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夜更けに。

なんかさあ

いろいろあったよね

幼い頃は姉たちにかかりっきりの かあさん
慣れない農作業をして 羊やニワトリや牛を飼い
糸を紡いで娘たちに着せるセーターを編み
小川でセリをとり 野菜を洗い
晩まで 野良仕事をした
夕暮れにカラスが鳴き 山に帰る
かあさんとふたりだけで聴いたっけ
夕暮れ色の空を憶えてる

歳の離れたお姉ちゃんたちは 
遠くの学校に行き
とうさんは 夜更けに帰る
かあさんと二人だけの晩の
ことんと 音がして 
あれは 瀬戸になにが来てたんだろ

いろいろあったよね

小学校の修学旅行で 迎えに来てた
かあさんの日焼けした笑顔と広げた手
ステップを降りながら なんか気恥ずかしくて
なんか うれしかったな
いつも見る笑顔なのに 
なぜか 懐かしかった

もの言わぬ思春期
そして
娘時代の 初めてかあさんのこと
いじらしく思えた日のこと
なんか かあさん 弱く見えた

ねえ
わたし かあさんみたいな母になれたかな
この頃思うんだ
あのこたちに、ってね。

かあさん
わたし それでも それでも生きてきたんだ

思い出すな
かあさんに守られてた日々
道端に咲く花をみて
用水を くねくね登る日向に向かうへびをみて
そうして過ごした幼い頃の他愛ない
しあわせ

あれから
砂ぼこりの道を
大きな石に
つまずきながらも
歩いたんだよ
その日も 今では 遠くなって 
ぼんやりと見えるよ

よくがんばったね
そう 呟く夏の夕

そう
こうして生きてるんだもの

よく がんんばったよ
思い出したくないと思ったあの日でさえ
笑っているようだね

ふふ。
そうね。
笑ってみようか。
大丈夫の言葉の影送りをしようか。

ほんのりと 桜色して あの日たちが笑ってる


  頑張ったんだよと 今は居ぬ母につぶやきたい夜がある。
わたしね、と。
きっと ただ 頷いて 笑顔で聴いて 「そうだなあ」と
言ってくれるような気がする。
かあさん 生きたんだよ。
 そう言って 褒めたくなる時がある。

あなたは どうしているのかな。




もし 心に留まって下さったら、、、本を出すと言う夢に使わせていただきます。