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9mm Parabellum Bullet 「BABEL」 8bit 制作記

はじめに

 この記事に興味を持ってアクセスしていただき、ありがとうございます!Joと申します。YouTubeではキケロイシュという名前で活動しています。(YouTubeチャンネル→https://www.youtube.com/user/kikeroish/featured)

 本記事はBABEL 8bitの制作中に書いたものです。1曲1曲の好きなところ、制作記録を綴ってあります。

BABELというアルバムについて

 出会ったのは2017年です。Waltz on Life Lineに次ぐ7thアルバムが出たということで、レンタルショップでCDをレンタルしました。
 
 まず、ジャケットをみて「やばいな」と思いました。どれだけ熱量のある曲が揃っているんだろう。轟音がしそうだぞという予感がバチバチにしました。結果その通りでした。

 BABELの特徴はまさしく「アツイ」ことです。これはなんというか「アツい」「熱い」「厚い」、さまざまな「アツイ」を併せ持った不思議なものです。ただ熱血なだけでなく、極悪な感じ、闇を感じるような、畏れすら感じるような熱さです。ドラムのブラストパターンやギターの分厚いサウンドがBABEL指数を跳ね上げています。この熱量をどれだけ8bitで再現できるかが今回の目標でした。

 1曲1曲のバンドアンサンブルがしっかり構成されています。音数が多く、隙間なくみっちり敷き詰められています。そのため、壁のような厚さをもっているのに音楽的であるという、職人技が展開されています。

 個人的には、「このアルバムはベルセルクそのものだ」と思っています。9mmとベルセルクはアニメ主題歌(インフェルノ、サクリファイス)で繋がっています。今作はベルセルクと関連がありませんが、僕は上2曲以上にベルセルクの世界観を感じます。詳しくは後述しますが、アルバム全体を通してベルセルクのダークさ、青春、熱量、神秘性などの要素と非常に近いものを感じます。

ロング・グッドバイ

 一発目です。BPM 165, 4/4拍子, Em。

 ハードで疾走感があり、クリーンな場面もある9mmらしい1曲。この曲を聴くと「BABEL始まった!」という気持ちになります。出だしのタッピングからのブラストパートは何度聴いてもアツいです。

 打ち込みは特に問題なくクリア。ラストのノイズの再現だけ苦戦しました。問題はミキシング。というのも今までは「こんな感じかな」でミキシングをやってきたので、曲ごとにバランスがまちまちでした。このアルバムをきっかけにちゃんと自分のミキシング基準を作ろう、と試行錯誤を繰り返しました。「チップチューンだけどちゃんとバンドサウンド」を目指しています。

 この曲で、9mmの曲はパンニングが命ということを学びます。ボーカルが不在の時、滝さんパートのギターはけっこうステレオ(左右)で鳴ってるんですね。これは、BABELのレコーディングドキュメンタリー映像を見て初めて知りました。滝さんがレコーディング時に「ステレオで録りま〜す」と言っているのを見て衝撃!「卓郎さんは左、滝さんは右」という9mmのギターの音像への固定概念が覆されました。パンニングを工夫し、本家に近い音が鳴った瞬間は嬉しかった・・・

 好きなフレーズはなんといっても冒頭のタッピングです。超カッコいいです。ときおり入るF#の音がセブンスっぽいというか、何とも言えない空気感を生み出していてエモいです。

ロング・グッドバイ 冒頭のタッピング

クリーンパートのベースソロも最高ですね。レコーディング時にスタッフが「このフレーズカッケェ〜〜〜」と言っていたフレーズです。とてもわかる。この部分だけ音色を三角波にしたのは正解でした。

ロング・グッドバイ クリーンパートのベースソロ

Story of Glory

 すかさず続く2曲目。BPM 225, 6/8拍子, Dm。

 青春を感じる曲です。「Story of Glory」というタイトルもあり、この曲にはベルセルクの黄金時代編をすごく重ねてしまいます。「俺たちは今夜無敵なんだ!」なんて、まさに鷹の団って感じしませんか?

 この曲もミキシングが大変でした。終盤でギターが3本鳴るので何もしないと音の洪水みたいになってしまいます。ボーカルとギターのバランスを取るのが難しかった。

 この曲はサビが本当にエモいです。DmからのBmというコード進行が絶妙です。メロディーは伸びやかで、歌詞の通り風の中を駆け抜けるような感じでBABELの中でもトップクラスで好きです。滝さんのコーラスがとてもいい味出してます。ピッチが下のハモりはちょっと強めに鳴らすといいバランスになりますね。

Story of Glory サビのメロディー

「訳なんてなくて笑っていた!」の部分のボーカルは、普通の矩形波とDuty比をループ状に変化させたもの、計3パート鳴らしてます。人がたくさんいる感がうまく出せました。Magical 8bit Plug、Duty比いじれるのが本当に助かる・・・

I.C.R.A

 みんな大好きイクラです。BPM 140, 4/4拍子, Am。

 この曲からは「貴族の陰謀」感をすごく感じます。「おやりなさい!」ってめちゃめちゃ貴族ですよね。ミッドランド国王夫人がグリフィスを暗殺しようとするくだりをいつも思い浮かべながら聴いています。悪の匂いがプンプン漂う曲です。

