二価のCOVID-19ブースターの認可は、その安全性と有効性に関する科学的証拠に基づいています。

概要

2022年8月、米国食品医薬品局(FDA)は、二価のCOVID-19ワクチン製剤を単回ブースター用量として認可しました。これらの二価製剤は、オリジナルのSARS-CoV-2株からのメッセンジャーRNA(mRNA)と、オミクロン変種のBA.4系統及びBA.5系統に存在するmRNAを含んでいます。これらのブースターが十分にテストされていないというネット上の主張に反して、FDAはこれらのワクチンを認可するという決定を、同様の組成と技術を持つ過去のワクチンの安全性と有効性に関する臨床的証拠に基づいて行ないました。

導入

2022年8月31日、米国FDAはプレスリリースで、COVID-19の一次接種後の1回のブースター投与として使用する2価のCOVID-19ワクチン製剤を認可したと発表しました。これらは、成人向けのModerna COVID-19二価ワクチンと、12歳以上の個人向けのPfizer-BioNTech COVID-19二価ワクチンです。

二価ワクチンは、2つの異なる抗原に対する免疫反応を引き起こします。これは、2つの異なるウイルス、或いは2価のCOVID-19ワクチンの場合には、同じウイルスの2つの変種を意味することがあります。多価ワクチンの例としては、2種類のインフルエンザAと2種類のインフルエンザBを予防する4価インフルエンザワクチンや、9種類のヒトパピローマウイルス(HPV)を対象とするガーダシル-9ワクチン等があります。

COVID-19ワクチンの原型は、SARS-CoV-2の初期株のスパイク・プロテインを標的としています。二価のCOVID-19ワクチンを開発した主な動機の1つは、スパイク・プロテインの違いによって、病気を引き起こし、免疫系を回避するウイルスの能力が変わるという我々の知見にあります。このような変化は、オリジナルのワクチンによって提供される防御レベルに対して重要な意味を持ちます。

二価ワクチンブースターの主な目的は、オリジナルのCOVID-19 mRNAワクチンと同じで、SARS-CoV-2のスパイク・プロテインに対する免疫反応を誘導し、病気を予防することです。二価ワクチンは、変異したスパイク・プロテインに特異的な免疫を誘導することが出来るという違いがあります。

二価ワクチンは、優勢なオミクロン変種をターゲットにすることを目的としています。

認可されたCOVID-19二価ワクチンには、オリジナルのSARS-CoV-2株のスパイク・プロテインとオミクロンBA.4及びBA.5変種のスパイク・プロテインをコード化したmRNA分子が含まれています。スパイク・プロテインはBA.4及びBA.5変種では同一ですが、オリジナル株とは異なっています。

図1.
抗体はスパイク・プロテインの特定領域に結合し、SARS-CoV-2を中和する。
オミクロン変異型のスパイク・プロテインの受容体結合ドメインに変異があると、
他の変異型に有効な抗体が結合してウイルスを中和することが困難になる。
出典:
Scientific American

二価のCOVID-19ワクチンは、オミクロン変種によるCOVID-19に対して、ウイルスの初期株を標的としたオリジナルの製剤よりも優れた防御効果を発揮するよう設計されています。BA.4とBA.5の両方に合わせた一価のブースターは、オリジナルの株、BA.4とBA.5の両方に合わせた二価のブースターよりも効率的に同じ目的を達成するのではないかという議論が科学者の間でなされています

BA.4とBA.5の系統は2022年6月に米国で優勢となり、ロイターが報じたように、当時の同国のCOVID-19患者の半分以上を占めました。CDCが収集したデータによりますと、本稿執筆時点でも、両系統は米国におけるCOVID-19感染者の半数以上を占めています。

図2. 米国における全感染症に占めるSARS-CoV-2変異型の割合。
2022年7月30日から2022年10月29日の間の週次データ。
2022年10月15日から2022年10月29日までのデータには、
循環している亜種をより新しく推定することが可能なモデルであるNowcast予測を含む。
出典:
CDC

人での臨床試験で得られた既存のエビデンスに基づいて承認

今回承認されたブースターは、COVID-19の最初の二価ワクチンではありません。以前の二価ワクチン、特にオリジナル株とBA.1変異株を対象としたPfizer-BioNTechワクチンとModernaワクチンは、数百人の成人を対象とした臨床試験で安全性と有効性が検証されています。

FDAは、オリジナルのCOVID-19ワクチンの安全性と有効性のデータに基づいて認可を下しました。更に、新製剤と類似していると考えられるBA.1変異体を標的とした二価のCOVID-19ワクチンの臨床試験で得られた誘導免疫反応と安全性のデータも検討しました。

