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【小説】テクノロジーを語る勿れ【第42話】

 何処となくそっとしておいた方が良いような気がしたのは、後輩が昔想いを寄せた相手だったからも知れないし、あるいは広木が数週間後には就職して地元を離れてしまうことが具体的に決まっていたからかも知れない。そのまま亜美と深い関係になるわけでもなく、広木は上京するまでの時間を手持ち無沙汰にやり過ごす日々を送っていた。久しぶりに親戚の家へ顔を出したり、家族と過ごす時間も作った。

 そんな中でも、ジローやマサ達は相変わらず弟のリョウを連れては繁華街へとナンパに繰り出そうと、夕食を終えたくらいの時間には広木の自宅へとやって来るか、広木かリョウへと連絡を寄越した。
 そう地元で過ごす時間も日に日に少なくなる広木にとって、新たに知り合う女性を増やすよりは、体の関係は持たずとも既に交友関係のある女性と当たり障りなく過ごす位が調度良さそうに思え、あまり外へ出てナンパに勤しむという気にはなれなかった。あるいは、少しこれまで無理目で敬遠しがちだった女性と時間を作っておいては、帰省時に会ったり会わなかったりといった関係に発展にしておくのも悪くはないと思った。
 そう考えると、その相手に亜美が挙がって来ないのは、やはり自分が深い関係になってはならないような意識が根底にはあったのかも知れない。

 そんなある晩、いつものようにジローから電話が入った。マサが皆に風俗を奢ってくれるから行こうと、広木とリョウにも声が掛かる。それくらいの遊び方であれば調度良いと広木は了承した。ジローはマサに金を出させるのが上手い。金を出させるとは言っても、当然仲間内なので騙したり何かに陥れたりするわけではないのだが、マサ自身も自分が遊ぶ金を持ってでもジローと遊ぶこと自体、時にはおこぼれに肖ることが出来るので満更でもないという様子でもあった。そういった時に皆が躊躇なく話に乗っかろうとするのは、マサの実家が古くから事業を営んでおり、いつも羽振りが良いというのも大きかった。

 通常であればマサの自慢の高級セダンに乗り込みさえすれば、その肥満体型に反して昔から運動神経だけは良く、ハンドル捌きも見事なマサの安定感のあるドライビングに身を委ねるだけで目的地に辿り着けるという至れり尽くせりであったところを、せっかくなのでと、たまには広島の流川の方へ足を伸ばしてみないかと提案した。
 県外ナンバーの高級セダンで広島の繁華街をうろつくことをマサは非常に嫌がる。地元のヤンキー連中の視線を無駄に集めてしまうというのがその理由で、過去に後方の車両に煽られて二度とこの車では行かないと豪語してもいた。そうであろうからと、広木が手狭ではあるが自分の車を出せば、そういう無駄ないざこざを避けられるだろうと添えると、マサはいつしか乗り気になっていた。
 広木の思惑は、シンガポール渡航中もたまにメールのやり取りを継続していたユカと、上京前に尋ねて驚かせてやってはどうかというものであった。広木が既に帰国して上京に備えているということや、ユカが以前勤めたナースコスプレの店から他店へ移ったというやり取りを交わす中で互いの近況はそれとなく把握していた。だが、金を落としてまでわざわざユカに会いに行くようなトーンでのやり取りにまでは至っていなかったが、この日のジローの誘いでふとそのように思い立ったのであった。
 比較的顔が効く見知った関係やそういったエリアで遊ぶのを好むジローは、遠出する分には特に構わないのだが、自分は帰りには寝てしまうと思うという宣言をしながら了承した。そうでなくてもジローはいつも帰りの道中は助手席を倒して堂々と眠った。一度そういう殿様のような振る舞いに皆が腹を立て、朝帰りついでにウイニングイレブンでもやろうと、寝入ったジローを叩き起こしてコントローラーを持たせ、その気の全く無いジローから大量得点を重ねては、全員で寝ぼけまなこのジローをこき下ろすという意味の分からない遊びに発展したことがあった。

 広木の運転で、最寄りの高速インターチェンジへ入ったところで、そういえば先日この車で亜美と濃厚なひと時を過ごしたのだという話を、乗り合わせたジローとマサ、リョウに暴露した。リョウは自分の同級生のマコトの元カノまでこの車で抱いたのかと半ば呆れたように「そう言えば、この車で何十人の女性が抱かれたんだな…」とぼやいた。

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