就活より難しかったバイトの面接

「就活よりバイトに受かるほうが難しかった」なんて言うと驚かれる。
「バイトなんて受かって当然でしょ?」
あなたは今そんな顔をしているに違いない。だが私にとってはバイトのほうが難しかった。

大学生1年生の頃である。小遣いを稼ぐためアルバイトを始めることにした。ショッピングセンターやコンビニ、スーパー、家電量販店、いろいろ受けたが面接でことごとく落ちた。髭を剃っていなかったり、すごくカジュアルな私服で面接を受けてしまうなど初歩的なミスも最初はあった。「たかがアルバイトの面接と言えど少しは見た目に気を遣わなきゃだめだな」と気付き以降髭を剃りスーツで面接を受けるようになるが、結局採用されるまで7回もの面接を落とされた。

採用してくれたのは友達が働いているファミレスだった。面接を担当してくれたのはその店舗の店長で「○○(友達)の友達(私)なら信用できる、採用!」といった具合にほぼ二つ返事だった。私はここにくるまですでに7回もの面接に落ちて自己肯定感がマントルに達するほど深く落ち込んでいたので採用と聞いて嬉しかった。「雇ってくれたこの人のために全力で働こう」と思った。

だが大きな問題がある。私が請け負うことになる仕事はファミレスの中でもホールスタッフと呼ばれる仕事だ。ホールスタッフとは来店したお客様を席に案内し注文を聞いて料理を運ぶ係である。
勘のいい読者の方ならすでにお察しかもしれないが、私はアルバイトの面接に7回落とされるほど第一印象の悪い人間だ。すなわち、コミュ障の陰キャなのである。
今でも覚えている面接がある。デパ地下の総菜コーナーへ面接に行った時だ。私は普通の人間であると相手にアピールするため、目一杯の笑顔と感情200%の発声で受け答えをした。
「いらっしゃいませって言ってみて?」
「いらっしゃいませ!!」
「…うーん。ちょっと元気ないかな?」
そのあと何を話したか覚えてない。この瞬間にもう落ちることがほぼ読めたので、お腹を押すとしゃべる幼児向けのお人形のごとくバカ面を引っ提げてただ愛想よく笑うことしかできなかった。
こんな私が飲食店のホールスタッフなど勤まるわけがない!
案の定その予感は的中し、出勤するたびに怒られて泣きながら帰るような日々が始まるのだが、それは別に機会に書くとしよう。

大学4年生になって就職活動を始めた。徹底的な自己分析をもとに自分に合いそうな企業に狙いを絞って面接を受けた。10社ほど受け、夏の時点で3社から内定をもらえている状態だった。内定は決してゴールではないが、心理的な余裕にはつながっていた。なにしろ、アルバイトの面接より就活の面接のほうがよく通るのだ。これが面白い。

なぜアルバイトの面接より就活の面接のほうが通るのか。これは就活の面接が緩いからではない。私自身が面接に通りやすい人間に成長していたのである。大学1年生の頃、私は何者でもなかった。人に堂々と言える趣味や特技もなく、コミュ力も体力もなかった。決して大学生活を通じてアッパーなコミュ力モンスターに変身したわけではなかったが、コミュ障のホールスタッフが泣きながら1人前になっていく話はウケがよかった。苦手を克服するために努力し成長する話は鉄板であるらしい。なるほど、諦めずに頑張ってきてよかった。そう思った。

新卒で入って4年勤めた会社を辞めた現在、27歳。
どんな困難も努力さえ続ければ乗り越えられると信じていた大学生の頃の自分と話がしたい。あの頃は最高に輝いていたが、同時に未熟だった。本当は気付いていただろうに。あとから入ったバイトの女子高生が自分の半分の時間で仕事を覚えていたこと。苦手を克服しても1人前かそれ以下にしかなれない。翼もないのに空を飛ぼうとして泣くくらいなら、足を鍛えて速く走れるようになりなさい。マイナスをゼロにすることばかりに気を取られていると、プラスを伸ばす時間が無くなってしまうぞ、と。

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