ドラマ「何かおかしい2」花岡さんの人間性について考察・分析(前編)

ネタバレあります。

ドラマ「何かおかしい2」に登場する花岡さんの人間性について考察していきます。

シーズン1の考察記事はこちら↓

花岡さんの中の乖離とか虚実について論じています。

前シーズンでは少しずつあらわになるズレた倫理観が見どころでしたが、今シーズンでは開き直ったというか最初からおかしくなった状態でスタート。何をしでかすのか、どんな結末を迎えるのか、目が離せませんでした。

これまで各話の出来事と上村さんの企みについて書いてきましたが、今回は花岡さんに焦点を当て、人間性や行動の背後にあるものを考えていきたいと思います。


*花岡さんの動画チャンネルについて

今シーズンの花岡さんを語る上で欠かせないのが動画チャンネル「ナーハーの暴露部屋」。ドラマ内の随所に出てきて重要な役割を果たしました。また、花岡さんの登場時テロップにも「youtuber 」と肩書きがついていました。

まずはここを掘り下げていきます。


❶なぜ暴露チャンネルを始めたのか

動画配信を始めた理由について。花岡さんは隅の婆様の件で、自分自身すらコンテンツとして消費されうることに気付きました。つまらない現実に見切りをつけて画面の中の人、虚構の中の人間になろうとしたのでは。

動画の方向性について。花岡さんは面白ければ何でもいい、という価値観の持ち主。でもその(花岡さんにとって)面白いことの中で暴露を選んだのはなぜか。シーズン1の復讐者や仕掛け人たちをロールモデルにしたのではないでしょうか。

旧オビナマでの事件の数々を通して、花岡さんは心底面白いと思える体験をしました(シーズン1考察記事参照)。もしかしたら、それほどの悦楽は人生初かもしれません。

旧オビナマでの騒動の数々には、多かれ少なかれ暴露要素がありました。第1話「おしゃべり人形」と第2話「虹色のハンカチ」では事件の犯人や憎悪の対象を公開処刑。第3話「その口〜(略)」では人気俳優の過去の暴行を暴露。第4話「いろはにほへと」ではSNSで失踪者捜索が行われ、第5話「儀式」では放送により出来事の意味の書き換えが為されました。最終話「隅の婆様」では怒涛の個人情報晒しラッシュ。

一連の騒動に感化された花岡さんが、楽しかった瞬間の再現と再演を求めて暴露に走ったのは当然の帰結かもしれません。


❷暴露のネタはどこから?

シーズン1の第4話より、花岡さんは過去に事務所所属のタレントのヤバい映像を消すバイトをしていたそうです。また、シーズン2第8話「めいこん」で土屋さんのもとでリサーチャーをしていたと話しています。

暴露チャンネルを開設したばかりの頃のネタは、バイトやリサーチャー時代に得た情報、構成作家として仕事をする中で見聞きしたこと、新しくネットなどで発掘したものが中心だったと推測されます。

そして初期は暴露対象の事務所の許可など取っていなかったのではないでしょうか。力のないうちは下手に事務所と接触すれば、差し止めや口封じの危険があります。花岡さんは訴訟など全く恐れていなかったでしょうが、せっかくのネタを使えなくなっては困ります。

それに、事務所の許可を得れば安全ですが、自由度は下がり予想外のハプニングもなくなって面白さ半減。面白さの要素のひとつは予測不可能性ですから。

この時期の花岡さんは訴訟と隣り合わせのスリルや暴露されたタレントからの文句すらエンターテイメントの一部と受け取っていたのかもしれません。コンテンツを提供する側でありながら、同時に自分も参加者として遊んでいた。

ある程度チャンネルが成長してからは、タレコミが中心だったと思われます。SNSに「今日もたくさんタレコミがあった」といった書き込みが何度か見られました。

タレ込む人は3種類に分けられると思います。1つ目が謝礼目当て。花岡さんの動画チャンネルには有料サロンがあり、収益化もされているようです。金銭の匂いを嗅ぎ取る人もいるでしょう。

