見出し画像

パクチー攻略法

タイ料理屋に勤めていると「パクチー無しで!」と言う人が大勢いる。

自分も初めてパクチーを口にし、噛んでしまった瞬間、カメムシが料理の中に混入してて噛んでしまったかのような、強烈に不愉快な味が口に広がり「アガガガガ〜〜」と、もう一度口を閉め、パクチーを噛んでしまったらこの世の物とは思えない味がまた襲ってくると思って口を閉められなくなり、思わず吐き出そうと思ったが、一応分別出来る大人の自負が少しはあるので、その場に吐き出す事も出来ずに、決死の覚悟でビールで流し込んだ悪夢の様なパクチー初体験を今でも忘れない…

あの強烈な味がダメな人が多いのは「うんうん、俺もそうだった、そうだった。」

と、理解は出来るのだが、別にパクチーなんか無理して食べれるようになりたいっ!
なんて一度も思った事も無いし、
こんな不味い葉っぱなんか絶滅してしまえばいいよっ!

なんて思っていた俺が、ある事がキッカケとなり、パクチーが好きになって20年以上も経つと、すっかりパクチーが食べれなかった事などなかったかの様になるもんで、

パクチー抜きで…

なんて言ってる人に対して
「ちっ、あんな葉っぱごとき食えねぇなんて、ったくだらしがねぇなぁ…」
なんて思ったりしてしまう。

そのパクチーが食べれる様になったきっかけと言うのが、バンコクのカオサンロードの警察署方面の突き当たりの建物の2階にある「ゲイロード」と言うインドカレー屋のマトンカレーを食べた時だった。

それまでタイには、インドやネパールなんかに行くエアーチケットを安く買う為に行っていたが、当時はパクチーが大嫌いだったので、バンコク滞在中は、タイ料理で食べるのは、パクチーが入ってないパッシーユ(太麺焼きそば)と、屋台のムーピン(豚の串焼)やルークチンくらいで、あとはピザハット、ケンタッキー、マクドナルドなんかを食べていた。

アメリカンファーストフードは何食も連続で食べてられないので、カオサン滞在中は、日に一食はゲイロードでダールやサグなどのインドカレーを食べていた…

ある日、いつもの様にゲイロードに行って、マトンカレーとチャパティを頼んでみたら、出て来たマトンカレーの上に結構な量のパクチーが乗っていた。

「うげっ!」と思ったが、その日は何となく「チョット食べてみよっかなパクチーをっ!」

と思い、カレーの上に乗ってるパクチーを、カレーとぐちゃぐちゃに混ぜ、チャパティに乗せて食べてみたところ、なんとマトンの臭みとパクチーの臭みが絡み合い、パクチーの強烈な味が、良い感じのスパイスの役割を果たし、この上なく美味しいマトンカレーに感じた。

えっ、ウソだろ?

何であんなに嫌いだったパクチーが、美味く感じられてるのかが信じられなくて、自分の味覚がおかしくなっちゃったのではないだろうか?

と思い、あらためてパクチーをいくつもマトンの肉とルーに絡ませ、今度はチャパティに乗せずに、スプーンに乗せ、そのまま食べてみると、やっぱりあのパクチーの嫌な味がマトンカレーと一緒だと物凄く美味く感じたのだ…

あれれれ、なんだなんだ、美味いじゃねぇかパクチーって!

翌る日の昼食に、昨日パクチーが食べれたのは、マトンカレーだから食べれたのか?

マトンカレーじゃなくて、他の料理に乗っているパクチーも果たして食べれる様になったのかを検証する為に、バンコクの道端に良くあるコテコテのタイ料理食堂に思いっ切って入ってみた。

店内に貼ってあるメニューを見て、パクチーが乗ってる料理を探してみたら、ハッキリとパクチーが乗ってる料理は「トムヤム クン」だった。

初めてタイに来た時に友人と3人で、タイ食堂で
パクチーを退けて食べたトムヤムクンの味は、別に不味くはないが、あの複雑な辛さと甘さと酸味が混ざった味が、ちょっとゲロっぽい味に感じて「一回食べたからもういいや、こんなゲロっぽい味のするスープは…」と思い、それ以来食べてなかった。

ここのトムヤムクンもやっぱゲロっぽい味なんだろうなぁ…

かなりネガティブな気分で、トムヤムクンとカオパットクン(エビ炒飯)を頼んだ。

あっという間に火のついた茶色の土鍋に入ったトムヤムクンが出て来た。

茶色の土鍋の蓋を開けると、思い通りの結構な量のパクチーがスープに浮いていた、しかも後から出て来たエビ炒飯の上にも「えっ、炒飯にもこんな乗せんのかよ?」って思う程の量のパクチーが乗っていた…

炒飯とパクチーはチョット自信ねぇなぁ…

と、先ずはトムヤムクンから検証する事にした。

プチトマトや変なキノコもパクチーと一緒にレンゲに乗せて食べるべきか、スープとパクチーだけで味わうべきか、少し悩んだが、ビビる事はねぇ、スープとパクチーオンリーで真向勝負だっ!

と、レンゲにパクチーの茎と葉っぱを各2個ずつ入れ、スープと一緒に、フーフーしながら飲んでみた。

口の中でパクチーを噛みながらスープを飲んでみると「あっ!トムヤムクンのゲロっぽい味がパクチーによってゲロっぽく感じないっ!」

あれれれれ、トムヤムクンも美味く感じるぞ…

今度は、プチトマトや変なキノコとパクチーを一緒にレンゲに乗せて食べてみると、やっぱりトムヤムクンとパクチーが美しいハーモニーを奏でてるかの様に、凄く美味しく感じるではないか!

よしっ、では炒飯もっ!
と、パクチーを乗せて炒飯を食べてみると、炒飯とパクチーのハーモニーは感じなかったが、特段嫌な味には感じない…

あんなに嫌だったパクチーが、たまたま食べたマトンカレーに入ってて、なんとなく食べてみたら美味しく感じたのがミラクルに思えて来たと同時に、なんとも言いようのない喜びと、あのパクチーを攻略した!
と言う事実が、今まで生きて来た中で、こんなにも「ハッ!っと自分が変化した瞬間」を実感した事がなかったので、なんか凄く不思議な感覚だったのを覚えている。

人が成長したりなんかした時に「一皮剥けた」
と言う表現をするが、まさにバンコクのコテコテのタイ食堂で、パクチーを普通に食べてる「一皮剥けた自分」がそこにいたのだ!

まぁ、チョット大袈裟に感じる人もいるだろうが、俺には「パクチー攻略」が、それだけの大事件だったのだ!

そこで、パクチーが苦手な方々に俺からのアドバイスは「匂いや味にクセのある料理にパクチーを合わせて食べてみる!」と言う事だ。

ワキガの様な臭いを放つマトンとか…
ちょっとゲロっぽい味のするトムヤムクンやトムカーガイなどなど…

パクチー嫌いの皆様、是非試してみて「一皮剥けた自分」に出逢ってみて下さい…




この記事が参加している募集

私のイチオシ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?