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社会と土木の100年ビジョン-第4章 目標とする社会像の実現化方策 4.5 水供給・水処理

本noteは、土木学会創立100周年にあたって2014(平成26)年11月14日に公表した「社会と土木の100年ビジョン-あらゆる境界をひらき、持続可能な社会の礎を築く-」の本文を転載したものです。記述内容は公表時点の情報に基づくものとなっております。

4.5 水供給・水処理

4.5.1 目標とする社会像

戦後の高度成長期における急速な水需要増は、大都市圏および農業生産地域を中心とした慢性的な水不足を、未処理水の公共用水域への流入が深刻な水質汚濁を引き起こしてきた。水供給・水処理に関わる社会資本整備はこの時期から本格化し、その後急速に進展していった。この結果、自然本来の水循環系は改変され、本来有していた様々な生態的機能の一部は失われていったと考えられる。健全な水循環系の構築には、水供給・水処理を代表とする人工系と河川・湖沼・地下水等の自然系の水循環が一体となり水が有する社会的、自然的機能を流域圏において最大化することが求められる。このためには、水が有する多面的機能を理解し、これを社会で共有することが必要となるだろう。また、高度経済成長期に整備された水供給・水処理施設は老朽化が進み、長期的視点に立ち施設を計画的に維持・更新する必要性が高まっている。更に、人口減少に伴う水供給・水処理の需要パターンの変化、気候変動に伴う秋渇水、春早期融雪等の気象条件の変化は水供給ポテンシャルの空間分布を大きく改変させる可能性がある。したがって、今後の水供給・水処理のあり方はより長期的・広域的視点に立って対応を考えていく必要があるだろう。水供給・水処理に代表される人工的水循環系、自然的水循環系は学術、行政の分野において細分化されていることから、流域圏における水循環系を統治するための横断的な研究の推進、行政の連携が必要となる。ここでは、以上の観点を踏まえ、水供給・水処理を巡る目標とする社会像を以下に示す3 つに集約した。

1)水の多面的機能の理解
水を利用する一人一人が、“水そのものの大切”さだけでなく、水が河川や地下水、湖沼、ため池、水路・管路網等の水循環系と一体となりながら多面的機能を発揮していることを理解することが必要である。このためには、市民一人一人が、水の大切と多面的機能を学び、かつ、健全な水循環系の構築に必要な行動を実践できる社会が目標となる。

2)長期的・広域的視点に立った健全な水循環系の構築
水供給・水処理は、健全な水循環系の一部として捉えられるべきものである。将来起こり得る気候変動に伴う洪水・渇水リスクの増大、人口減少に伴う土地利用や水需要の変化等への対応、老朽化する水供給・水処理施設のメンテナンスの必要性を踏まえ、長期的・広域的視点に立って健全な水循環系を構築すること、そして、その上で、必要な施策を立案・実施していく社会が目標となる。

3)流域における水循環ガバナンスの発展
水循環系は集水域での降雨に始まり、表流水・地下水・蒸発散のプロセスを経ながら、人間に利用され、海域へと至る面的にも時間的にも広がりのある現象である。しかし、これらの現象に関する学問分野や水管理の主体となる行政機関は分化が進み、水管理を統合する仕組みが存在しない。今後は既存の学問体系、行政組織をベースとしながら、これらを統合化し、流域における水循環のガバナンスを発展させること、そして、統合化のプロセスにおいて市民の役割を明確にすることが、社会の目標となる。

