盲導犬と暮らし、盲導犬と語る(16) ほえなくていいんだよ

 盲導犬は基本的に「ほえない」ように訓練されています。
なのでたいていの盲導犬はめったにほえることはありません。

とはいえ、盲導犬は「どんなことがあっても絶対にほえない」ように訓練されているわけではありません。訓練中に、ほえても注意されるだけで何も良いことはない、ということを学んでほえることをしなくなっただけです。

今の私のパートナー(盲導犬)であるシールは、ほえるクセがまだ少し残っています。
そのことはシールが私のパートナーに決まる前に訓練士さんから「今度のパートナー候補の犬は少しほえ癖がのこっていますがどうでしょうか?」と意見を求められました。
もしその時私が「ほえぐせがある犬は私は無理です」と行っていたら、シールは私のパートナーにはならなかったかも知れません。

わが家に来たての頃のシールは外を歩いていても警戒したり驚いたりするとほえてしまうことがありました。
これは元々少しこわがりで警戒心が強いシールの性格から着ていたのだと思います。

やがてそういうことは、ほぼなくなりましたが、それでも家に誰かが来てインタホンを鳴らすとほえてしまうのでした。

インタホンが「ピンッポーン」と鳴るとほえてしまうことは、一頭目の盲導犬スースーでもありましたが、ほえるたびに私が「ノー!」と注意することで、スースーは全くほえなくなりました。

シールの場合も初めは同じようにピンポン音にほえたら「ノー!」と注意していたのですが、そんな時シールが、
「どうして注意するの?」
というニュアンスを含んだ声を出すことに私は気づきました。
それは明らかに、正しいと思ってやっていることを「間違い」だと言われた時の「どうして?」という心外な気持ちの声のトーンなのでした。

修行中のアニマル・コミュニケーションでシールにその理由を聞いてみると、次のような答えが返ってきました。
「ぼくはこのおうちとおとうさんを守っているから、誰か家にちかづいたら、ここにはぼくがいるんだぞ、って知らせているんだよぼくがこのおうちを守ってるって知らせることはぼくのお仕事なんだよ」

そこで私はそれまでのただ「ほえてはだめ」という態度を改めて、シールのその思いを尊重しつつもほえないようにすることを考えて次のような提案をしてみました。
「じゃあ、誰か来た時、私がほえなくてもいいよ、って言ったらほえないようにしてくれる?」
それからのシールはインタホンのピンポン音に反応してほえても、私が
「シール、ほえなくていいよ」
と声をかけるとほえないようになりました。
患者さんが来る時間の直前にケージの前に謂って、
「シール。これから●●さんが来てピンポーンって音がするけど、ほえないようにがんばってみようか」
と話しかけるとピンポン音がしてもほえないようになりました。
そんな時のシールはほえないように口を閉じながら、小さい声で「ウー~」とうなりながらも鳴くのをがまんしているのでした(笑)。
それでも、私がそばを離れているとまだ音に反応してほえてしまうことはありました。

そんなある日、オンラインで何人かの盲導犬ユーザーと話していた時、犬のほえぐせについての話題になりました。
あるベテランのユーザーさんが、「ほえぐせがあったら、心を鬼にしてほえてはだめ、ということをきちんと教え込まなければほえぐせは治らない」と言われていました。その方の盲導犬も来たばかりの頃にほえぐせがあったのですが、ほえたら有無をいわせずにケージに引っ張って行き、ケージを叩いて大きな音をさせて「ほえることは絶対だめなのだ」と教え込んだら、やがて全くほえなくなったのだそうです。
私もその話を聞いて、やはりそのように徹底しないとダメなのかな、と考え込んでしまいました。

私のやり方は犬がほえないようにするための方法としては効率的ではないし、これで本当にうまくゆくかもわかりません。。
でも、音に敏感で元々こわがりなシールにその方法を使えば、早く全くほえなくなるかも知れませんが、どうしてもそうする気にはなれませんでした。
その方法はたぶん直接的できっと効果的だろうと思いますが、それをやったら私とシールの関係が、私がこうなりたいと思う二人の関係とは違ってくるような気がしたのです。

なんだかこれって、子育ての方法がいろいろなやり方があるのに似ているな、とも思いました(笑)。子どもが一人ひとり違うように、盲導犬もそれぞれに性格が違うし、おそらく正解というものもないのだろうと思います。

そして私は、、
「せっかくアニマル・コミュニケーションを学んでいるのだから、その方法を使って対応してみよう」
と改めて思いました。

今日もシールは、私がそばにいて
「ピンポーーンって音がしてもほえないようにがんばってみようね」
と話しかけると全くほえませんでしたが、私がそばにいないとピンポン音に反応してほえがちで、
私が「ほえなくていいんだよ」
と声をかけると鳴き止むのでした。
ちょっと時間はかかりますが、時々話し合いながら、このやり方で徐々にほえることをしないようになると良いな、と思っています。

夜、最近シールは吠えることが少なくなったよ、とおかあさんに話すと、
「シール、がんばっているのね、えらいわね」
とおかあさんがシールをほめました。
でもシールは、いつもならほめられたらしっぽを振って喜ぶのに、今日はうずくまったままで、あまり反応しませんでした。

そこで私はシールにアニマル・コミュニケーションで話しかけてみました。
私「シール、最近ほえなくなってきたね、えらいね」
シール「でも、ぼく今日ほえちゃったよ」
シールはうずくまったまま顔をあげません。
まだついほえてしまうけれど、それはいけないことだと自分でわかっているようでした。

私「でも前に比べたらすごくほえるのを我慢できるようになったね。シールはすごくがんばっているよ。シールはえらいね!」
すると、シールはパッと顔をあげて、
「ほんと?」
と言いました。
私「ほんとだよ。シールはすごくがんばっているよ。えらいよ。」
と話しました。

するとシールはしっぽをふりながらパッと起き上がって私にかけ寄って顔をなめたのでした(笑)。

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