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「ダイエットの極意」エッセイ

 万年ダイエッターとは私の事である。幾度となく挫折を繰り返す日々。理想の凹凸ラインは、はて、どこにいってしまったのか。

 ある時、友人からの紹介でダイエットコンサルタントという人に無料でアドバイスをもらうことになった。内容はほぼ食事制限。今までの3分の一程度しか食べない生活だが、2ヵ月経っても体重は減らない。

すると結果が出ない要因をコンサルタントは『私自身に現状変化を拒む自分がいるのだ』という。メンタルブロックというらしい。それを解く方法は「親に産んでくれてありがとう」と感謝の言葉を述べることだった。

すると一気に否定的な感情がこみ上げては身体がこわばる。そのままやる気は萎えてしまい、結果は出ぬまま3ヵ月の期間を終えることになった。

いつもの日常に戻った仕事帰り。カフェに立ち寄りコーヒーを飲む。なんだか気が晴れない。再び挫折したことよりも、カウンセリングめいた手法によって、苦い思い出が蘇っては反芻してしまうことに未だ傷ついている。

果てない虚無感にうな垂れているその時、隣のおばさまの大きな声が飛び込んできた。

「ほんでな、ガッとして、グッとはめ込んだらしまいや。あらびっくり!どんどん痩せてくる。あんたらも腹の肉をガッと押し込んでグッとこれをはめ込んだだけですらぁ~としたべっぴんさんになれんで」

濃いピンク色のノースリーブワンピースを着たおばさまが珈琲をくいっと飲み干して身を乗り出した。身振り手振りでダイエットの極意が繰り広げられる。その話の周りには少々ふっくらされたおばさま方が、へえー、ほー、などと感心した様子でいる。いつの間にかつい耳を傾ける自分も思わずうなずいていた。

夕陽に照らされるアスファルトの帰り道。なんだか足取りが軽い。脇道に揺れるヒマワリの顔がドヤ顔のおばさまと重なって笑い出しそうな衝動に駆られる。心が軽くなった分、体重も減っていればいいな。

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