等価交換殺人

俺は手の震えを抑えながら、指定されたカフェの一席に着いた。指定された赤いキャップに、グレーのパーカー。相手の格好は緑のシャツに、デニム。出された水に手を付ける。高ぶった俺の神経は、あまり水の温度を感じられなかった。

俺はこれから、殺人の打ち合わせをする。インターネットで出会った見ず知らずの男と殺意を共有し、お互いのために殺人を犯す。

『交換殺人』、俺は今からその打ち合わせをするために待ち合わせている。

俺の人生は、一人の男のせいで滅茶苦茶になった。何度殺しても殺したりないほどに、俺はそいつを憎んでいる。そして、これから会う男も、同じく深い憎悪と殺意を抱いている。

俺はネット上でそいつと殺意を共有し、深く理解しあった。俺と彼の境遇はとても似ている。ネットでほんの一か月語り合っただけで、俺たちは兄弟のように意気投合した。お互いの想いは、お互いの強く憎悪する人物への殺意で強く共鳴しあい、そして俺たちに交換殺人という手段を選ばせた。

やがて人目を気にしながらカフェへ入ってくる緑シャツの男が姿を現した。彼だ。俺は一目見て確信した。まるでこの日のために神様が二人を引き合わせてくれたのだと、運命さえも感じた。

彼はこちらに気づくと、テーブルへとどっかりと座り込み俺の顔を見て、凍り付いた。それは俺も同じだった。

「あ……アキラ……さん、ですか?」

「は、はい。あなたは……トウマさん……?」

彼は驚愕の表情を浮かべながら頷いた。俺もきっと、まったく同じ表情をしていた事だろう。何故なら、俺とトウマの顔は、双子のように瓜二つだったからだ。

この世には同じ顔をした人間が3人いるという、そんな使い古された話が脳裏に浮かんだ。しばし二人は気まずい沈黙に包まれた。


俺たちはお互いのアリバイのためにお互いの憎き相手を殺すのだ。だが……

同じ顔をした男が犯した殺人のアリバイなど、果たして成立するのだろうか……?

【アキラの事情 1へ続く】

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