ジャムおじさん


沖縄にいる友達の幼少期の話を聞いた。

十数年前の学生の頃の話だ。

習い事をしたいと思い
野球チームの見学に行った。


そのチームは
最近監督が代わったそうで
昭和の ど根性精神を掲げた
質より量の練習から

タブレット機器を使って動作分析をやったり
マシーンを使ったノック出しなど
当時では少し珍しい練習をするチームだった。


練習開始時刻に行くと
監督はおらず
学生のみで練習を始めていた。

グラウンドの外にあるベンチに母親と2人で座り
しばらく見ることにした。

足取り揃えたリズムのいいランニング。
その後に筋トレをしてから
キャッチボールを行い
ちょうど
ウォーミングアップが終わろうとしたタイミングで

監督が登場した。

見学をしたい旨は母親が電話で伝えていた。
その母親に促されて
自己紹介をしに行った。

友人 「こんにちは。田中A太郎です。
        今日はよろしくお願いします。」

監督 『うん。何か聞きたいことがあれば
         練習終わりにでも聞いてくれ。』

淡白な返しだった。

それより、そんなことより  
もっと気になることがあった。

そうだ。
声が似てる。
国民的アニメに出てくる
ジャムおじさんの声に似ている。

声質だけじゃなく
イントネーションまで似ているもんだから
すぐに監督の あだ名は 決まった。

絶対に口にしていけないとわかっていたので
その場は会釈をして
母親の元に戻った。




だが
そこからがマズかった。

監督が指示を出す度に
『バタ子、新しい顔を焼くよ!』
と言い出しそうでならない。

もちろん
自分だけの妄想である。

隣には真剣な眼差しで練習を見てる母親がいて
ふざけたことを言える雰囲気ではない。

そう思えば思うほど
笑ってはいけない状況であればあるほどに
妄想は膨らむ。


学生とキャッチボールをしていても
(本来アンパンマンの顔を投げるのはバタ子さんだが)

「あの球速で顔を投げたらアンパンマンも
むち打ち確定だな」

と考えてみたり

ストレッチをする2人の学生の背中を
片手ずつで押して
前屈のサポートする仕草も

「毎日パンこねてるから力強そうだな」

と考えてしまう。


笑わぬよう、息を止めて練習を見ていた。

早く終わってくれと願っていたかもしれない。


全ての練習メニューが終わったであろう時に
監督が全員を集めた。

「やっと終わる。開放される。」
と安心した。
いや、油断した。


終了の挨拶をするのかと思っていたが

どうやら、いつもより
練習に対する熱量が足りていなかったらしい。

もしかしたら
見学者がいるから監督も張り切っていたのかもしれない。



学生たちに対して注意と言うより
激怒だった。


しかし、忘れてはけいない。


彼の声は『ジャムおじさん』なのだ。

ジャムおじさんが怒鳴っているところを
想像してほしい。
顔を真っ赤にして。

男性にしては少し高めの声が
広いグラウンドに響く。

横にいた
母親が息を吸ったのがわかったので
何か言うのだと気づいた。

そして



母親  「なんか   野良犬   集まってきた


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