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おすすめの本〜ねこマンガ 在宅医たんぽぽ先生物語 さいごはおうちで〜

おすすめの本シリーズ第6段です。
このnote、病院総合医(病院で働く総合医)が書いているんですが、今回取り上げるのは在宅医療についての本。

愛媛県で在宅医として働く永井康徳先生(通称:たんぽぽ先生)と患者さんのエピソードがねこ漫画で紹介されています。非医療従事者にも手にとってもらいやすいビジュアルで、文章もわかりやすく丁寧です。
この本を読んで印象に残った、たんぽぽ先生の取り組みや文言をご紹介していきます。

多職種連携「望みかなえ隊」

ー在宅診療で提供するのは“医療”だけではない。
患者さんとそのご家族が何をしたいか、どう過ごしたいかを知り、それをかなえるために多職種のチームで奮闘する姿が、漫画で取り上げられています。

・歩行できなくなった患者さんの「自分が野菜を育てていた畑を見に行きたい」という願い
・終末期のがん患者さんの「(旬ではない時期だが)桃を食べたい」という願い
・嚥下機能が落ちてしまいもう口から食べられないと告げられた患者さんの「お寿司を食べたい、ビールを飲みたい」という願い

「望みかなえ隊」が、どのようにこれらの願いを叶えたのか、ぜひ漫画をご覧いただければと思います。

終末期の点滴をやめることには4つの意味がある

病院で働く私たちホスピタリストにとっても、終末期にある患者さんやご家族と「終末期の栄養をどうするか」について話し合う機会はたくさんあります。
「点滴だけは最後までやってください」と希望される方もいらっしゃいますが、その背景には、その医療行為に対する誤解(点滴は非侵襲的で害はは少ない、点滴をすると余命が延びる、点滴をすると元気になる、など)もあるのではないかと思います。
本当に患者さんにとってベストな選択をするために、そして、ご家族にとっても後悔のない意思決定を支援するために、私たち医師はどのような説明をすればよいのでしょうか。たんぽぽ先生は以下のように書いておられます。誤解を解くのに役立つかもしれない文言だなと感じました。

・「食べられないから死ぬ」のではなく、「死ぬ前だから食べられなくなっている」
・看取りに近づいた患者さんの体にとって、点滴は過剰な水分となり、うまく処理できなくなっている
・点滴をしても元気になるわけではなく、多すぎる水分は唾液や痰となり、患者さんを苦しめる
・点滴をやめることで、最後まで食べる支援が可能になる(痰が減れば吸引が不要になる、食欲が戻ってくるなど)
ーp142から引用・一部改変

「そのように思われるのも無理はありません。実際○○のようなケースでは、効果的な治療ですから。でも、今回のような場合は違っていて、実は〜〜なんですよ」と、誤りを指摘される家族の心理的な負担に対して、配慮もできればなお良いですよね。

最小限の医療とは「引き算」ではなく「足し算」

終末期に点滴などの医療行為をやめていくことについて
「もう何もしないってことですか?」
「ただ死ぬのを待っているだけなんですか?」
このようにおっしゃるご家族を前に、あなた(医師)だったらどう返答するでしょうか。

(うーん、そうなんだけど、そうじゃないんだよなぁ……)
なんと説明すればよいのか、困ることはありませんか?
たんぽぽ先生は、“病院医療は「Doingの医療」=「治し、施す医療」、在宅医療は「Beingの医療」=「患者さんを支え、寄り添う医療」”と表現しています。

 残された限りある時間だからこそ、医療従事者は、点滴や投薬といった医療処置を行うことに終始するのではなく、患者さんがその人らしく過ごすためにはどうすればいいのかを考え、努める必要があると私は考えます。
 医療を最小限にすることで、患者さんが楽になれば、やりたいことができるようになります。それは、何も治療をしない「引き算」の医療ではなく、むしろいろいろなやりたいことができる「足し算」の医療と言えるでしょう。
ーp74より引用

「●●をしない」と言うと、マイナスのイメージで捉えられることもしばしば。たんぽぽ先生のようにプラスのイメージが湧いてくるような表現なら、ご家族も受け入れやすいかもしれませんね。

現代の医療は、病気を治すことを目指して発展してきました。
“もう治せない状態”になったとき、「治すために役立っていた治療」はもはや役立たないばかりか「患者さんを苦しめるだけの行為」になってしまっているかもしれません。
Goal of care(治療のゴール)は何か? 重要なことは、これをご家族や多職種チームのなかで、明確にしておくことです。そのために役立つか、役立たないか、害になるか、そういった視点で医療行為やケアを取捨選択していきます。

「患者さんが苦しくなく穏やかに過ごすために必要なことを全部やります。そのゴールを達成するためには、点滴を“しないことが必要”だと思っています」

医師が百人いれば百通りの回答があるし、患者さんやご家族がどんな方かによっても変わってきますが、こんな回答もありかな、と思います。

まとめ

この本で紹介されるエピソードやたんぽぽ先生の考え方は、「在宅医療だからこそできること」「病院医療にも活かせること」が両方あると感じます。
病院で働いたことしかない私(ホスピタリスト)は、在宅医療の現場でどのようなことが起きているか、どんな医療が提供されているかは、今一つわかっていませんでしたが、目の前の患者さんの望みを叶えるためのベストな選択はなにか? これをご提案するには、在宅医療という選択で何ができ、何ができないかを、ホスピタリストも知っておく必要があると思いました。
逆に「病院医療だから叶えられる望み」もあります。患者さんやご家族の思いを拝聴することが大切です。

漫画ページも含めて全164ページ。すぐに読み終えられます。(電子書籍で購入後すぐに読めるのもいいです!)
在宅医もホスピタリストも、もちろん非医療従事者にも、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

文責:平松 由布季(東京ベイ・浦安市川医療センター)

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