見出し画像

新約聖女

夜道を散歩していると、椪柑(ポンカン)かデコポンかはたまたそのどちらにも該当しない果物が成っている木に遭遇した。そんな木を前にして想起した内容であるが、その昔にこんな逸話があったらどうだろう。

ある街はずれのりんご農家に、一人の娘が。(ここではその名前をR子と仮定しておきたい。)R子はりんごのように瑞々しく、近所でも評判の美しい娘だった。もうすぐ18歳になるR子には親が決めた許嫁がいたが、その一方で将来を静かに誓い合った幼馴染の青年がいるとする。

その年の収穫時期が近づいたある日、R子はリンゴを狩っていた。そこに親の目を盗んで現れる幼馴染の青年。(ここではその名前をY太と仮定しておきたい。)恋心を寄せる幼馴染のY太は、りんごを狩ろうとするR子に目線をあげこう告げる。

「最近僕はずっと考えていたんだ。もしかすると、君はイヴの生まれ変わりじゃないかって。そうだとしたらこれから2人で世界を始めてみるのはどうだろうか。僕たちのことを誰も知らない遠い土地でリンゴのように甘い生活を送ろう。そうだ、それがいい。いいに決まっているよ。その行為が、神々(親)に対する最初の反逆だとしても…。」

そうY太が告げると、R子は静かに目線をリンゴからおろし、頷いた。夕日に照らされ、Y太を静かに見つめるR子の頬は心無しか赤く染まっているように見えた。それはまるでもぎたての果実のように。

のような駆け落ちのワンシーンが存在したりするのだろうか。僕は生憎、農家系の知り合いがおらずこのような話に遭遇したこともない。そして、R子のような果樹園を営む両親を持つ幼馴染も存在しない。

もしも、このような駆け落ちを知っている人がいれば一報をいただきたい。

※蛇足
終始リンゴの話をさせていただきましたが、文章の終盤「心無し」という言葉で”梨”を想起してしまった読者がいたら謝罪をしたい。特に本意はないのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?