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中国空前のカフェブームの裏側で日本が注目される訳

中国では「カフェは人生」と言われるほど、主に20〜30歳代前半の世代においてブームに湧いています。日本のメディアで触れているものも数は多くないものの見られますが、そこに日本の立場でのチャンスや、その背景から見えてくる大きな流れに着目した記事を目にすることはありません。そこで今回は中国カフェブームとその背景と構造、課題、更には日本から見たビジネス上の意味について解説をしていきます。

中国で巻き起こる空前のカフェブーム:

中国は空前のカフェブームです。上海市や北京市、深セン市など経済力で先を行く都市では、20〜30歳代前半の層を中心として「カフェは人生」と呼ばれるほどカフェで過ごす時間は重要な場所と位置付けられるようになりました。

2000年代からの急速な経済成長による社会変化の中で育ち、公私両面から強いプレッシャーを受けるこの世代にとって(このテーマについては別途記事を起こす予定です)ひとりの自分として自由な時間を過ごし、自己表現につなげることができる空間が必要とされているのです。

仕組みによる効率化から多様化・個性化へ

一方カフェビジネスとして見た場合、以前日本の中国系メディア、特にテック系で紹介された”Luckin Coffee(瑞幸珈琲)”のようにITによるサービス品質向上とオペレーション効率改善を同時に狙う仕組みを標準化して規模の経済性を追求、他店舗展開を基盤とした戦略をもとに投資家からの資金を集めるパターンから、むしろ店舗ごとの個性を追求する流れが見えています(それが規模化を諦めていることを意味するわけではないことに注意して下さい)。

ちなみにLuckin Coffeeの仕組みは、オーダーから支払いまでのすべてがIT化あsれていてコーヒーショップは商品をピックアップする”場所”としての位置づけで規模化しました。

一方で個性を追求する流れでのカフェ”Manner”は市中心部の一等地を中心に出店、豆が自社焙煎という特徴を打ち出してきてブームとなっています。ただ、豆の種類は2種類と少なく、出資を受けた後の出店スピードにバリスタの供給追い付いておらず質がついてきていない現状もあります。

ブームと多様化・個性化ほ背景にあるもの

一般論と経験論に基づきますが、中国人のリスク嗜好は日本人のそれよりも高いため、ある既存業界にゲームチェンジの動きが見えたり、新規業界が立ち上がる兆しが現れた時には、多くのプレーヤーが大小の資本力をもとに参入します。先行者を模倣し改良し競争をしかけていきます。そしてあるところで極端な同質化が発生し、それに気づいた既存・新規プレーヤーは差別化を図っていきます。中国カフェビジネスはこの段階にあります。

また、米中貿易摩擦を背景に中国政府が”ダブル循環”という概念を推奨しています。"ダブル循環"のひとつであるアウターサークルはグローバルとの循環、すなわち海外との貿易を含めた経済活動を意味します。一方のインナーサークルは中国国内ですべて経済活動を完結することを意味しています。新型コロナウイルスがもたらす騒動の影響からアウターサークルの実現が難しく なったところでリスクマネーがインナーサークル向かっています。”カフェは人生”と謳う20歳代から30歳代の若者たちの経済活動を期待してこの分野が盛り上がっているのです。

日系カフェが上海で最も話題を集めるカフェのひとつに

上海市南京西路の旧市街地に隠れ家的にあるのが日本人のバリスターが経営している自家焙煎のコーヒーショップ"蘆田屋”です。スターバーックスや前述したMannerなどラテをメイン商品とはせずに自家焙煎の豊富なコーヒー豆とドリップコーヒーを押し出しています。ほぼ予約制となっており、客単価が150元(2,200円)ほどにもなるとのことです。上海テレビ局に立地的に近いため司会や芸能人の支持を得ています。

