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漂流教室 No.56 「『源氏物語』から「桶」」

結婚30周年を「真珠婚式」というそうです。
25年の「銀婚式」と50年の「金婚式」は有名ですが、
なるほど、真珠ですか。

ならばパールのネックレスかペンダントでも贈らなきゃ、かな?とも考えたんですが、
銀婚式の時にダイヤ(小さいの)のネックレスを買ったので、ちょっと懐が苦しい。
この5年の間に、お馬さんが大きくお金を増やしてくれるはずだったんですが、
なぜか私のお小遣いはどんどん目減りしていく。

おかしいなあ?
このあいだもダービー当てたんだけどなあ。
でも、外したレースのほうが段違いに多いからなあ。

ということなので、今回はヒロミさんとお寿司を食べに行きました。
おいしかった!
特に奇をてらったお料理はないのですが、
突き出しのアジの南蛮漬けも、鰆の西京焼きも、もちろんお刺身もお寿司も、
ごく普通のものがとてもおいしい。
調子に乗っててんぷらの盛り合わせも追加したけど、これも良かった。
エビなんかプリップリッ!
幸い、家の近所にあるお寿司屋さんなのでまた行きたいと思います。

さて、源氏物語。
前回までのところは高等学校の教科書によく載っています。
「光源氏の誕生」なんていうタイトルがつけられている。
でも、今回ご紹介する部分は教科書にはまず載りません。
理由は…
まあ、お読みください。

あまたの御方々を過ぎさせたまひて、ひまなき御前渡りに、人の御心を尽くしたまふも、げにことわりと見えたり。参う上りたまふにも、あまりうちしきるをりをりは、打橋、渡殿のここかしこの道に、あやしきわざをしつつ、御送り迎への人の衣のすそ、たへがたく、まさなきこともあり。またある時には、え避らぬ馬道の戸を鎖しこめ、こなたかなた、心を合はせて、はしたなめわづらはせたまふときも多かり。ことにふれて、数知らず苦しきことのみまされば、いといたう思ひわびたるを、いとどあはれと御覧して、後涼殿に、もとよりさぶらひたまふ更衣の曹司を、ほかに移させたまひて、上局に賜はす。その恨みましてやらむかたなし。

帝が、多くの女御更衣の方々の局の前を通り過ぎなさって、頻繁に桐壺更衣にお通いになるので、ほかの方々がやきもきなさるのも、まったくもっともなことと見えた。
桐壺更衣が帝の前に参上なさるときも、あまりにうち続くときは、打橋、渡殿のあちこちの道に、汚物をまきちらしなどして、御送り迎えの人の衣の裾は、たえがたく、たいへんなことになったこともある。
またある時には、避けて通れない馬道の戸にかんぬきをかけ、あちらとこちらで心を合わせて桐壺更衣を閉じ込め、辱めわずらわせなさるときも多い。
なにかにつけて、あまたの苦しいことばかり増えるので、たいそう悲しい思いをしていたのを、帝はたいそうかわいそうだとご覧になって、後涼殿にもとからいらっしゃった更衣のお部屋を、ほかにお移しになり、桐壺更衣が参上する際の控えの間としてお与えになる。その追放された方の恨みは、これ以上ないほどにやる方もない。
(訳…私)

桐壺更衣が通れないように、こともあろうに「汚物」をまく…
大の大人がすることではない。いやいや、こどもだってしちゃいかん。
しかし、いったいどこから「汚物」を調達したものやら?

さて、当時の宮中には「トイレ」がありません。
では、どこで用を足していたかというと、
まあ男性なら庭の隅やら植え込みの陰やらでやっちゃったんでしょうね。
でも、女性はそうはいかん。ことに身分高いお方はそんなことはせん。
それぞれの居室に桶を用意しておきます。
で、その周りを衝立なんかで隠す。
お使いになったら、処理専門官を呼んで持ってってもらう。
この専門官を「桶澄まし女(ひすましめ)」と言います。

おそらく、女御さんや更衣さんたちは桶澄まし女に命じてぶちまけさせたんですな。

当時の上流階級の女性たちの着物なんて裾が長いですからね。みんな引きずってる。
普段から廊下を掃除して歩いているようなもんです。
ぶちまけられた日にはたまったもんじゃない。

しかしまあ、紫式部はよくもこんなひどいイジメを思いついたものですね。
というより、実はこの「桶」は他の古典にも登場します。
まあまあ有名な話なのでご存じの方もおられるでしょうが、
『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』に載せられているものです。

主人公は平貞文。(「さだふみ」とも「さだふん」とも)
かなりのイケメンにして桓武天皇の血を引く貴公子。
和歌も達者で、かの在原業平と並び称された人物です。

この貞文が例によって恋をした。
お相手は人妻。
この人妻がなかなかなびいてくれない。
貞文はわざわざ大雨の日に訪れたりして人妻さんの気を引こうとするのですが、ダメ。
いくらイケメン貴公子の貞文も諦めるしかありません。
どうやって諦めようか?
思案した貞文は従者にこう命じました。
「あの人の桶箱を持ってこい。」
恋しい人妻も所詮は人間。人間なら出すものは出す。それを見れば百年の恋も冷めるだろう。
と、考えたようです。

従者は命令に従って桶箱を持ってきました。(嫌だったろうなあ)
貞文がふたを開けると…
「おお、かぐわしい」
実は貞文のたくらみを見抜いた人妻がわざわざ香を練って偽物の「汚物」を作ったのでした。

かなりざっくりとしたご紹介ですが、こんなお話です。
貞文さんもまあかなりのお人ですが、「桶箱」もいろんな活用の仕方があるもんです。

現代文学にもなかなかの傑作があります。

『糞袋』藤田雅矢著
ニホンファンタジーノベル大賞の優秀賞を獲得した小説です。
奇作です。
万人にオススメはしませんが、独特の雰囲気があって、私はいいなと思いました。

今回は少々、異常な方向へ脱線しましたが、まあ、たまにはいいかな?

さて、業務連絡。
小松市及び近辺の中3生、高3生のみなさん。
国語の得点力、絶対に上げます。
小松市役所裏、ひふみ塾

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