見出し画像

自由研究での成長の鍵は保護者の支援にある【前編】

 子ども時代は,多くの疑問や不思議を感じます。自由研究は,そうした知的好奇心を伸ばし,失敗を恐れず挑戦する心を育てる機会として適しています。しかし,子どもが感じるナゾを解明するためには,保護者の適切な支援が必要であることが調査から見えてきました。

1 「夏休みの自由研究に対する思い出」インターネット調査

 自由研究提出が終了した昨年秋に、15~76歳の男女に「夏休みの自由研究に対する思い出」についてインターネット調査を実施いたしました。

【調査】
調査主体 愛媛大学ジュニアドクター育成塾
調査方法 瞬速リサーチ
調査対象 提携先インターネットモニター 15~76歳 男女
調査期間 2018年9月7日(金)~2018年9月14日(金)
有効回答者数 806名

2 トピック

・子ども時代に自由研究を親に手伝ってもらったのは約6割
・自由研究の記憶は60歳を過ぎても強く残り,保護者の支援は子どもの肯定的記憶に強く影響する
・自由研究で学校の知識を活かして試行錯誤することが,学習意欲や自己肯定感を高める

3 親と一緒だと楽しい

【概要】
 自由研究の思い出コメントと保護者の支援から,保護者が子どもの「やる気」に共感して,子どもの意欲を尊重して一緒に自由研究を行った場合は,肯定的感情が残ります。一方で,保護者が主導する「親主導型」や,子どもに任せてしまう「まったく手伝わない型」では,否定的感情が残り,やる気が低下しています。

【詳細】
 自由研究での肯定的記憶には保護者の支援が大きく影響しています。調査の結果,15歳から76歳までの全年齢に渡って,自由研究の思い出は強く記憶に残っていました。自由研究は小中学校の夏休みだけの思い出ですが,ここでの活動は記憶に強い影響を与えています。
 調査では保護者の支援について,「研究テーマの選定」「研究の実施」「まとめ」の相談に乗る・手伝うのほか,「すべて親主導で行う」「まったく手伝わない」「覚えていない」の6項目で聴取しています。それぞれの設問の選択と,自由研究の思い出のコメントをテキスト・マイニングという文脈を読み取る手法で分析しました。

画像1

 テキスト・マイニングとは,文章から書き手の考えを分析する手法で,近年は商品への消費者の感情分析などの商品分析などにも利用される科学技術です。結果がグラフィカルでわかりやすく使いやすい「見える化エンジン(プラスアルファ・コンサルティング社)」で分析しました。
 6つの項目と線で結ばれているのが,その項目を選んだ人が書いた自由研究の思い出コメントの特徴的な単語です。たとえば,実施では「楽しい」が17個,「好きだ」が39個ありました。また,手伝わないでは「好きだ(否)」が162個あります。(否)は否定的に使われた単語ですので,ここでは「好きではない」ことを示します。同様に「思いつく(否)」は「思いつかない」,「分かる(否)」は「わからない」ことを示します。
 実施やまとめについて保護者の支援があった子どもは「楽しい」「好き」などの肯定的表現が多く,逆に保護者が手伝わない,覚えていないとした人は「好きではない」「面倒」などの否定的表現が多くなりました。肯定的表現では,たとえば,自由研究の調査のために親と一緒に旅行に行った,親と一緒に今年は何をやるか考えた,やりたいことがたくさんあったのでいろいろなことに挑戦した(保護者はそれを支援した),などが目立ちます。一方で,否定的表現では,何をして良いのかわからず面倒だった,受験勉強には役に立たないので面倒だった,先生の評価に偏りがあるので評価されず好きではない,などの回答がありました。

画像2

 また,親主導で自分自身があまり活躍できなかった場合は肯定的感情が低下する傾向にあります。具体的な記述では「私がやっていたのに親が製作してしまった」から好きではない・嫌いだったなどの回答が多く,自分自身の意欲を活かせなかったことが「やる気」の減少につながっています。研究テーマについては,「最初 (小学校低学年) のうちは親が一緒に考えてくれたが,途中から支援がなくなり何をしたら良いのかわからなくなった(ので嫌いになった)」という意見がありました。

4 親子の距離感が大事

 保護者が子どもの学びを支援することで,学習した知識を活用して,学ぶ意義やおもしろさを実感することができます。しかし,保護者の支援が大きすぎると,子どもの意欲をスポイルしてしまう場合があります。適切な支援のやり方は一人ひとり異なりますので,支援のバランスが大事です。
 子どもは豊かな発想を持っていますが,それを明確な形で表現することが苦手です(詳しくは後編で解説します)。たとえばオーストラリアでは,そうした点を鍛えるために,幼少時から自己表現の訓練をしています。

 自由研究は,こうした表現力を磨く機会でもあります。やり過ぎず,任せすぎない距離感を掴みましょう。これって,仕事でも大事ですよね?

【後編では,世代による支援の違いと年収と支援の違いを解説します。】

いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育