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作家先生

 午後二時。
仕事中に、外から電話がかかり受話器を取る。
「柳田先生いらっしゃいますか?」
と、隣に座っている後輩の名前を呼ぶ。
先生?驚き受話器を柳田に渡す。
電話が終わると直ぐに
「お前、何の先生なんや?」
と聞いた。すると
「僕、本を書いたんです。で今日、備後乃國屋書店の売り場の最前列に、本を置いたと連絡がありました。先輩一冊あげましょうか?」
 世の中わからんもんだ。仕事も出来る方じゃあないし、文章を書かせても誤字脱字は多い。そもそも文章になってないことを書く奴が作家の先生だと!?

 仕事の帰り道、早速、備後乃國屋書店に寄った。
確かに売り場の最前列に平積みしてあった。
定価1,200円。
手に取り、ぱらぱらとページをめくる。
しかし、一体どういう本なのか、何が言いたいのか読んでも全くわからなかった。
そもそも、こんな本が売れるのか。世の中、わからんもんだ。

 次の日、柳田がこちらの姿を見かけるや笑顔で駆け寄ってくる。
「どうでした?家ん中に、まだ200冊あるので一冊あげますよ」
というから
「ええよ、売れたら足りんようになるだろ」
と断った。

 翌年、仕事場を異動した柳田に久しぶりに会った。
「柳田先生。あれから結局、本は何冊売れたんや?」
「本?ああ今、家に500冊位あると思います。」
「500冊?!増えたじゃん。どういうこと?」
「本屋から在庫が返ってきたんで、今置き場に困ってます」
「はあ?」
「先輩、また第二弾を書いたんで是非読んでくださいよ!」
「おまえ、今の家で大丈夫なんか?」
と、遠回しに心配してやると
「ですから、今度もうちょっと広い家に変わろうと思うんです」

「先生も、色々と大変やなあ!」

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