2つ目が嫌いな奴を売りに来た人。個人的には一番多いんじゃないかなと思います。積極的に蹴落とそうとする場合と、自分が暴露砲を撃たれないように他人を売る場合、両方あり得ます。

3つ目は本人。落ち目になったタレントなどが話題を稼ぐために自身を切り売りするパターン。何もなく忘れ去られるより、醜聞でも騒いでもらえた方がマシ。うまくすれば清純派地味系から異性関係のスキャンダルを出してもらい、それを足掛かりにセクシー路線へ転向なんてこともできるかもしれません。賭けですが。

タレコミメインになる頃には、ターゲットの事務所に許可を取るようになっていたでしょう。信頼関係がなくてはネタ提供を受けられませんから。


❸力をつけていく過程

暴露系動画の面白さは、内容もさることながら、配信者が訴訟などの危険を孕んでいるところです。投稿主は最終的にどうなるのか、という興味で観ている部分も視聴者にはあると思います。

動画配信初期の花岡さんは、持てるネタを手当たり次第に公開していたのではないでしょうか。とにかく刺激が欲しい故のなりふり構わぬ暴露は、無鉄砲な危うさで人を惹きつけた。

また、ネタの使い方の妙もあったと推察されます。動画チャンネルのリストには大物芸能人絡みの投稿が並んでいました。一方、田島さんの知人の地下アイドルのような、無名の人に関する暴露も行っていたようです。

有名人のスキャンダルのような大きなネタは大勢の関心を得られますが、なかなか手に入りません。反対に個人のちょっとした恥は簡単に入手でき、ピンポイントで一部の人に刺さります。

大小のネタを上手く組み合わせて織り交ぜることで、さまざまな層にアプローチしてフォロワーを増やしたものと推測されます。登録者数が200万人に迫るまでに花岡さんの動画チャンネルは成長しました。

その頃にはルーティンが確立して、投稿の頻度も過激さも一応の定常状態に達していたと見えます。しかし花岡さんが配信を始めたのは面白さを求めて。なぜエスカレートしなかったのでしょうか。

人間の欲求は多岐にわたります。ある一つが不足していても他が満たされていれば、一定の充足感を得られることもあります。

登録者数の増加やフォロワーの反応で承認欲求が満たされた結果、面白さの追求が緩やかになったのではないでしょうか。花岡さんはプライドの高い人です。注目が集まるのは心地よいことのはず。実際、ドラマ内で田島さんから人気が出てタレント気取りと評されていました。


❹服装について

シーズン1ではラフでどこか業界人っぽい服装でしたが、シーズン2で暴露系配信者ナーハーとして登場した時には黒ずくめかつ重厚な衣装でした。

それにしても、あの黒い服の構造が未だによくわかりません。どこがどうなっているのか。着脱に難儀しそう。毎回細部が違っており、似たようなのを何着も持っているみたいですが……特注?

閑話休題。服装にはその人のスタンスが現れます。ナーハーとしての黒装束は何を表すのでしょうか。

色について、黒ずくめな理由は直感的にもわかります。暴露系としてアングラ感を演出するため。

問題は服の作り。機動性に欠け、裾がひらめくため動線確保も必要です。端的に言って動きづらい。特にラジオブースなどの狭い場所では。

もう花岡さんにあくせく動き回る気はなかったのだと推察されます。オビナマ構成作家としての振る舞いを見比べれば一目瞭然。前シリーズではスタジオとミキサー室をパソコン片手に何往復もしていたのに対し、今シーズンではあまりスタジオから動かずに内山さんを顎で使っています。


❺配信活動の変遷

旧オビナマ時代の興奮を再び得ようと配信活動をしている、と上の方で書きましたが、オビナマと配信とでは決定的に違うことがあります。

オビナマでの騒動は他者が巻き起こすものであり、花岡さんは当事者ではなく第三者として成り行きを楽しく眺めていた。謂わば最前列の観客。それに対して動画チャンネルでの暴露は自ら行なっている。つまり花岡さんは当事者。オビナマでいうところの復讐者やその協力者と同じ立場。

