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【小説】テクノロジーを語る勿れ【第48話】

 長い髪の毛をヘアピンで後ろで一つにまとめ、シャワーのお湯加減を指先で確かめながら微調整しているユカの姿を後ろから眺めながら、その小慣れた手付きに事務的な所作がうかがえるのはもはや不可避だと思いはするものの、そんなことよりも目の前の裸体に理性を擽られている自分を情けなく思う。
 線の細いユカの体のラインは広木の好みのど真ん中にあった。出るところが出ていないとという男性が多数派なのであろうが、広木は華奢な体に小振りな乳房や尻をした女性が好みだった。恥ずかしそうに隠そうとするのであれば小振りな乳房の方がしっくりくるからかも知れないし、主張のある体つきであればそれはそれでその部分の姿形においても好き嫌いを言い出す者が現れそうで厄介な気がしてならない。寧ろまな板に梅干しの種と揶揄されそうなくらいの体つきが好きだった。

 調整前のシャワーの水に触れていたせいか、わずかに鳥肌を立てたユカの体を腰とも尻ともなく触れると、ユカがそれをくすぐったそうな反応をして返す。お湯が出始めるとシャワーのノズルを一時的に壁側に向け、ボディーソープを広木の肩から体全体へと伸ばすように泡立て、股間のアレの根元から先の方へと触れた。その部分が気持ちほど膨張したような感覚を覚える。広木の体の泡を流しながら、ユカ自身も自分の体にまんべんなく泡を行き渡らせたのちに、それらをサッと流す。
 同じ動作をとるにしても、もう少しゆっくりとことを進めても良さそうなものをと思う。あるいは、これも業務上の事務的故なものであるなら仕方がないのかも知れないと合点する。ユカの手際の良さを関心するように眺めているとバスタオルを手渡され、各々で自らの体の水気を拭き取りながら、どちらからともなくベッドの方へ向かった。

 ベッドの脇に腰を掛けると、ユカが甘えるようにバスタオルで包んだ胸元をはだけさせながら広木の方へ体を寄せる。
「来てくれると思っていなかったから凄く嬉しい」
「そう言ってもらえると来た甲斐があったかも」
「いつもよりテンション低くない?」
「いや、そう言うつもりはないんだけど、就職を控えているからか色んなことに対してこのまま時間の流れに身を任せていて良いのかと疑心暗鬼なんだよね。別にこっちに住みながらやり残していることがある訳ではないんだけど」
「分かるかも知れない」
「だからという訳じゃないけど、今日も会えただけで満足しているかも。性欲とかそう言うことよりも、綺麗な人と会話出来ているだけで十分と思えていたりする(笑)」
「それはそれで嬉しいけど、せっかくなのでしようよ?」
「うーん…」
「わかった。じゃぁ横になってて。今日は私が会いに来てくれたお礼に頑張る」

 ユカに半ば押し切られるように、広木もベッドの上に横になった。強く拒絶したいというものでは毛頭ないため、そう言われるのであれば、やはりせっかくだし応じておこうという気になる。目の前の裸の美人はいつもよりも献身的に広木へのアプローチを寄越すように、丁寧にその舌先や指先を広木の体へ這わせた。顔の造形が完成し過ぎていて、自信の無さそうな異性は寄せ付けないオーラの漂うユカであるが、こういった姿を眺めているとまた不思議な印象を抱いてしまう。ユカは自分の顔ははっきりし過ぎてニューハーフのようだと自虐的に自らを揶揄した。だがそれも幾らかは美人であると自覚していないと生まれない発想だろうと広木は思う。

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