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父親からのバレンタイン

 久々に息子が帰省する。
といっても盆に帰ったから半年ぶりか。
ゆったりした夫婦二人の生活から慌ただしくなる。
ま、それはいい。
息子が帰ってくると、母親は妙にテンションが上がる。
既にいっぱしの社会人である。
「何が食べたいだろうか。平生、大したものを食べていないだろうから、栄養のある物を食べさせないといけない。何が食べたい?」
と聞くがきまって
「なんでもいい。」
だよな。俺だってそういう。
にもかかわらず、普段食いもしない肉や魚を買ってくる。
まあ、それはいい。
誕生日に高い物を買ってやる。
まあ、それもいい。
いつまでたっても、母親は母親なんだろう。
 
 しかし、あのバレンタインデーに、息子にチョコレートを贈るのはいかがなものか。
確かに、それらしき女の子の気配は全く感じられないので、貰えてるとは思わないが、といって代わりにやる?
 自分が母親から貰っても、たとえ一粒千円のゴディバのチョコでも、ちっとも嬉しくもなんともないで。
やっぱり、気になる可愛い女の子からもらえば、義理でなければどんなに安くとも嬉しいものだし、苦いブラックチョコでも甘いもんや。
 これがあってのバレンタインデーだろうと、確信している。
 
「おまえ、息子の恋人でもなる気か?いやなってもかまへんが、息子は絶対に嫌やろう!なんで息子にチョコをやるの?」
と聞くと、
「誰からも貰わないから、かわいそうでしょう」
という。
「は?かわいそう?」
なんやねん、義理どころか、哀れみのチョコじゃないか。
また、息子は息子で、そのチョコを美味しいと気をつかって母親に答える。
 どうなんだか。
友達に、
「うちの奥様は独身の息子に、せっせとバレンタインだとチョコを贈っているが、アホじゃないか」
と言うと、
「え?うちも同じよ。今はどの息子にも母親がやるらしいよ。だから、恋人なんかを無理して作らないんとちゃうの?そのうえ、母親ならホワイトデーにお返しすることもないやろ」
 
はるか昔。
高校2年生の2月14日の寒い朝。
登校して自分のロッカーを何気なく開けると、眼の前にチョコが入った花柄の紙袋があった。
 
「息子よ。
 わずか20秒だけの勇気を出して、薔薇を摘め!」
とラインを送る。
 すると
「俺、トゲのある薔薇は嫌いなんだ」

意味ちゃうねん!

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