葉が茂り、早くも今年を生き抜く準備を進めている。
切り替えの早いことだ。
新しい環境に不安で一杯な私とは大違い。
まあ、桜に負けないように頑張るかな。
そんな春休み最後の夜。

職場異動でバタバタしてた心情をそのまま描き出した一本。実際、時間が無かったので、これくらいしか思いつかなかった。

かげ

高校生にもなってジャングルジムに登る君。
するすると、あっという間に手の届かない所まで。
「登らないの?」
「僕はいいよ」
ふーん、と君は興味なさげに夕日を眺める。
夕日がジャングルジムと君を照らしている。
長く伸びた影。
そっと手を伸ばす。影越しに重なる手。
大丈夫、今はこれでいい。

割とお気に入り。その時の心情が色濃く出た一本。届かないなあ。

おじさん

人はいつからおじさんなのか。
30代?40代?
いや、断言する。それは姪っ子ができた時だ。
「おじさん」
姪が円らな目で俺を見上げる。
言葉を覚えたてで覚束ないけれど、はっきりと俺を見てそう言った。
目線を合わせてよしよしすると、キャッキャとはしゃぐ。
可愛い。
こんなの認めるしかない。

半分実体験。甥っ子が出来た時に、ああ、おじさんになったんだなあと感じたエピソードをより可愛く仕上げてみました。

「梅さん!その美貌変わらず何より」
声を掛けてきたのは、見知らぬ英国紳士だった。ただし、笑顔の端に光る犬歯が妙に長い。
「私の名前、桃です……けど」
虚を突かれた顔をする紳士。
祖母は梅だが、昨年死んだと告げると随分と狼狽していた。

初春、祖母の墓石には手折った梅の枝が置かれていた。

今回は本当に尺が足りず書ききれなかったな、という感想。
なお、裏設定では、母の名前は桜。

バレンタイン

「今日バレンタインだよな」
「それで?」
興味なくそっぽ向く彼女。
「チョコとか」
は?と睨み顔。
彼女はいつも俺に冷たい。

結局何も貰えなかったな、と帰りがけ鞄の中を見るとそれとなく何か紛れている。
『カカオ95%』
口に含めば、ずっと苦いのに奥に感じる僅かな甘さ。
まったく、癖になる。

個人的には、ツン95%、デレ5%だと正直とても耐えられないと思う。

お月様の兎って一人で寂しくないのかな。
私の幼稚な質問に当時の祖母はこう答えた。
「あっちには友達がたくさんいるから大丈夫よ」
どうして知ってるの?と首を傾げる私に、祖母は口を押えてふふと笑った。

祖父の葬儀の日、祖母は突然姿を消した。
捜索の結果、月見の丘でただ靴だけが見つかった。

うさぎと言えばお月様。かぐや姫的世界観。
おばあさんはおじいさんのことが本当に好きだったのだな。

夜の海岸で一服と行きたかったが、あいにく今日は雨だった。
海沿いに車を止め、車内で煙草に火を付けた。
エンジンを切ると他に音もない。
ただ、雨粒が車を叩く音だけ。
助手席を見やる。
車内で吸うな、と喚く相棒はもういない。
「静かだな」
長い、息を吐く。
あの時の銃声を俺はきっと忘れない。

ハードボイルドに振った一本。車の中で静かに雨音を聴くのが好き。

蝉の声を聴きながら汗を拭う。
飲み物でも飲もうと冷蔵庫を開けて、思い出す。
またあの子に会えるかな。

滅多に降らない雪が降って大騒ぎしたあの冬。
雪合戦、そり遊び、かまくら作り。
雪解けと共に消えた君。

サイダーの瓶を手に取る。
サイダーの瓶の横、そこにはいつも雪うさぎが眠っている。

夏の風景で雪を印象付けようと一捻り。雪うさぎが少々唐突なのが反省点。もうちょっと思い出を匂わせられた気がするなあ。

テレビ

ジャングルの奥地、未踏の遺跡の神殿にてテレビを見つけた。
その男は虫の息でそう言った。
電気も電波も届かないその場所に、確かにそれはあったという。
その苔むしたテレビは何かの映像を流し続けている。
「それは一体何だ」
そう聞くと男は怯えた様子で口を噤み、目を泳がせ、泡を吹いて死んだ。

苔むしたテレビと付喪神的なものを書こうとしてたのに、気づいたらSCP的なのになってた。

掃除

家族挙げて大掃除。のはずだったのだが。
「適当にやっときゃいいのよ」
やる気のない母に代わり、俺が家中を掃除する羽目になる。
掃除をするうち、昨年居なくなった弟の痕跡を辿っている自分に気が付く。
小さい頃、並んで付けた柱の傷。ふざけて開けた壁の穴。
なるほど、母がやりたがらない訳だ。

