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釘型手裏剣の話

手裏剣の由来折れた刀や短刀を再利用したもの、針から発展したものなど諸説ある。
その中でも釘を由来とする説がある。
この場合の釘とは現在一般に流通されホームセンターなどでも販売されている洋釘(丸釘)ではなく、所謂「和釘」である。和釘は一つ一つ手作業で作られており、角型でT字やL字など形状も様々である。
この和釘を利用したものが出自と一つされている。実際に角形の形状など手裏剣とよく似た外見の和釘も多い。

四角形や六角形、八角形の棒手裏剣を釘型手裏剣と呼ぶところもある。
形状は完全な棒状もしくは尾部がやや細く絞りが効いているものなどがある。
本物の和釘との違いを考えると、和釘は焼き入れをされていないものも多い。適度な柔らかさがあることで釘として打ち込んだ際に梁の交差した部分など硬いところを貫通せずに和釘自体が自然に湾曲するように変形して対象同士を繋ぎとめる。
対して手裏剣は全体もしくは先端だけ焼き入れをしているものが多い。
焼き入れとは鉄を加熱してから冷却することで鉄をより硬くさせることである。
和釘はT字やL字など独特な形状をしているものも多いのでそのまま手裏剣として打つには難しい。やって出来ないことではないが再現性は高いとは言えない。そこで直線に加工したものや、最初からそれに近いような形状のものを使ったと考えられる。
もしくは手裏剣のもう一つの側面である暗器や隠し武器としての使い方は非常に「実用的」だと言える。私はL字型の和釘を頂戴したことがある。和鉄を使用しているので非常にいい鉄味のものだが、握りこむとL字の両端が手から出てなんとも丁度よく、実用という一点で非常に合理的だと感じた。

現在流通している洋釘はJIS規格で大きさが決められていて、最大で長さ5寸(15cm)、太さは5.2ミリとされている。海外ではもっと大きいサイズのものもあるが日本で流通しているものに限定すればこれ以上大きなものはない。しかし和釘は一つ一つ手作りなのでその用途によって大きさも多岐にわたる。中には30cm近い巨大なものもある。
ちなみに呪いの儀式としてよく知られる「丑の刻参り」で使われる釘も本来はこの和釘である。現在一般販売されている5寸釘は洋釘なので名前こそ同じでも見た目は大きく異なる。そもそも太さが違うので見た目のインパクトが違う。呪いは人が運ぶものだ。藁人形に刺さっている釘のインパクトを狙うなら和釘の方がはるかに効率がいいだろう。おすすめはしないが。
古来から呪詛や、まじないと呼ばれているものは儀式として様々な道具を使うが、多くは紙や石などを使う。
鉄はいにしえの時代から貴重なものであり、その製法には大量の火を使うために膨大な木が必要とされてきた。森を伐採し、山一つ切り開きようやっと、わずかな鉄を作ることが出来る。鉄とはそうやって作るものだから古くから自然と相反するものとして捉えられた一方で生活や儀式とも深く結びついて発展してきたものである。その鉄を使う儀式は強すぎると言える。

話を手裏剣に戻すが私は釘型手裏剣のほかに、一般流通している洋釘の5寸釘を使って手裏剣の代用品を作ることがある。
その際は釘の頭をカットしたりするなどの処理が必要だ。釘の頭は出っ張りが強く、どうしても直打法の手の内に当たるのでこれがあるままではきちんとした打剣が出来ないのだ。
私は頭の部分をカットして糸などを巻き付ける。糸を巻くのは安全のため、太さをつけて持ちやすくするため、そしてバランスを調整するためである。この手作り釘手裏剣は非常によく飛びよく刺さる。
刺さりやすい一点に特化するように自分で調整をしているのだからある意味で当然と言えば当然の話である。
低価格でよく刺さるので、高額な手裏剣は必要ないのではないかと思われるかもしれないが、そもそも伝統的な手裏剣の中には刺さることだけを目的としていないものもある。
手裏剣は刺さるという結果がはっきりと出てしまう。だからともすれば結果だけを追い求めることに夢中になりがちだが、その過程で学ぶことも重要である。刺さったからすべていい、刺さらなかったらすべて悪いという単純なものではなく、その過程で何を思い何を学ぶか、そして次に何に活かすかがなにより重要なのだ。その道を解くからこそ手裏剣術も武道なのだ。刺さるだけなら代用品で十分だが、手裏剣術はそれだけではない。時には手裏剣の作り方そのものが伝統であるから、それを保存することに意味があるケースもある。
結果は大事だがそれに捕らわれすぎてはいけないのも手裏剣術の魅力である。

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