 シンプルで短い曲なので打ち込み、ミックスともに大きな問題なく終了。この曲は絶対8bitにハマるだろうと思っていましたがその通りでした。魔女の城感が出てます。

 好きなパートはやはり冒頭のギター2本フレーズです。初めて聴いた当初「なにこれめっちゃ好き」となったフレーズ。凶悪なリフです。スコアがなければハモリの音取りは苦戦したと思います。スコア本当にありがとう・・・矩形波(Duty比12.5 %)の音が激ハマりでした。

I.C.R.A 冒頭のギター

あとはこの曲といえば「誰かさんが仕掛けたんだ監視カメラを〜」の部分のドラムとベース。超ダンサブルです。ベースはオクターブ高い矩形波を重ねてスラップの感じを出しました。

 ちなみにこの曲はスコアに「Scratch with Lighter」「Peel the Gum Tape」の指定があります。まじめに書いてあります。9mmのスコアはこういうところが好きです。Peel the Gum Tapeって何?

ガラスの街のアリス

 MVが出てる4曲目。BPM 165, 4/4拍子, E♭m。

 シンプルなバンドアンサンブルでクールな曲。ガラスの無機質な感じが曲自体からも感じられて好きです。

 曲構成がシンプルなためか、この曲は秒殺で完成しました。打ち込みを終えた時点でほとんどバランスも取れており、余計な手を加える必要が全くありませんでした。「バンドアンサンブルをしっかり組めば小細工はいらない」という理念が一番体現できた1曲。

 この曲はベースラインがめちゃくちゃいいですね。グリッサンドが多用されており、曲に推進力を与えてます。MVのカズもほどよく暴れてて好きです。Aメロの半音で下降する部分、サビのフィルイン(つなぎ)がとてもおいしいです。

ガラスの街のアリス Aメロのベースライン
ガラスの街のアリス サビのベースライン

眠り姫

 同じくMVが出ている5曲目。BPM 120, 4/4拍子, A♭m。

 初めて聴いた時はあまり好きになれませんでしたが、今では大好きな曲です。「原発への想いがこめられている」と知ってから、この曲に対する思い入れが変わってきました。また、単体で聴くよりもBABELというアルバム単位で聴くとけっこう存在感を感じる曲です。

 この曲はとにかく強敵でした。音数が多く、曲構成も複雑で、打ち込みが超手強かったです。凝りに凝った大曲です。特に中盤のクリーンパート。BABELの中では最も「静」が前面に出る瞬間。「どうやって弾いとるんや!」っていうくらいリバーブがかかった霧深い音世界で、スコアがなければ再現は無理だったと思います(スコアがあっても苦労しましたが・・・)

 この曲はコードがとてもよいです。「眠りたい 君を抱いて」の部分で右で鳴っている滝さんのギターのコード進行が死ぬほどエモいです。スコアを見て初めて聴こえた音。ここだけオクターバー踏んでるのも絶妙です。

眠り姫 ラスサビのギター(右)

そして目立つのはクリーンパート明けのベース。ディストーションがバリバリに効いてます。「目覚めてはいけない何かが始動した」感を強く感じるフレーズです。

眠り姫 中間部のベース

 ここまでが前半5曲。レコード版だとA面からB面へひっくり返して仕切り直しです。余談ですがBABELはCDもレコードも持っています。レコードで聴くBABELは臨場感があって、CDとはまるで別物のようです。何よりBABELの世界観がギッシリ詰まったあのジャケットを大きいサイズで見られるのは格別です。

 B面にすすむ前に1日小休止日を置き、おいしいお蕎麦をたべてエネルギーをチャージします。山菜天ざるそばとそばがきしるこをいただきました。たいへんカロリー消費の多いアルバムなのでたっぷり食べます。


火の鳥

 後半戦開始。BPM 180, 5/4拍子, F#m7(11/9)。

 火の鳥は数ある9mmの曲でもトップクラスで(おそらく1番)好きな曲です。9mmのアイコンとも言える冒頭のF#m7(11/9)のコード、入り乱れる変拍子と素早いドラムパターン、うねるベース、タッピングなどなど・・・9mmらしさを煮詰めたような濃ゆい1曲です。そして何より歌詞とメロディーが素晴らしい。あまり有名な曲ではないかもしれませんが、僕が9mmで1番よく聴くのがこの曲です。

 圧倒的な情報量の多さゆえ、打ち込みは苛烈を極めました。ものすごい音数!しかも4分の5拍子と4分の3拍子が一瞬で入れ替わったりするので、なんともDTMer泣かせな1曲です。これだけ音が多いと当然ながらミックスも苦労します。適切なバランスポイントが見えるまではトライアンドエラーの連続でした。

 この曲の好きなところはたくさんあります。

 まずは冒頭のコードが素晴らしいです。複雑です。アルペジオのパターンが良い感じです。

 Aメロのギター、ベース、ドラムの絡みが良いです。ドラムのスネアの位置が絶妙です。音数は多いのですが、3つのパートがちゃんと聞こえるのが職人技と言えます。2番Aメロではギターがクリーンになり、ベースとギターにコーラスがかかります。全員が派手に暴れている感じが好きです。