最初は弟が死んでる設定にしようと思ったけど、リアル弟がいる手前やりづらかったので、あいまいな形に。

仕事

空を描くのが、私のお仕事。
誰にもバレちゃいけない、秘密のお仕事。
晴れの日は青色で、雨の日は灰色で。
天気予報を見て、魔法の絵の具でちゃちゃっと仕上げる。
だけど、いつも同じ色ばっかりでつまんない。
ここだけの話、たまにはこぼした振りして七色の川を描いてみたり。
偉い人にも内緒だよ。

ハイファンタジーっぽいのにしようと思ってたのに、どうしてこうなった。結果的に普段書かない雰囲気のものになったので、良きかな。

文化祭の詩集。何も思い付かず部室で僕は頭を抱える。
「先輩はどうやって書いてるんですか」
「好きなものを書けば?」
詩集に目を落としたまま、素っ気なく答える先輩。
「好きなものって……」
先輩の横顔をちらりと覗う。
窓際、そよ風、文字を追う眼差し。長い睫毛。
あー、確かに何か書けそう。

何を書いたら分からなくて、悩んでいた感情をそのまま書いたらできてた。残念ながら僕のそばに素敵な先輩はいなかったけど。

カメラ

人物写真を撮るのが苦手だ。
「キレイに撮ってね」
そんな事を言われても、レンズ越しの君は何故かどうしても魅力が半減する。
「見せて!どれどれ、あ、いいんじゃ……うぅん?いやこれはちょっと、いやいや」
写真を見ながら君の表情がころころと変わる。
なるほど、これは一枚には収まらない訳だ。

ちょっと投げやりだったなと反省。設定もっと書き込めたかも。

演じる

先輩に小突かれ「や、やめてくださいよー」とへらへらと返す。
職場の皆が笑う。
まるで道化。薄っぺらな自分。
こんなのは俺じゃない!
でも本当の自分って?もうそれさえ分からない。

昼休みの屋上。雑踏の音が遠い。抜けるような秋空。
――ゴミみたいな自分。
叫んだ。
力の限り。
俺はここにいる!

「ギターと孤独と青い惑星」を聴いていたら、なんか叫ぶ奴を書きたくなってできた代物。

バランス

夜の公園。ジジッとちらつく街灯が、シーソーに座る僕らを照らす。
「夜は良いね。静かで、何も強要されない」
ぎぃ。シーソーが傾ぐ。
「もう朝はいらない?」
ぎぃ。浮遊感。
「朝は嫌い。神経が苛立つから」
ぎぃ。沈む。
「でも、僕は君におはようを言いたいな」
シーソーが水平にピタリと止まる。

自律神経失調症を勝手に想像して書いた。雰囲気に極振りした結果、詰めが甘くなった感。

言葉

真夜中の海辺を二人で歩く。
静かに寄せる波。砂を踏む音。
空には一面の星。ぽっかり浮かぶ丸い月。
月が綺麗ですね。 そう言った君に私は「そうね」と素っ気なく返す。
君の耳は真っ赤に染まっている。

君はいつも言葉が足りない。
私は君の言葉をずっと待っている。
どうかこの月が綺麗なうちに。

言の葉ラジオ100回記念に合わせて、気合を入れて3本書いたうちの一つ。他の2本は調整してまた別の機会に出そう。

新聞

亡くなった曾祖父の遺品を片付けていると、古ぼけた新聞に包まれた写真フィルムが出てきた。
あの頑固爺が写真ねえ。
何が写っていたか気になったが劣化が激しく、まるで分からない。
祖母に見せてみると、しばらく首を傾げた後、古新聞の方を見て、あっと声を上げた。
新聞の日付は父の誕生日だった。

古新聞の日付って、それだけでアルバム的な効果があるよね。

ふわふわ

私の体は透明で。くらげのように、ふわふわと宙を漂うことしかできない。
愛しい君へ手を伸ばしても、触れることも叶わない。その温もりさえ忘れてしまった。
君が別の誰かを好きになったとしても、私は君の幸せを願ってる。
「さよなら」
そう思っていたのに。
どうして君は私の言葉に振り向くの。