二価のBA.1ワクチンの臨床試験の結果はまだ公表されていませんが、Pfizer-BioNTech社、そしてModerna社のプレスリリースにその結果が記載されています。Pfizer-BioNTechのワクチンは、30μgと60μgの用量で、BA.1亜種に対するウイルス中和反応が同社のオリジナルワクチンに比べて9〜11倍に増加したことが確認さ れました。また、Moderna社製ワクチンでは、Omicronに対するウイルス中和反応が同社のオリジナルワクチンに比べて約8倍高いことが示されました。

両社とも、二価ワクチンの安全性・忍容性プロファイルは、オリジナルワクチンと同様に良好であったと報告しています。FDAのニュースリリースによりますと、二価ワクチンの試験参加者の間で最も多く報告された副作用は、注射部位の痛み、発赤、腫脹、筋肉痛、関節痛、悪寒、発熱、疲労、頭痛、吐き気・嘔吐でした。

欧州医薬品庁(EMA)もCOVID-19二価ワクチンを承認し、SARS-CoV-2のオリジナル株とBA.1亜種に対するModerna社製及びPfizer-BioNTech社製の二価ワクチンと、SARS-CoV-2のオリジナル株とBA.4及びBA.5亜種に対するPfizer-BioNTech社の二価ワクチンの承認が決定しています。

EMAは、既存の臨床データに基づいてCOVID-19二価ワクチンを承認し、BA.1、BA.4、BA.5系統の二価ワクチンは同じ組成であり、「同様の安全性プロファイルと標的株に対する予測可能な免疫反応」であることを指摘しました

既存の臨床データに加えて、米国FDAはPfizer-BioNTech社製の二価ワクチンの認可を、マウスを用いたいくつかの非臨床データに基づいて決定しました。研究者らは、8匹のマウスのグループで、原株とBA.4およびBA.5系統を標的とする二価のCOVID-19ワクチンに対する免疫反応を評価しました

二価ワクチン(オリジナル株+BA.4、BA.5)を接種したマウス群では、オリジナルワクチン製剤を接種したマウス群に比べてオミクロンBA.4、BA.5に対するウイルス中和反応が2.6倍、オミクロンBA.1用に改変した一価ワクチン接種群と比べてウイルス中和反応が4.8倍良好だったということです。

ワクチンは新たな臨床試験を実施せずとも定期的に更新出来るように設計されている

BA.4 及び BA.5 変異型の二価ワクチンを臨床試験でテストせずに認可する決定は、このインスタグラムの記事に見られるように、ワクチンブースターの安全性に疑問を投げかける、ワクチンの誤情報の餌食になっています。しかしながら、更新されたワクチンを臨床試験でテストしないのは普通のことです。実際、インフルエンザ・ワクチンでは、臨床試験を実施しなくても、毎年、現在のインフルエンザ・ウイルスの株をターゲットとして更新されています。

同様に、BA.4及びBA.5変種の二価ワクチンは、既に認可・承認されているCOVID-19ワクチンと全く同じ技術で、同じ成分を含んでいます。ワクチン組成が同じであるため、二価ブースターの安全性プロファイルが変わると考えるもっともな理由はありません。言い換えれば、更新されたワクチンの安全性は、オリジナルの製剤の初期の臨床試験によって裏付けられているのです。

フランスのNecker-Enfants Malades研究所のClaude-Agnès Reynaud所長がAFPに語ってくれたところによりますと、このアプローチによって研究者はワクチンを調整し、ウイルスの優勢な変異型にタイムリーに対応することが可能となるそうです。

mRNAワクチンの目標は、ウイルスの亜種に適応出来るようにすることです。臨床試験を実施すれば、6ヶ月後には結果が出ます。その時には、別の亜種が存在しているかもしれません。

https://factcheck.afp.com/doc.afp.com.32K34TY 

Pfizer-BioNTechの二価ワクチンBA.4とBA.5の臨床試験は、2022年9月に開始されました。2022年10月中旬のプレスリリース において、Pfizer社の会長兼CEOであるAlbert Bourla氏は、この試験はCOVID-19ワクチンに関する同社の透明性の方針に沿ったものであると説明しました。

プレスリリースでは、この試験の「ポジティブな」初期データが報告され、二価ワクチンの忍容性が高く、安全性プロファイルはオリジナルのCOVID-19ワクチンと同様であることが示されました。また、二価ワクチンはオリジナルワクチンよりもBA.4およびBA.5亜種に対して優れた防御効果を示すことが示唆されました。

結論として,オリジナルのCOVID-19ワクチンとそれ以前の二価ワクチン製剤の過去の臨床試験から,最近承認された二価ブースターの安全性について十分な臨床的根拠が得られています。これらのワクチンは、スパイク・プロテインをコードするmRNA配列が異なるだけで、BA.1変異体用の二価ワクチンとほぼ同じ組成を有しています。FDAとEMAは、同じ組成と技術の以前のCOVID-19ワクチンの安全性と有効性の臨床的証拠に基づいて、これらのワクチンの認可を決定したため、二価ワクチンの試験が不十分であると主張する一部のソーシャルメディア投稿は誤解を招くものです。

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