4.5.2 現状の課題

1)基本認識
大気、大地、河川等を経て海域に向かう水の循環過程は、河川水や地下水の動態だけでなく、物質やエネルギーの流れを支配し、水質現象に関与するだけでなく、生物群集の維持にも大きな役割を果たしている。また、人間は水の循環過程を利用し、また、ときに改変しながら人工的な水循環系を発展させ、人間の営みに利用していた。
しかし、流域における土地利用の改変、治水・利水を目的とした水循環系の改変、そして、流域から流入する様々な水質に対する汚濁負荷は、水や物質動態への影響、洪水・渇水被害ポテンシャルの増大、地下水位の低下、水質汚濁、生態系の劣化等様々な問題を引き起こしてきた。また、地球温暖化に伴う気候変動に起因する降水量の変動幅の増大等は、現在の水循環系では許容できないような洪水・渇水リスクの上昇を招く危険性がある。特に、都市域においては、雨水浸透や保水能力の低下が顕著であること、合流式下水道の分流化が進んでいないことがあり、洪水時における流出量の増大、平時における流量減少、水質悪化、親水機能の低下等の問題を引き起こしてきた。
水供給・水処理に関する個々の課題も、このような水循環系の変化に伴う現象の一つの側面であり、取り組むべき施策についても健全な水循環系の構築を基軸とし、整理していくことが必要である。

2)水供給に対する課題
①気候変動に起因する課題

地球温暖化に伴う気候変動に起因する降水量の変動幅の拡大等が予測され、この結果として生じる、洪水や土砂災害、高潮災害、渇水等のリスク増大は、我々が遭遇するであろう大きな課題であり、水の安定供給に影響を及ぼす主要因である。更に、地球温暖化に伴う水質の変化は水道原水に影響を及ぼす可能性もある。
例えば、降水量に対する影響については、日本の年降水量について気象庁の観測地点データをみると、1970 年代以降は年ごとの変動が大きくなっている中で全体としては減少傾向にある。また、降水日数の変化をみると、日降水量1.0mm 以上の日数には優位な減少傾向を確認できる。積雪量については、最深積雪の変化を見ると、すべての地域において1980 年代初めから1990 年初めにかけて大きく減少しており、それ以降は1980 年以前と比べると少ない状況が続いている。また、過去30 年の渇水状況をみると、四国地方を中心とする西日本、東海、関東地方で渇水が発生しており、ダム等の水資源施設を計画した時点に比べて、近年では必ずしも十分かつ安定的な水供給ができていない状況にある。
次に、河川水質に対する影響については、国内34 の一級河川の水質データとその流域の気象データを併せて、河川水質への影響を統計的に解析した例を見ると、夏場では、水温と水質に高い相関が見られる項目が確認され、河川水温1◦C 上昇に対して、BOD で1.10 倍となっていることが示されている。一方、湖沼水質に及ぼす影響としては、水温上昇に伴うCOD、SS、chl-a の増大、湖底の溶存酸素濃度の低下等の事象が確認されている。今後、このような地球温暖化に伴う水質への変化が、水供給にどの程度の影響を及ぼすかについては定量的な評価を行っていく必要があるだろう。

②不安定取水に関する課題
約100 年前に深井戸掘削技術が開発され地下水の大量採取が可能になると、主に工業用水で地下水採取量が増大し、1965 年時点における水源別比率は自流が約50%、ダムが10%、地下水が約30% となっていた。その後、ダム等の整備による水資源開発に伴い、ダムの比率が上昇し、近年は自流が約25%、地下水が約20% まで減少し、ダムが約50% 程度となっている。
水資源の多様化は進みつつあり、特に、地下水の比率の低下は水循環の健全化そして地盤沈下の抑制に寄与している。また、比較的安定取水が可能なダムの比率の上昇は水供給の安定性向上に寄与している。しかし、安定的な水供給がより一層求められる都市用水については、水資源開発を伴わない不安定取水の比率が依然として高い地域がある。例えば、平成24 年末における都市用水水量に対する不安定取水の全国平均割合は3.7% だが、関東臨海部は約14%、近畿内陸、国内内陸は6% と高い。水は電力エネルギーと比べて安価であるものの重量が大きく輸送コストがかかるため、地域間で融通することが難しい資源である。このため、安定的な水供給を実現するためには、個々の地域において不安定取水の解消を図ることが課題となっている。