昔聴いてた音楽を漁っていたら、するっと出てきた。そういえば昔、こういうお話を書こうとしていた気がする。

運動

あの日からずっと雨が降っている。
運動不足だし、たまには一緒に走ろうよ。
言われて買ったスニーカーは今でも綺麗なまま。
雨だからまた今度にしよう。そう言い訳している内に、君はいなくなった。
カーテンを開け、窓越しに空を見る。晴れやかな君の笑顔を思い出して涙が滲む。
ああ、今日も雨だ。

運動というテーマなのに、一切運動しないやつ。内容が1400字で書いてるやつにずいぶん引きずられた。

衣替え

俺達の夏はまだ終わんねえよ。そうだろ!
そう言い合って、頑なに薄着を貫いたあの頃。
お前が上京してからは風邪を引くことも無くなった。
河川敷、いつも待合せに使っていたイチョウの木。
早くも色付いて、一足先に衣替え。
まったく、張り合い甲斐のない奴だ。
「早く帰ってこい」
秋風に呟く。

個人的お気に入りNo.1かも。秋風に感じる懐かしさ、切なさが詰まってます。

問い

なぜ君は突然姿を消したのか。
最後に見た君の涙が頭から離れない。
一緒に山を下ろう。手に取った君の掌は雪のように冷たかった。
それで分かってしまった。俺達は一緒に暮らせない。
それでも夢に見る。
風鈴の揺れる縁側。蝉時雨。君との日々を。
だから再びこの雪山を登る。君にもう一度問うために

雪女の情報を詰め込みつつ、文字数に収めることにとにかく苦労した。削るだけで1時間くらいかかったかも。最後の「。」が無いのは内緒。

ねえ、沈黙は金、雄弁は銀って言葉知ってる?
……ふふ、どうしたの、急に黙っちゃって。
反省した?後悔してる?
やだなあ、わたし、そんなつもりで言ったんじゃないよ。
勘違いしないでね。わたしは君のことが大好きなの。
そういう素直なところも好き。
わたし色に染まっていく君が好き。

周央サンゴさんの「みなさんご」に投稿するイメージで書いてみたら、困惑されてしまった一本。「みなさんご」はいいぞ。

ねこ

暗闇に浮かぶ一対の目。
にゃあ。
黒猫がするりと這い出してくる。
その猫は私をじっと見つめる。私も猫から目が離せない。
「何ボンヤリしてんだ。これから大捕物だってのに」
隣の相棒に肩を掴まれ、ハッとする。猫は消えていた。
ノイズ混じりの無線通信。
――犯人グループは銃を所持、繰り返す……

特にゴールも決めずに書き始めたけど、文字数制限でこねくり回していると気付けば不穏な雰囲気になるのは何故。

バッタ

月下、虫の音が響く庭先にて飛蝗を見つける。
はて飛蝗はどんな鳴き声だったか。
とらまえようと、はしと背中を押さえるが、小さな身に似合わぬ脚力にたじろぐ。そうしている内に手の中からするりと抜け飛蝗は飛び去ってしまった。
月を背に飛ぶ様は実に艶やか。
無粋なことをした、と私は頭を掻いた。

バッタは難しいよ、と何とかひねり出した一本。秋っぽくなってそれなりに満足。

混ぜる

ドアベルを鳴らして入ると、緩やかなジャズに包まれる。他に客の姿はない。
カウンターの奥に収まれば、マスターが無言でステアを始める。氷を混ぜる音。
「ドライ・マティーニです」
差し出されたそれを口に含むと、青い苦み。これを美味いと感じるようになっちまったか。人生の苦みを噛みしめる。

こんな行きつけのお店が欲しい一心で書きました。

ギラつく繁華街も、路地裏に一歩入ればそこは闇だ。
足元に転がる死体は血に沈んでいる。
「運の悪い奴だ」
薬莢を拾い上げ、痕跡を消していく。
頭に一発。我ながらいい仕事だ。
一仕事を終え、懐から煙草を取り出す。禁煙中だったが、たまにはいいだろう。
ああ、久しぶりのニコチン。なんて罪の味。

ダーティさを出したかったのに、出し切れていない感。解像度の低さに反省。

午前0時、寝付けない。
午前1時、テレビのザッピング、砂嵐。
午前2時、煙草に火を付ける。胸のつかえは取れない。
午前3時、夜の静寂。スマフォの画面。「ごめん」が打てない。
午前4時、自分がどうしたいかを考える。答えは出ない。
午前5時、鳥の声。空が白んでくる。
午前6時、朝が来る。

