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5人(5)おわり

 だけども、問題は、今日の雨。では、ない。今日の大根である。今日の料理である。キューピー三分クッキングである。どっちでもいいでショーである。グルメ番組は大嫌いだ。貧すれば鈍するだ、ばかやろうなどと、具にもならない料理はなんだかんだと考える。同時に、頭の中では、キューピー三分クッキングのテーマソングが、たらたったったった、たらたったったった、と陽気にリフレインが叫んでいる。どうして、どうして。どぼじてと、いなかっぺ大将のセリフまで出てきてしまう。そこから、伊那かっぺいまで連想してしまう。伊那の本名は、佐藤元伸という。なんか嫌な感じがすると思ったら、監禁事件のハゲを思い出した。ちくしょう。暴力事件とか殺人事件とか戦争とか大嫌いだ。だから、ニュースも新聞も嫌いだ。
 だけども、問題は、今日の大根である。そこで、五人は、ふろふき大根を食べながら、ほらをふくことにした。
 あつあつの大根を口に入れた一人目は、札幌の回転寿司屋での事件を話した。あれは、ちょうど、アメリカの空母キティホークが函館に入港していた時期だった。馬鹿でかい水兵がススキノの街を埋め尽くしていた。夏だったから、皆、半袖姿だった。回転寿司屋でビールを飲んでいると、十人ぐらいの水兵が入ってきた。隣に座った短髪の水兵のうなじを見て驚いた。漢字の入れ墨が入っていたのだが、それは、生理不順という四文字だった。もちろん、水兵は全員男である。生理不順を見て笑っていると、その男は、Tシャツをめくって、背中一面に彫られた漢字五文字の入れ墨を出した。更年期障害。あっけにとられていると、次々と水兵がやってきて、文字の入れ墨を見せ始めた。一人は、腕に、ゲッターロボ。思わず、合体か、と心の中で突っこみをいれた。次は、意図的なのかどうか不明な、アントニオ古賀。トレモロか。トレモロ寂しか。アントニオといえば、猪木だろう。ビンタか。そんなにビンタが欲しいのか。それから、息子、というのもあった。とどめは、肉骨粉。そうしていると、店の従業員まで、入れ墨を見せ始めた。一人目は、背中一面に、回転寿司のメニューの一つである、茶碗蒸し。次の従業員は、シーチキン。そこまで、好きなのか。
 その後、この回転寿司屋で、水兵や従業員と、どんちゃん騒ぎをした。生ビールのタンク五本を空にし、日本酒も十升以上飲んだ。皆、限界にきていた。突然、誰かがえづいた。おえええええ。噴水のように見事な寿司ボンバーである。胃液の混じった酸っぱい匂いが漂う。その匂いが、他の人のゲロを誘発する。次から次へともらいゲロが始まった。おええええええ。うええええええ。自分も、ぶええええええ。ケンシロウのような水兵が、吐いていない奴の腹に百烈拳を、あたたたた、とお見舞いし、ひでぶうううう、ほげええええ、はぎゃひいいいい。店中がゲロで埋め尽くされた。従業員も吐いていたため、客をとがめることはなかった。吐き尽くした客は、身も心も軽く、店を出たのだった。
 五人は、次々とほら話を続ける。

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