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シャーロック・ホームズの凱旋を読んで

※こちらのnoteはネタバレを含む可能性があります。本筋には可能な限り触れないように表現しており配慮していますが、ネタバレを好まない方はご遠慮ください。

私にとっての読書とは

私の最近の趣味は専ら読書である。
眠れない夜に読み耽るお気に入りの1冊、購入したばかりの本を手にカフェに足を運び、コーヒーを片手に窓際の席で過ごす時間。それらは私にとって至福の時間であり、1冊の本との出会いは私を日常の喧騒から離れた世界へ瞬く間に連れて行ってくれるのである。

シャーロック・ホームズの凱旋

 「天から与えられた才能はどこへ消えた?」
これは作中でかの有名な名探偵、シャーロック・ホームズが大スランプに陥った際の台詞である。この本はシャーロック・ホームズの唯一無二の相棒ジョン・H・ワトソンの目線により物語が進んでいく。舞台はヴィクトリア朝京都という独特の世界観が織り込まれた舞台からスタートする。やや現実味を帯びない世界観の設定であっても、この本が辿るストーリがやけにいきいきとして、それでいて身近に感じられるのはホームズとワトソンとのやり取り、台詞に人間味が多く感じられ親近感を持てる部分があることが第一に挙げられるだろう。私は1ページ1ページ読み進めるたびに、ヴィクトリア朝京都の世界に落ちていき、まるでホームズとワトソンのやり取りを眼前に見ているような気持ちにさえなったのである。
 さて、もちろんのことであるがこの本に登場するのはホームズとワトソンだけではない。大スランプに陥った名探偵シャーロック・ホームズ、それをどうにか克服させようと奮起する相棒ジョン・H・ワトソン。そしてワトソンの妻メアリ・モースタン、ホームズが住む下宿屋の家主ハドソン夫人、ホームズの部屋の上の階に住まうジェームズ・モリアーティー教授。他にも大いに魅入られる設定の登場人物が多く登場する。またスランプに陥り自らと孤独な闘いを行っているホームズであるが、実際のところホームズのスランプを通して、ワトソン、メアリ、ハドソン夫人、モリアーティー教授、その他登場人物の多くが自らと闘うことになるのである。独特の世界観の設定が緻密に行われていて素晴らしいことはさることながら、この登場人物たちの設定が物語の展開にエッセンスを加える重要な役割を果たしているのである。
 ここで忘れてはならないのは、この本のカバーデザインである。物語を中盤まで読み進めたころ、このカバーに描かれているデザインが、いかに物語を忠実に表現しているかはっと気づかされるのである。

最後に

私は好んでミステリや推理小説系を読むことは滅多にない。それはなぜなら、独特の世界観、恐怖が少しずつこちらに迫ってくるようなあの感じが、得意な類ではないからである。しかし、この物語は不思議な世界観、そして言葉で言い表すことのできない恐怖や不思議な現象といった場面になったときでさえ、私の心は怖れに支配されることなく、むしろよりワクワクする方へと導かれていた。それはヴィクトリア朝京都という独特な世界観の中で進んでいく物語であっても、登場人物たちのやりとりが人間らしく、あたかもヴィクトリア朝京都が実際に存在するような、そんな気持ちにさえなってしまっていたからなのかもしれない。いや、大スランプに陥ったとはいえ、あの名探偵シャーロック・ホームズがいる、ということが私の心にどこか安堵をもたらしていたのかもしれない。
さて、あまり物語の多くを語るのはやめにして、この本を是非あなたの手元に迎えていただきたい。この本を開いた瞬間に、あなたもきっとヴィクトリア朝京都の住人となることだろう。


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