夜を裏テーマに書いていたら、本テーマになって逆に戸惑った。
各時間ごとにカットが切り替わるイメージで、個人的お気に入り演出。

深夜、窓ガラスにもたれて空を見上げる。雲がかかって星も見えない。
ひやりとしたガラスの感触。それでも頭の靄は晴れない。
「またね」 そう言った彼はもういない。
温くなったサイダーを一口。胃は膨らむけれど、胸にぽっかりと空いた穴は埋まらない。
泡は次々弾けて消える。まるで命だと思った。

前回に続き、夜を裏テーマに。もうちょっと爽やかにもしようかと最後まで悩んだ。

仮面

祭りから離れて、夜の神社。砂利を踏みしめ二人で歩く。
「全部、君だったんだな」
その言葉に足を止めた。 屋台で買ったお面を被って首を傾げる。
「何のこと?」
お面の穴から見える彼は信じたくない、と俯き気味。

私はお面を外して一言。
「だったらどうする?」
お面は風に舞い、石畳に落ちた。

ごんぎつねをオマージュしようと思ったのに、どうしてこうなった。
お面が何のお面をイメージするかで心理テストできそう。


「接待は順風満帆。今日はお祝いだ!」
「経費でか?そんなに食べるとまた上司の雷が落ちるぞ」
「へーきへーき。あの能天気ならな」
ステーキをかっ喰らい、山の如きかき氷を突き崩す。
「……う」
「どうした?」
「雪山では天気が変わりやすいってね……」
「つまり?」
「お腹がゴロゴロしてきた」

会話文の練習兼ねての実験。


僕は兄さんに勝てない。
そう気付いたのは、いつだったか。悔しくなかったかと言えば嘘だ。兄さんにはまるで太陽のように、人を引き付ける魅力があった。それは僕には無い物だ。
僕はいつだって二番手。でも構うものか。雑草のようにへこたれない。それが僕の持ち味だ。勝てずともいつか並び立つんだ。

某配管工兄弟をイメージしたものの、日和った結果がこれ。


しみる

鬱陶しい蝉の声。纏わりつく熱気。久しぶりに外に出たら夏の日差しが目に沁みる。
道端にひまわり畑が見えた。
多くが太陽を目指して真っ直ぐ鮮やかに咲いている。それらの陰に、萎れて惨めに横たわる一輪のひまわりを見つけ、ドキリとした。
ああ、これは私だ。
眩暈がした。蝉の声が嫌に大きく響く。

真夏の日差しって眩しすぎるから、一周回って気が滅入るよね、って話。


かたつむり

しとしと雨はまだ止まない。
庭先にかたつむりが一匹。
ふと幼い頃に遊んでくれた隣のお姉さんを思い出す。
「角を触ると、縮むんだよ、ほら」
そう言って僕に向ける笑顔は、梅雨も吹き飛ばすほど晴れやかで。
引越したのはもう随分昔の事だ。
それでも。
角をつつく。それだけで僕の心は幾分晴れる。

我ながらオネショタを書きたいという煩悩から生まれたとは思えないほど綺麗な仕上がり。


死ぬ時は自宅と決めていた。
病に臥して死を待っていると、襖がすっと開き、閉まる音が聞こえた。次いで軽い足音。もう目も見えないが、私には不思議と、それが幼い頃に行方不明になったミィだと分かった。
「お迎えに来てくれたのかい」
ミィの鼻先の感触。
お前に再会できるとは、悪くない最後だ。

しれっと襖を閉めてるのが個人的こだわりポイント。


学校の帰り道。予報が外れて酷い雨。
雨粒が俺のビニール傘を激しく叩く。隣を歩く幼馴染は白いレインコート。
二人の間には雨音だけ。会話もないが、心地よい距離感。幼い頃から変わらない。良くも悪くも。
純真無垢な顔を見つめる。 この距離を壊したい。そう言ったら君はどんな顔をするんだろうか。

実は「困る」の時に書いた二人のその後という設定。


妙な夢を見た。
ぽこぽこと音を立てる水槽には熱帯魚が一匹。それをかじりつく様に覗き込む。水槽に映り込む顔は幼い頃の自分だ。
魚が何かを言いたげに私を見つめる。魚はついと顔を背けると、硝子を通り抜け、宙を舞い、空へと消えた。そうか、魚は空を泳ぐものだったかと思ったところで目が覚めた。

夢十夜みたいなのにしようと思って書いた。こどもの日が近く、ラジオで鯉のぼりに言及してて「ほんとだ、スゲー」ってなってた(まったくの偶然)


春の風

ずっと冬ならいいのに。毎年、暖かくなると私の心は軋みを上げる。
桜吹雪の下、彼は私に愛してる、と言った。
その彼はもういない。
春の風が吹く。花が散り、緑が芽吹く。その度、世界の鮮やかさが私を刺す。
置いていかないで、と思った。ここには虚ろな私だけ。春は私から色々なモノを奪っていく。