観客としての楽しみは外側から与えられる受動的なもので、展開が予測できない代わりに不発で終わることもある。当事者としての楽しみは自分たちで生み出すもので、展開をある程度思い通りにできる代わりに概ね予測の範囲内におさまってしまう。

喜びの質も種類も違うため、それぞれに対応する自己も異なります。前者は受け手、後者は作り手としての感覚。ここで問題が生じます。

オビナマ時代に感銘を受けたのは、受け手の方。でも面白い出来事はそうそう転がっていない。だから自分で作るしかない。しかし自分で作り出したものは自分の想定の範囲を出ない。逸脱こそが面白いのに。なんというジレンマ。

動画チャンネルの方向性として暴露を選んだ理由の一部はその辺にあるのでしょう。初期に無鉄砲な暴露配信を乱発したのも(←これは推測だけど)顔出しなのも、全部誰かが自分に何かしてくれないかと期待してのこと。フォローでもディスでも訴訟でも崇拝でも、それこそ復讐でもいい。客体としてのスリルを得られるから。

しかし、状況は変わり喜びも変質します。フォロワーや登録者数が増えて話題となり、承認欲求が満たされるようになると、今度はそちらを求めるようになります。暴露活動を続ければいいだけなので、手軽ですし。

すると何が起きるかわからないリスクは、むしろ邪魔になります。だから事務所に確認を取るようになった。動画配信の動機となった「受け手」としての花岡さんが蔑ろにされ、代わりに作り手が頭をもたげてくる。

もともと花岡さんは構成作家、作り手です。さらに「受け手」側は一人では何もできないのに対し、作り手は独立して活動できます。動画配信の主体となるペルソナの交代は、自然な流れだったのかもしれません。その新しい作り手側の花岡さんがナーハーなのではないでしょうか。

そして完全に仕掛ける側という認識になった証拠こそ「ナーハー砲」というネーミング。大砲には撃つ側と撃たれる側が明確に存在し、しかも大砲の後ろは一番安全と言われます。自分は暴露活動で他人を陥れるけれども、他人は自分に手出しできない。そういう感覚があったのではないでしょうか。


❻収益について

花岡さんの動画チャンネルには有料サロンがあり、そこでは伏せ字やピー音なしバージョンの暴露が観られるようです。

SNSを見たところ、結構サロンの会員は多い様子。でもそのお金を何に使っているのでしょう。花岡さんには金銭の使いどころなどなさそうです。強いて言えばネタを買うためくらいでしょうか。

登録者数200万人弱なら広告収入だけで十分生活が成り立ちますし、運営資金も賄えるはず。何故わざわざ有料サロンを作ったのでしょうか。

お金よりも「お金を払ってまで自分の動画を見たがる人」が欲しかったのではないでしょうか。

動画サイトなんてタダ見が大多数。面白いのは必要条件で、無料は絶対条件の世界。そんな中で課金するということは、その人にとって一線を越えるだけの価値があるということ。たとえ100円だとしても、払う/払わないの間には深い溝があります。

再生数や高評価数でも動画の評判はわかりますが、花岡さんはもっと強い指標を求めた。身銭を切るほどの価値を自分の活動に見出してくれる相手を抽出したかった。お金よりも、プライドを承認欲求を満たしたかったから。そしてそれくらい自分のネタに自信があった。だから有料のサロンを立ち上げたのではないでしょうか。

最終話で上村さんにサイバーネットジャパンの暴露をするよう促された花岡さんが、有料サロンでやると断り、「タダでやるかよ」と吐き捨てるシーン。この時も別に金銭報酬など考えていないでしょう。見返りなしのネタ公開は自分で自分のネタの価値をゼロにすること、という認識ゆえの台詞と推察されます。


まだ花岡さんの本編登場回まで進めていませんが、長くなったので分割します。

お読みいただきありがとうございます。
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