プリンセス・プリンシパルちせリリ2次創作「case73 Duel of Wrecking Ball」

「そんな馬鹿な話があるか!」
ちせは激怒していた。
「お主のたった1人の妹なのであろう!」
「ギャビストン家の……為なのよ……」
リリは絞り出すように言う。目には堪えきれぬ涙の川が湛えられていた。
「家のため……」
ちせは逡巡する。家名を守る為、大義を捨て暗殺者へと身をやつした男の顔が浮かんだ。
「だが、そんなものが家名を守るための手段であろうはずがない!」
「でも……わたしにはどうする事も出来ないの……!」
リリは俯いたまま嗚咽を漏らした。
全てはギャビストン家次女ニーナと、ネアポリス公嫡男との婚姻から始まる。
両家の政略婚は当初円滑に進んでいた。リリは、たった1人の妹の幸せを信じて疑わなかった。
だが、半年ぶりに出会ったニーナは、全身が傷だらけであった。
口をつぐむニーナを問いただしたリリは、彼女が夫であるネアポリス公嫡男から手酷き虐待を受けていた事を知った。
「おのれ……ネアポリス公……!わが友の涙を流させた罪、どう贖ってもらおうか!」
「や、やめてくれちせ!」
「だが!」
ちせはリリの眼を見てしまう。
「っ!」
泣きはらし、真っ赤に充血した彼女の眼。ただ一人の妹と、政略婚によって守られる一族の繁栄。掛けてはならぬ天秤の両秤り、リリの心は千々に引き裂かれようとしていた。
「くっ……こうなれば……!」
ちせが腰の刀に手を添えた、その時。
「話は聞かせていただいたわ」
「あっ貴女は」
「むっ、プリンセス」
戸口に立っていたのは、プリンセスであった。
「リリさん、私に任せてください」
「プリンセス、貴女は……」
「しー」
プリンセスはリリの口を指で塞ぐ。
「プリンセス、この件は……」
「はい、ちせさん自身で解決したい、ですね?」
「う、うむ」
「わかっています、ですから……」
プリンセスは、にこやかに言った。
「決闘、です」

一週間後、深夜。ちせ、プリンセス、そしてネアポリス公嫡男は人気の無い教会裏の墓地へ集まっていた。
「これは公国の律に基づく正式な決闘です。三度お互いに撃ち合い、そして最後まで立っていたものが勝者となります」
プリンセスが淡々と宣言する。
ちせは静かに嫡男を睨みつけている。
嫡男は、昆虫を思わせるような無感情の瞳で空を見ている。
この場に立ち会っている事実そのものが不満、そう全身で表していた。
「両者、構いませんね」
「無論だ」
「…………」
嫡男は答えない。ちせはより嫌悪感を増す。
「構いませんね?」
「……ああ」
「それでは、決闘を始めます。先攻は」
ネアポリス公嫡男。彼は腰につけたベルトに手を伸ばす。
「何を使う、汚い男め。銃か?剣か?」
「―――当然!「鉄球」だッ! 」
リリの妹の夫は奇妙な鉄球を投げつける!
「これは……っ!」
鉄球はちせの顔の横を通り抜け……否、顔の横で弾ける!
「くぅっ!」
散弾の様に飛び散る鉄球の"衛星"!ちせの左半身に血が流れる!
「鉄球はこれだけでは無い……」
「馬鹿な……!」
ちせの右目が驚愕に見開かれる。全く左半身に感覚が無い。
「ーーー左半身失調!」
ちせはふらつく身体を気力で持ちこたえる。
「ふん、だがお前の左半身は数分は感覚を失う。俺の姿も見えなくなる頃だ」
ちせは瞬きをする。リリの妹の夫の右半身が消失していく……否、ちせの眼に映らなくなっているのだ。
「こんな無駄な事はさっさと終わらせて、またあの女を痛めつけたくちゃあならない……あいつは殴りながらヤりまくるのがいい女だった。じゃなきゃあちっとも気持ちよくねーし……つまんねぇ女だった……」
ちせの意識が怒りに塗りつぶされる。ちせは感覚の残る右半身に意識を集中させる。
「すぅーーっ……」
ちせは弾丸を鉢巻で包み、スリングショット状にして狙いを定める。
「コォォォォ……」
「なんだ……?」
ちせの体が黄金色に輝き出す。周囲の大気に、揺らぎが……波紋が生じ始める!
「なんだそれは!」
「お前は知るまい、これは東洋に伝わる、仙道!」
リリの妹の夫の表情が初めて歪む!
「仙道波紋疾走!!」
ちせの放った波紋の弾丸がリリの妹の夫のこめかみを穿つ!
そのまま彼は天を仰ぎ倒れこんだ。
「勝負、ありです」
プリンセスは淡々と宣言した。

2日後。プリンセスの計らいにより、リリの妹の離婚が認められ、夫には然るべき罰が与えられる事となった。
「ちせさん……ありがとう」
リリは衝動のままちせを抱きしめた。
「わっ我が友の為……と、当然だ」
赤面し、目をそらすちせ。
「感謝をいくらしても、足りません……」
リリは浮かぶ涙を拭った。
「でも……何故わたくしの窮状をお分かりになったの?」
「そっ、それは……それぐらいわかる」
「ちせさん……」
リリは熱に浮かされた様にちせを見つめた。
ちせは眼をそらす。嘘だから。
(((……私は嘘つきだ)))
ちせは、リリの部屋に仕掛けた盗聴器で彼女の泣き声を聞くまで、何一つ察知することが出来なかった。
(((私は塗り固めた嘘で、この人の信頼を勝ち取っている……)))
ちせは、最後までリリの眼差しを真正面から受け取る事が出来ないでいた。

終わり

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