③雨水・再生水利用に関する課題
雨水・再生水利用は昭和30 年代後半に始まり、その後、頻発した渇水を契機として注目され、昭和50 年代後半から水供給の逼迫した地域を中心に本格的に導入されるようになった。雨水・再生水利用は表流水・地下水への依存度を減らし、健全な水循環系を構築する上で重要な水源となる。しかし、一年間の生活用水総量が163 億m3、一年間での全国の下水総量は137.4 億m3 であるのに対して、実際に有効利用されている再生水は2.5 億m3 に留まっている。この値は再生水全体の約1.8%、全国の水使用量の0.3%(平成15 年度末)であり、再生水の有効利用は進んでいないのが現状である。

④水源地に関する課題
戦後、安定した水資源確保や電力供給を目的として多くのダム事業が計画・実施される中で、水没移転に伴う新生活への不安や、下流地域の住民のみが治水・利水面で受益することに対する水没地域の住民の不均衡感が高まっていた。こうした状況から、水没者の生活再建の支援、およびダムの建設による水源地域の影響緩和の措置が不可欠と認識されるに至った。このような状況の中、平成6 年に水源地対策特別措置法(水特法)が一部改正となり、水特法で行う措置の一つに「水源地域の活性化のための措置」が加えられ、水源地域の自立に向けた様々な取り組みが行われるようになった。しかし、ダムを有する水源地域の多くで人口が減少しており、将来は約2 割の地域において無居地化すると予測されている。また、適切に管理されない森林・農地の拡大は、台風等の際に風倒被害や土砂災害等の発生の原因となるだけでなく、土砂流出による濁水の発生、ダムへの流木の流入等につながることが懸念されている。

3)水処理に対する課題
①都市河川に関する課題
都市化による雨水浸透域の減少に伴い、雨水の地表面流出量の増大、地下浸透の割合の減少が引き起こされている。また、下水道網は都市域における新たな水循環系となり、雨天時における河川への降雨流出を早め、晴天時には生活排水を異なる水域へ導くことが多い。このため、雨天時の河川流量の急増、晴天時における河川流量の減少が顕在化している。

②湖沼・内湾・内海などの閉鎖性水域に関する課題
合流式下水道は雨天時にし尿を含む未処理下水が放流されることがあるため、水質汚濁や悪臭、公衆衛生上の観点から社会問題となっている。平成15 年には下水道法施行令を改正し、中小都市170 都市と16 流域下水道においては平成25 年度、大都市21 都市と1 流域下水道においては平成35 年度までに一定の改善(目標として、汚濁負荷を分流式下水道並みにする等)対策を完了することとしているが、未だ改善すべき地域は多く残されている。
水質汚濁に係わる諸問題は近年解決が進んでいるとは言え、閉鎖性水域においては水質改善が進んでいない実態がある。例えば、水質汚濁に係る環境基準のうち「生活環境の保全に関する環境基準」の達成率を見ると(平成23 年度)、BOD またはCOD については河川93.0%、湖沼53.7%、海域78.4% であり、全窒素(全リン)の環境基準の達成率は、湖沼47.9%(同50.4%)、海域84.8%(同81.6%)となり、湖沼では依然として低い水準で推移している。海域は湖沼と比較して高い達成率を示しているが、海域によって値は異なる。例えば、全窒素・全リンの達成率は東京湾100%、伊勢湾42.9%、大阪湾100%、大阪湾を除く瀬戸内海は93% となっており、伊勢湾における達成率が低いことがわかる。
このような湖沼等の閉鎖性水域においては水質改善が停滞している。この原因として、流域からの有機物だけでなく、処理水に含まれる栄養塩類、流域におけるノンポイントソースも影響していると考えられるが、その動態がすべて解明できているわけではない。また、解明できたとしても、これを抑制する具体的かつ有効な施策の立案は難しい状況にある。

③地下水質に関する課題
地下水質については、地下水質の概況調査結果では調査井戸の5.9% において環境基準を超過する項目が見られ、汚染井戸の監視等を行う継続監視調査結果では、4 613 本の調査井戸のうち2 014本において環境基準を超過している。特に、施肥、家畜排せつ物、生活排水等に由来する硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の環境基準超過率が3.6% と最も高くなっおり、これらに係る対策が緊急の課題となっている。