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ゲームチェンジを図るカフェビジネス

日本とのつながりからの示唆に入る前に、上述したトレンドについての本質について考えてみましょう。結論を簡潔に述べると、それは「量から質への転換」であり「体験価値の提供によるスタッフ1人あたり付加価値=労働生産性の向上」です。カフェビジネスの投資家、オーナー目線ではビジネスの収益性の向上=ゲームチェンジです。

中国になかったカフェ文化を持ち込んだ”ゼロイチ”、前述したLuckin CoffeeのようにITを活用した仕組み化でサービス品質を上げて規模化していく"イチヒャク”は終わり、これからそれぞれの”イチ”を磨き上げる段階に入りました。まさに質の時代の到来です。

質を高める上での鍵となる”体験価値”とは

質を上げるために必要で”(オペレーションに基づく)サービス品質”以外の要素とは何でしょうか。損益計算書をヒントにすれば、それは材料であり設備でしょう。貸借対照表で考えれば技能やブランドなどの無形資産にヒントがありそうです。皆さんにも答えが見えてきたのではないでしょうか。

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原材料としての豆の種類、中国のカフェでは未だに豊富ではありません。設備についても焙煎機によるロースタリー形式を採るところは多くありません。バリスタなど世界的に認められた技能を売りにできるほどの人材も輩出できていませんし。そしてこれからがポイントですが、そういったことをトータルでデザインして利用者に認められ、歴史が積み重なった結果としてブランド資産になるところまでは当然たどり着けません。

カフェに対する要求がどんどん高くなっている。 写真がきれいに撮れる網紅店から味、雰囲気、カフェ独自のブランド世界観(内装、使っているカップ、皿等)まで求めてくるようにっています。味と質を求めない網紅店がどんどん潰れていることも事実。 特に上海人の舌が肥えてきている。

日本の立場からの示唆

上述した理由からこそ日本の豆、日本のバリスタ(の技能)とのコラボ展開はもちろんのこと、焙煎機を「あえて見せて香らせる」ことによる「憧れ」感の醸成や、直接コーヒーではないものの、コーヒーには欠かせない存在としてのスイーツを象徴するパティシエとのコラボに流行に敏感でありかつ個性や多様性を重視する上海っ子が惹かれるのです。

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日本由来の材料、技能(関連分野も含め)、雰囲気も含めたブランドは中国のカフェビジネスにとって突破口となるのです。オーナーや投資家たちも其のヒントを必死で日本のブランド資産を探しているのです。例えば、日本のバリスタ育成の仕組みを中国に持っていくことなどは面白いのではないでしょうか。バリスターをおさえることで中国資本にとっての参入障壁を築くことになり得ます。単に豆やコーヒーを売るということではなく、その背景や文化、スタイルなどを体験として物語ることができるのはやはり”人”です。

今だからこそ日本ブランドに必要な「攻め」の姿勢

新型コロナウイルスの影響は中国ビジネスにも影を落としています。国境を越えた移動が制限された結果として日本におけるインバウンドビジネスは大打撃を受けました。一方、中国はトップダウンによる徹底的なゼロコロナ政策の実行により国内の部分的な制限を残して経済活動は急激に戻ってきています。このような情勢の中、日本企業のスタンスはどうあるべきでしょうか。

私たちは「今だからこそ」待ちの姿勢から攻めの姿勢に打って出るべきであると考えています。中国の内需は日本で待っていても永遠に手に入ることはありません。しかしカフェビジネスにおける中国の内需は確実に日本のブランド資産を必要としているのです。

確かに中国ビジネスではブランド毀損や、模倣品等のリスクを抱えることになりますし、もとより巨大な資本が必要になるという懸念があることも理解できます。
一方で上記のようにうまくコラボレーションをするやり方や、資本的に軽い形で進出し、かつ堅実に利益を確保することも可能です(具体的に興味をお持ちの場合は問い合わせ下さい)。

「中国でカフェブームなのか、面白いね」で終わらせることなく、それを自らの利益とする攻めのアクションに転じていただければ、日本も中国も更に元気になっていくのではないでしょうか。

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