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憶燈舟 巻二


憶燈舟 巻二


「ニュータウン」と言われてどんな印象を持つだろうか?

私の持つ印象は、郊外の里山的な未開の地を開発したとても人工度の高い環境、だった。
色で言うと灰色。無機質で味気ない計画的な街。

ただ実際にニュータウンの中に入って街を歩くとそのような印象は覆された。

そこには等身大の生活の匂いが滲み込んでいた。私も生まれてから今まで郊外の住宅地で暮らしている。洛西ニュータウンの家々や商店、公園などの公共空間、道路や水路の一つ一つに身近な既視感のような懐かしさを覚え、同じような生活を送る一人としての連帯すら感じた。

そのような街が衰退の中にある。大きな工場や企業があるわけではなく、京都駅再開発により京都市立芸大も移転する。遠い市街地との公共交通機関も乏しく、高齢化が進む。日本全国の多くのニュータウンも今まさに同じような問題を抱え、行政における負の遺産とも言われ始めている。

とは言え、昭和にこの公的なニュータウン計画が無ければ、急激な住宅需要による乱開発で、もっと無秩序で扱いにくい街が今に残されていただろう。最善とは言えなくとも、当時の社会問題に対する解決策として、決して間違っていたとも思えない。

そこに暮らす個々人による生活の風景に共感しながら、社会や都市計画について洛西ニュータウンを通じて知る。

人口減少が急速に進むこの街に虚しさや切なさを感じるのと同時に、目の前の風景には生々しい人肌の温もりがあった。それは何とも言えない感覚であった。喜怒哀楽を混ぜこぜにしたような感情と、成す術の無い複雑な現実に言葉が出なくなる。そのようなことを絵巻として描こうと思った。


境谷、福西地区の集合住宅

集合住宅の風景は洛西ニュータウンの魅力の一つ。雑然とした駐輪場には人間味があり親しく思う。


小学校の通学路と洛西高等学校

高等教育までニュータウン内で完結できるよう計画されている。ニュータウン内には商業施設、行政窓口、医療機関など、生活に必要な施設がパッケージ化されている。

集会所の前に置かれたベンチと電話ボックス




Kyoto Art for Tomorrow 2023 京都府新鋭選抜展にて展示
2023/1/21〜2/4
京都文化博物館



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