BGM ヨルシカ「春泥棒」
勝手に続編のつもりで書いてた。文字数のせいでバットエンドに。


冷たい

時折、狭い空間に身体を埋めたくなる衝動に駆られる。
ふと思い立ち、試しにクローゼットの中に入ってみた。薄暗さとひんやりした空気、防虫剤の香り。落ちつくけれど、まだ収まらない。
冷たいシャワーを浴びる。火照った身体が冷やされて、冷水が自分の輪郭を作っていく。収まった。そんな気がした。

何も思いつかなかったので、そのじれったさをただ書き綴った。クローゼットの中は落ち着く。


その骨董品屋の男は、この掛け軸は河童に貰った物だと言った。墨の濃淡で何かが描いてあるが、それが何であるか、とんと分からない。
その掛け軸を掛けた初めの晩、妙な夢を見た。
誰かが私に何か語りかける。私はただ、はいと頷く。
朝目が覚めると、枕元が濡れていた。その先は掛け軸へ続いている。

書きながら、元々こういう作風だったな、と思い出した。今見返すと意外とホラー。


さくら

辞表を提出して、家に帰る途中。開放感と少しの罪悪感から、普段飲まない缶ビールを買った。真昼間の公園のベンチで一口。苦い。罪悪感に沁みる。
ふと見上げれば満開の桜。どうして今まで気付かなかったのか。そうか、下ばかり見てたんだな。ふふっと笑うと、俺は残ったビールをグイっと呷った。

とにかく文字数が足りなかった。本当はごみ箱に空き缶をホールインワンしたかった。


ガム

「これで最後かな」
電話越しの彼女の声は、怒りや哀しみすらなく無機質だ。
「そうだね」
応じる自分はガムを噛みながら、電話早く終わらないかなどと考えている。
何か切欠があったわけでもない。ただ冷めた。恋愛などそんなものだ。
「じゃあ」
俺は電話を切り、味のしなくなったガムを吐き捨てた。

甘々な前作の反動で脳内で自動生成された。


「疲れた」
ふらふら家に着くと、ふわりとカレーの匂い。そうだ、彼が今夜はカレーだって言ってたっけ。扉を開くと、スパイスの香り。エプロン姿の彼がお玉片手に「おかえり」と迎える。それだけで私の心はすっと晴れるのだから単純なものだ。
「何?」
「ううん、なんでも」
きっと幸せって、これだ。

BGM ゆいにしお「息を吸う ここで吸う 生きてく」


冒険

おう、久しぶり。懐かしくて、つい寄っちまった。なに、お前との冒険は本当に楽しかったからな。
ドラゴン退治の時には参ったぞ。二日酔いで来やがって。あの時はよく生き残ったもんだ。
お前の好きな酒も持ってきたんだ。一杯やろうぜ。まあ今更、禁酒も何もないだろ。
静かに眠れよ、相棒。

いっそ全文セリフにしたものを書いてみようという実験。


透明

チリーン、と風鈴の音が鳴る。
ああ、またこの夢か。
悲しい事があるたび、僕はこの夢を見る。
大きなラムネ瓶の底に僕は一人。天からサイダーが注がれて、爽やかな香り。次第に、炭酸の泡に包まれる。
あの子の安らかな顔。 泡に溶けて、消えていく。消えてしまう。
チリーン、と風鈴の音が鳴る。

透明という言葉を使わず、透明なイメージの単語のみで構成してみようという実験。


困る

隣の席のケン君はいじわるだ。
授業中に消しゴムのかすを投げてきたり膝カックンしてきたり。
今日もこっちをじっと見てくるから、何?と聞くと、あっかんべーされた。
「ケン君いじわるだから嫌い」
ケン君の顔が固まる。びっくりするほどオロオロして困り顔。
よく分からないけど、今回は私の勝ち?

140字だし、色々実験しようと普段やらない作風に挑戦したやつ。可愛いいたずらがなかなか思いつかず、苦しんだ思い出。


真夜中、山頂の駐車場で車を降りた。遠くに町明かりが見える、お気に入りの場所だ。車体にうっすらと残る傷をなぞる。
「お前とここに来るのもこれが最後だな」
このポンコツには随分と苦労させられたが、いざ廃車となると寂しいものだ。
帰り道、何度もエンストした。その度、僕は寂しく笑った。

初投稿。風景イメージはイニシャルD。ラジオで言及されてびっくり。



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