盲導犬と暮らし、盲導犬と語る(18) 遊ぼうよ! 

盲導犬というと「まじめにお仕事をする犬」というイメージが強いですよね。
これは、たいていの人が仕事中の盲導犬の姿しか見たことがないからです。
家にいる時の盲導犬は、ハーネスをしていないので「お仕事中」ではないふつうの犬です。
これまで私のパートナーだったスースーとシジミも、現在一緒に暮しているシールも、みんな仕事をしていない「素顔」の状態では遊び好きで人懐っこいかわいい犬たちです。

三頭の犬たちはみんな遊ぶのが好きですが、それぞれの性格はかなり違っていて、好きな遊びも「遊ぼう!」というアピールもそれぞれ違っていました。

●スースー
一頭目のスースーはけなげでおとなしく繊細な女の子でした。
スースーが一番好きだったのはボール遊び。ゴムでできたアミアミのボールを投げるとダッシュして追いつき、それをくわえてうれしそうに戻って来るのでした。もう一つ好きだったのは「かくれんぼ」。スースーから見えない場所で私がタオルケットをかぶってうずくまったまま「スースー、COME!」と呼ぶと、スースーは走ってやってきますが、私の姿がみえないので「あれ、おとうさんはどこ?」とウロウロしてから、匂いをたどって私のところまで来てクンクン匂いを嗅ぎます。そのときに私がパッと姿を見せると、スースーは「わっ!おとうさんがいた!」とピョンピョン飛んで喜ぶのでした(笑)。
私がパソコンに向かっている時、スースーがボールをくわえて「おとうさん、遊ぼう♪」とアピールしてきても、私が「スースー、今忙しいからムリ」と言うと、いったんは引き下がりますが、私がそのままパソコンに向かっていると、スースーは次の作戦をかんがえます。
そんな時、スースーは私のそばまで来て、わたしの足の上にボールをポトン、と落とします。足にぶつかってころがるボールをくわえて、またポトン、と落とし、ひたすらこれを繰り返すのでした(笑)。
結局最後には私が根負けして「わかった、じゃあ遊ぼう」となるのでした。

今はもう虹の橋をわたってしまったスースーですが、治療室のベッドの足元の窓際に笑顔のスースーの写真が飾られています。
そして私が写真に近づくと、いつでも春の陽だまりのような温かな愛情のエネルギーを私に送ってくれるのでした。

●シジミ
二頭目のシジミは自由奔放で自己主張が強く、人を笑わすのが好きな女の子でした。
シジミはボール遊びなども好きでしたが、シジミならではのユニークな遊びを考えだすのが得意でした。
よくやったのは、私が「シジミのタクシー」と呼んでいた遊びです。
その時シジミは私のそばに来て、しっぽを軽く振りながらじっと立ちます。これは「私につかまって♪」というサインです。
私がシジミの腰につかまると、それがスタートの合図となり、シジミは家の中をめぐり歩くのでした。治療室のベッドのまわりをぐるりと回り、リビングに行っておかあさんに「見てみて!」とアピールし、そこからまた治療室に戻ります。
歩きながら幅が狭いところを通り抜ける時も、後に続く私が壁や柱や家具などにはけっしてぶつからないような絶妙のコントロールで歩き回るのでした(笑)。
シジミのお気に入りのおもちゃはがんじょうでやわらかいプラスチック製のボーンでした。
私がパソコンの前にすわっていると、シジミはくわえているボーンを私の背中にギュッと押し付け「遊ぼう」とアピールするのでした。背中の圧とシジミの息がかかって私の背中はだんだん熱くなり、私は「わかったわかった、遊ぶからもうやめて」と降参するのでした(笑)。
シジミは家族がそろっている時、誰かに遊んでもらいたいのにみんなが相手にしてくれない時は、次のような作戦を考えました。
そんな時、シジミはリビングから微妙に離れたところに寝そべり、
「ヒュールルルー」と世にも悲し気な声を出すのでした。それはまるで「世界に私みたいにかわいそうなワンちゃんはいません(泣)みたいなトーンなのでした。
このせつない声にほだされて家族の誰かが「シジミ、そんな悲しそうな声出してどうしたの?」と近づくと、シジミはパッと起き上がってしっぽを思い切り振りながら、
「さあ、なにして遊ぶ?」とアピールするのでした(笑)。

●シール
今一緒に暮しているシールは、甘えん坊の男の子です。
ハーネスをつけての「お仕事中」は実にきっちりそつなく仕事をしてくれる優秀な犬ですが、家の中でハーネスをつけていない時は「甘えん坊のやんちゃ坊主」です(笑)。
シールがかまってほしい時は、私やおかあさんの胸にあごをぴったりと押し付けて、
「遊んでよ~」とクンクンと鳴きます。靴下が大好きで、手が届くところに靴下があるとそれをくわえてうれしくなって、タッタラタッタラと踊るような足音をさせるので音を聞きつけた私に「こら、シール!」と叱られています(笑)。
遊びは、正面からおもちゃやボールを上に投げ上げるのをジャンプしてパッとくわえる遊びが好きです。
かなり高く投げ上げてもパッとくわえるので、「シール、すごいじゃん!」と何度もほめていると、うれしくなりすぎて、興奮して自分でもどうしていいかわからなくなってグルグル回ったりバタバタしたりして止まらなくなるので、
「ハイハイ!落ち着こうか♪」とトーンダウンさせることになります。
シールは、毎朝の散歩の時より、「お仕事」で電車に乗ってどこかにでかける時のほうがよりしっぽを大きく振っています。
シールは、自分が仕事をしている姿を見てもらうのが好きみたいです。
盲導犬であるシールは、時々「ドッグ・エデュケーション」というかんたんなトレーニングをします。
これは、盲導犬として必要な「シット」「ダウン」「ハウス」などの指示を練習するものです。これは指示に対してきちんと正確に反応するスキルを維持する目的で行なうものです。
スースーとシジミはこれがあまり好きではありませんでした。
シジミなどは、
「実際のお仕事じゃないのに、なんでやんなきゃならないの?」という態度が見え見えでした(笑)。
ところがシールはほかの遊び並みにこれが好きです。指示を出してそれができるのを「シール、よくできるね、えらいえらい!」とほめると、私の脚に顔をこすりつけてからお腹を見せてひっくり返ってうれしそうにするのでした(笑)。

シールとのつきあいはまだ1年ちょっとしかありません。
これからの時間の中で、きっと新しい遊びが生まれていくのだと思います。

#盲導犬
#お仕事中
#素顔の盲導犬
#遊び
#ハーネス
#ふつうの犬
#ボール遊び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?