火の鳥 1番Aメロのドラム、ベース、ギター

 何より好きなのが、ラスサビ直前の構成です。3/4拍子が突然1小節だけ入り、また5/4拍子に戻り、サビで3/4拍子に戻ります。この変則感がたまりません。この部分でどんどん音が重なっていくよろこびも素晴らしいです。

火の鳥 ラスサビ直前

Everyone is fighting on this stage of lonely

 「エビワン」という愛称で親しまれる曲。BPM 185, 4/4拍子, B♭m。

 後期9mmによくあるヴァイキングメタル調の曲ですね。「モーニングベル」や「カルマの花環」と近い曲調です。速いです。

 この曲は個人的にガッツのテーマソングだと思っています。一人孤独に剣を振り、戦場を生き抜いてきたガッツに通ずる歌詞です。ガッツが1000人斬りをする場面を思い浮かべながら聞いています。

 打ち込みはギターソロ以外はラクでした。ギターソロは強敵です。音価が入り乱れるフリーリズムっぽいソロです。一番やりたくないタイプの打ち込みです。もういっそギター弾いちゃった方が早いんじゃないかと思います。

Everyone is fighting on this stage of lonely ギターソロ

 この曲いえばラスサビのコーラスですね。大勢で歌っています。最初はコーラスの英語がなんて言っているのか全然わかりませんでした。実は滝さんパートのギターもコーラスと同じフレーズ弾いてます。スコア見て初めて知りました。

バベルのこどもたち

 山場です。BPM 128, 4/4拍子, Gm。

 このアルバムの象徴とも言える曲です。それだけに、曲もとても気合が入っています。この曲は2017年に8bitアレンジ版を作っているので、今回はリメイクです。二回目ですがうまく作れた手応えはありませんでした。それだけ手強い曲です。

 メンバーが言っていましたが、めちゃくちゃ難しい曲です。特にドラムが信じられないぐらい手数が多く、複雑です。そしてスコアがめちゃくちゃ黒いです。

バベルのこどもたち Bメロのドラムパターン

 この曲の最大のエモポイントはもちろん間奏の轟音パートです。ここにはBABELというアルバムが凝縮されています。しかし8bitで再現するとなると結構頭を使うことになります。バンドアンサンブルに気をつけないとただグシャーっとしただけになってカッコ悪いです。なので、轟音の中でもバランス感は取るよう心がけました。ここは重ねたパートが多いです。4ピースの上に、シンセPad2パート、ノイズ、シャウトのノイズを重ねています。たぶん全曲中最もトラック数の多い曲です。

 個人的におすすめなのが、2番サビ後のCメロです。轟音パートを予感させるパートです。ここはそれまでの進行と違ってコードが次々入れ替わります。そしてとてもドラマチックで胸が締め付けられる感じがします。ここは思い入れがあるのでシンセPadをうっすら入れています。

ホワイトアウト

 ラス前の曲です。BPM 200, 3/4拍子, Am7。

 BABELの中で唯一クリーンな曲です。そしてワルツな1曲です。この曲はガッツが鷹の団を抜ける時に雪の中でグリフィスと切り合いをするシーンの曲だと思います。そうとしか考えられないくらいすべてがピッタリです。

 音数が少ないので打ち込みはラクな方でした。どちらかというとサウンドメイキング、空間表現の方に重きを置いています。この曲は打ち込みをしてから愛着が湧きました。

 この曲で好きなのはベースラインです。アルバムの中でこの曲のベースのみ三角波をメインで使っています。ラスサビ直前のベースとクリーンギターの絡みが絶妙でとても良いです。

ホワイトアウト ラスサビ直前のベースとギター


それから

 ラスボスです。BPM 205, 3/4(6/8)拍子, Gm。

 この曲は構成が手強いです。メトリックモジュレーションが使われています。メトリックモジュレーションとは、テンポを変えずに別のテンポに切り替わったように錯覚させるリズム上のテクニックです。この曲は四分音符=205, 3/4拍子です。四分音符を「タタ」で表すと「タタ・タタ・タタ」で1小節です。しかしサビ直前で「タタタ・タタタ」という6/8拍子のパターンに変わります。テンポは変わらず、小節内の区切り方が変わっただけです。1小節に含まれる「タ」の数は変わりません。この変化っぷりは強烈です。プログレなんかだともっと複雑なメトリックモジュレーションが使われますね。

 そんなに長くない曲なので打ち込みは難なくクリアしました。大変だったのは冒頭ギターの再現です。打ち込んでみてもなんかダサいというか、迫力が出ませんでした。原曲の、フルピッキングしている感じが出ませんでした。そこで矩形波と同時にノイズを鳴らしてすこし音を汚しています。

それから 冒頭ギター

おわりに

 最後まで読んでいただいてありがとうございました。そして、BABEL 8bitを聴いてくださった方、ありがとうございました!9mm 8bitは今作で制作環境が固まってきました。これからは効率よくアレンジをやっていけそうです。これからも頑張ります!

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