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【小説】テクノロジーを語る勿れ【第43話】

 この日ユカが出勤しているかについては、事前に確認するまでしなくとも実際に店舗へ足を踏み入れてからのお楽しみで良いと思った。唐突に出勤状況を確認したところで「どうしたの、もしかして会いに来てくれるの?」などという会話に至っては、驚かせるどころではなくなってしまう。それに、広島の繁華街にまで足を運べば無理にユカではなくても綺麗な女性は沢山いるだろうと、諸々のタイミングが合えばで十分ではないかという算段でいた。

 西広島バイパスを宮島街道へと下り、西広島駅前を路面電車の線路を沿うように平和大通りへと乗り入れ、暫く道なりに直進したのち中央大通り越えて薬研堀へと左折する。通り沿いのコインパーキングへ車を停め、適当な案内所へと向かう。
ユカが移った先のデリヘルの店舗の名前を案内所のスタッフに告げると、直ぐに利用が出来そうか店側に電話で確認してくれるというので、言われるがままに店内の煌びやかなパネルを眺めながら待つ。電話を終えたスタッフから、同じタイミングで店に入るには二手に分かれた方が良さそうだと言われ、マサと広木がユカの在籍する側の店へ、ジローとリョウが別の店舗へと案内してもらうことをその場で合意した。
 通りで声を掛けられると煩わしくて仕方ないが、こういう場合のために案内所のスタッフを無下には出来ない。店の名前のみを認識しており、とても場所まではという状況であったため、親切に案内してくれるそのスタッフへ暖かい飲み物でも手渡したくなるのを抑え、店舗の入ったビルの下まで案内されると非常に助かったとだけ告げてエレベーターへと乗り込んだ。

 薄暗い店内に足を踏み入れると、のっけからこの時間からでは少し待たせることに成るかも知れない旨をその店のスタッフから告げられる。さすがに案内所のスタッフもその先のことは知ったことでは無いのだろうと思いながら、ふとユカがこの店でどのような源氏名を使っているのかまでは知らないことに気付く。ここまで来て本人に連絡をしては意味が無いと思いながら、前の客の受付けが済んだあとにマサと広木が後へ続くように先へと通される。そういえば前の店でもユカは顔をぼかしながらも、写真の掲載を許容していたではないかと、イチかバチかで写真さえ確認出来れば指名出来るのではないかとその望みを託すことにした。衝動的に行動する際にいつも詰めが甘い自分を少し悔いた。

 マサと広木の前に7,8枚の女性の写真が胸程の高さのカウンターの上へと並べられる。その中に紛れもなくユカがいた。この店では口元だけをぼかしながら鼻から上ははっきりと顔を晒している。反射的にマサよりも先に広木がその写真を指差す。
 これからゆっくりと写真を吟味しようとしていたマサが「早っ(笑)」と言いながら、何かの秘密を共有するように笑みを返すので、一旦は安堵しながらもあとからゆっくり説明してやれば良いかと軽く流した。

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