自腹で風俗には行かないマン Vol.1

風俗デビューは18歳の秋だった。
当時の僕は高校を退学して通信制高校へ週1で通う以外はバイトに明け暮れる、暇を持て余す日常を送っていた。

ある日の平日。
両親も就寝した後の夜のこと。
1階のリビングで、つい先日行きつけのコンビニ前で声を掛けて親しくなった近くの高校に通う女子高生とメールでクリスマスの互いの予定についてやり取りしていた。
彼女が「ちょうど未だ予定は空いている」と言い「先着順だ」と煽るので、それなら乗っかって畳み掛けようと携帯電話からコールしていると、深夜だと言うのに家の電話が突然リビングに鳴り響いた。

「こんな時間に誰だ?」と、正直イラっとした。
誰だと気にしつつこんな時間に平気で家の電話を鳴らすのは僕のツレには違いなく、控えめに数コール鳴らして切れるのであればまだしも、応じるまで続きそうな執念みたいなものを感じたので、彼女を待たせてそれに応じることにした。

受話器を取ると案の定同じ中退組の日中自宅でゴロゴロしながら過ごすジュンの声だ。
「マジこんな時間に家の電話鳴らしてごめん!ってか今家の前に車で来ているんだけど…」
ただ事ではないに違いないと、深夜に電話を鳴らされたことに触れず問い返すとジュンが続ける。
「今から外出れる?」
「何で?」
「いや、車の免許も取ったしそろそろオレらもオトナじゃん?」
「知らんwwwww で?」
「皆でピンサロ行かないかな的な?」
「何だそれ。ってかいくらくらいかかるの?」
「とりあえず今日行こうとしているところは10000円くらいらしい!」
「服買えるじゃん」
「まぁね、それはそう!ただ社会勉強のために行っとかないとダメかなみたいな?」
「知らんwwwww」
「いや今日はマジで付き合って。マジで黙っていくのはダメだろうと思って怒られるの承知で家の電話鳴らしたんだって」

暇を持て余しているとやはりロクなことを考えつかないと呆れながら、僕自身も自宅とバイト先、月に何度かのたまの通学といった限られた生活圏での決まりきった活動行為には飽き飽きしていた。
こんな生活が高校を卒業するまでにもう1年続くのかと思うとウンザリする。

車の免許を取得したことで少しずつ生活圏も拡がりつつあった。
もしかしたら多感なこの時期のこういった節目でジュンが言うように皆少しずつオトナになって行くのかも知れないと、満更でない自分もいる。
通話中の彼女に断りを入れて身仕度をして玄関を出ると、通りに軽のワゴン車がスモールライトを申し訳程度に灯しながら闇夜に佇んでいた。
車に乗り込むと小学中学時分を共に過ごした見馴れた顔の変に気が昂ぶった様な表情がそこにあった。

寂れた繁華街のアーケード街の傍に車を路駐して通りを歩く。
幼い頃から父や母に連れられてよく来た馴染みの街にも夜の顔があるといったところだろうか。目当ての店はよくテイクアウトで利用したたこ焼き屋の角を曲がった場所にある、昼間はシャッターの閉まった建物だった。
昼間の顔とは打って変わって、ピンク色のネオンの下に薄暗い扉が構えている。
まるでドラクエの夜の街のパブでシナリオを進めるために会わなければならない人物とでも会うような、そんな冒険心が駆り立てられる。

フロントで前金で支払いをしながらプロマイド写真でその日出勤しているとされる嬢の中から、メイクやヘアスタイルが主張し過ぎていない無難な感じの好みに近い嬢を選んだ。
奥へ通されてボックス席で待機していると、女子高生ルックスのとても女子高生ではないのが見て取れる女性がカーテンを潜るように自己紹介を伴いながら僕の隣へ座った。
距離が近い。

「お兄さん若いよね?いくつ?」
「18!」
「高校生?もしかして明日学校?」
「普段は行ってないw」
「???…でも来てくれて有難う。ってか香水それ何つけてる?」
「Eau de Givenchy?かな。今日は」
「アシスの香水かと思った!似た香りだよね」
それを言うならASI's(アズイズ)だろうが、しかもそれマンダムの整髪料ブランドのオーデコロンだろうが、と口から出かかったのを飲み込んだ。どことなくイケてない感じにガッカリしていく僕を余所に、会話が弾んでいると捉えられているのか変わらず距離が近い。

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