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初めて気づけた、先生の変化

 「苦手だなぁ…」

 初回の講義でそう思ってしまった。初等社会の講義は、おじいちゃん先生が担当だった。現在67歳。この講義の全15回をもって退職するらしい。

 第一印象は、威圧的な話し方。初回のガイダンスで「ガイダンス」の意味を問うてきた。これは国語の授業か!?思ったことを正直に書いてみる。あれは授業じゃなくて、まるで演説だった。自分の考えを押し付けるような感じの話し方。何も悪いことはしていないのに、お説教でもされているかのよう。緊張して、息苦しくて、なんで何もしてないのに怒られているみたいな気持ちになっているんだろうと思った。将来社会の先生になりたいのに、この先生から何か学ぼうと思える気持ちにはなれなかった。

 そこから数回の講義は萎縮しながら受けていた。授業内で、先生は決して、間違ったことを言っているわけではない。確かにと思うこともたくさんあった。だけど、あの威圧的な話し方を聞いていると、なんだか素直に受け入れられないような気がした。

 その講義では時々課題も出た。私は、あの威圧的な先生にほめられてみたい、と謎に燃え、気合を入れて課題に取り組んだ。時間をかけて提出した課題は先生の目に留まり、クラスのみんなの前で紹介してもらった。ちょっと嬉しかったが、まだ気は許せない。だけど、ちゃんと褒めてくれる先生なんだとわかってから、先生への見方が少しだけ変わった。その辺りからだろうか。先生の話し方が変わったのは。いつからかはわからない。先生の話し方が穏やかになっていったんだ。あれ、今日は普通だ。緊張しないで済む、よかった。と思う時が数回あった。先生に対する私の見方が変わったからだろうか。そうして今日まで、初回で抱いた第一印象をすっかり忘れて、先生の穏やかな声に耳を傾けていた。

 今日改めて、やっぱり先生の話し方が穏やかになっていることを感じた。穏やかで、諭すような感じで、初回とは正反対。振り返ってみて、正直その変化に鳥肌が立つぐらい驚いた。

 先生の言葉が印象に残っている。「学び続けることが大切なんだよ」と。
先生が自分で気づいて話し方を変えたのかはわからない。もしかしたら、誰かが指摘したのかもしれない。でも、そうでなければ、

       先生と私たちの関係が確かに築けたんだ

ということだ。先生も初回は緊張して固くなっていただけなのかもしれない。あるいは「この学生たちには、こんな話し方がいいんじゃないか」とか考えてくれたのかもしれない。

たった14回の講義が先生を変えた。

先生に対する私の気持ちも変わった。

あんなに先生を苦手だと思ってた自分の気持ちが変わったことが嬉しくて。67歳になっても教師って変われるんだと気づいて胸がいっぱいになって。
先生と私たちとの関係が築けたことを実感して心があたたかくなって。
だけどもうすぐこの講義が終わってしまうことが悲しくて。
授業中なのになんだか泣きそうになった。こんな感情は初めてだ。この気持ち、忘れたくない。大切にしまっておきたいと強く思った。

 全15回の大学の講義。たった15回、されど15回。先生の変化に気づけた15回は自分のなかでとても大きな出来事だった。

先生、最後の授業もよろしくね。
先生のこと、もう苦手じゃないよ。



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