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臨床推論 Case24

Clin Med(Lond).2021 Mar;21(2):e234-236.
PMID:33762393


【症例】
54歳 女性

【経過】
⚫︎ 1ヶ月ほど続く、嘔気、嘔吐、体重減少、傾眠傾向のため受診
⚫︎ 数ヶ月前から咳嗽と労作時呼吸苦があり悪化傾向であった
⚫︎ 30年の喫煙歴があり、現在は禁煙中
⚫︎ アルコールはたくさん飲んでいたが、症状発症前に2ヶ月禁酒していた
⚫︎ BP110/85mmHg、HR109bpm、RR18-20bpm、SpO2 99(RA)
⚫︎ ラボは以下の通り

⚫︎ ECGはT波の平坦化があり
⚫︎ トロポニンは陰性
⚫︎ Xpは左胸水貯留と心尖部に腫瘤病変が疑われた

⚫︎ アルコール過剰摂取と判断され肝臓の専門の施設に送られた

⚫︎ 受診時無気力で脳症を認め、頸静脈怒張と圧痛を伴う肝腫大を認めた
⚫︎ さらにALT1833 INR2.12 Bil52μmol アンモニア128であった
⚫︎ これらのデータと所見から急性肝不全の診断となった
⚫︎ CTは以下の通り

⚫︎ CTでは静脈拡張、心嚢液貯留、肺のmass、肝臓鬱血、胆嚢と大腸の浮腫を認めた
⚫︎ 肝臓は”nutmeg” appearanceで静脈鬱滞による2次性の変化と考えられた
⚫︎ 肺のmassは肺がんで肺塞栓と脳転移を認めた
⚫︎ 心嚢液貯留を認めたので緊急で1.5L抜いた
  すると症状が少し改善した
⚫︎ 心嚢液から小細胞癌が検出された

What causes liver failure?






【診断】
心嚢液貯留による急性肝不全

【経過】
⚫︎ 初めのうちは症状改善したが、最終的には亡くなられた

【考察】
⚫︎ 今回のように著名なALT上昇はアルコール性肝炎ではrareである
⚫︎ 肝酵素の急激な上昇はウイルス、自己免疫性肝炎、ウイルソン病、薬剤、肝臓虚血である
⚫︎ 肺癌による急性肝不全は転移によるものが大半である
⚫︎ 肺癌による心嚢液貯留、心タンポナーデによるALFは2例報告あり、いずれもドレナージで肝酵素上昇は改善している

⚫︎ 心嚢液貯留+ALFの文献はちらほらあり機序は以下の通り
・心嚢液貯留による心拍出量低下
・低酸素性障害
・鬱血による障害

⚫︎ 虚血性肝障害では肝毒性パターン、鬱血性肝障害は胆汁鬱滞性パターンを呈する
⚫︎ 画像は肝臓の低還流障害と鬱血性肝障害の鑑別に有用である
⚫︎ 前者は肝実質の造影不良、後者は斑状の「ナツメグ」パターンになる
・TIPS後の虚血(Radio; Case Rep.2019 Jul;14(7):876-879.)

・肝臓の鬱血(Radiographics.2008 Nov-Dec;28(7):1967-82.)


⚫︎ 肝臓の鬱血は肝静脈や下大静脈が拡張し、右心不全の特徴を示す
⚫︎ 組織学的には類洞の拡張とそれに続く類洞周囲の浮腫、血栓、出血を認める
  最終的に中心静脈周囲の肝細胞が消失し、線維化が進行する


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