4)施設の老朽化・耐震化に関する課題
施設の老朽化・耐震化も水供給・水処理を行う上で脅威となる課題として位置付けられる。
水資源関連施設の多くは昭和30 年代前半から40 年代後半に急速に整備されたため、多くの施設において耐用年数が経過し、今後、老朽化施設の割合は急激に増加することが見込まれている。具体的には、上水道の配水管の施設の約8% は法定耐用年数 注17) を経過している。下水道については、約2% が標準耐用年数 注18) を経過している。また、農業の基幹的水路の30% が標準耐用年数を経過しており、老朽化は今後更に進展することが懸念されている。
水供給施設の耐震化 注19) については、事業体の努力により推進されてきたが、水道・工業用水道の耐震化率の整備状況は、水道施設の基幹管路で約33%、工業用水では28%(平成22 年度)であり、必ずしも、地震等に対する備えが十分とは言えない。

4.5.3 取り組むべき施策

(1) 施策の基本的考え方
水供給・水処理は、健全な水循環系の一部として捉えられるべきものである。将来起こり得る気候変動に伴う洪水・渇水リスクの増大、人口減少に伴う土地利用や水需要の変化等への対応を踏まえ、長期的・広域的視点に立って健全な水循環系を構築し、必要な施策を立案・実施することが大切である。
短期的施策については、「4.5.2 現状の課題」で述べた課題を解決し、かつ、健全な水循環系の構築に資するという観点から施策の立案・実施を行い、その効果を監視しながら、順応的に進めて行くことが求められる。
長期的施策については、短期的施策を実施する上で必要となる長期ビジョンとシナリオを策定すること、そして、各施策の立案に必要な予測・評価技術、監視技術を開発・適用し、より確からしいビジョンとシナリオに改善する“スパイラル的なプロセス”を確立する必要がある。また、短期的施策に求められる現状の課題の解決のみならず、水に対する理解の促進、水を監理する上で必要なガバナンスを発展に係わる施策の実施も求められるだろう。例えば、前者については、水を利用する一人一人が、“水そのものの大切”さだけでなく、水が多面的機能を発揮していることを理解し、市民一人一人が、水の大切と多面的機能を学び、かつ、実践できる社会となるような啓発に係わる施策も長期的に必要になる。また、後者については、水循環系に係わる学問分野や水管理の主体となる行政機関は分化が進み、流域全体を統合化できていない状況に鑑み、流域における水循環のガバナンスを発展させること、そして、統合化のプロセスにおいて市民の役割を明確にする施策も長期的には必要となる。
以下に、その具体的内容について触れる。

1)短期的施策
①水源地・水資源関連施設対策
水源地については、水源地の保全を図るための法整備を図り、今後想定される無居地化を抑制するとともに、無居地化した地域については水源林等を管理できるような枠組みの整備が必要である。
水資源関連施設については、既存ダム等の再開発等を行い、水の安定取水を促進する必要がある。また、水資源関連施設の老朽化対策・耐震化の向上が喫緊の課題であることに鑑み、水資源関連施設の機能を将来にわたって維持・向上させるだけでなく、必要となる費用の最小化あるいは平準化を図ることにも対応する必要がある、このため、水資源関連施設の耐震化や長寿命化対策を含めた計画的な改築を推進することが求められる、そして、予防保全的管理に基づくストックマネジメントの導入を推進するために、効率的な管理点検調査手法や包括民間委託の導入を図り、水資源関連施設が将来にわたり、低コストで一定の性能を持続的に発揮できるような取り組みを開始することが求められる

②流域での対策
流域内の個別地域における水循環の健全化については、例えば、都市・農村漁村等の地域の特性や実状を踏まえた施策を講じることが必要である。具体的には、各地域の特性に応じて保水・遊水機能を向上させ、中小河川を中心として流出の抑制を促進する。また、地域の実情に応じて効率的な汚濁水処理施設を導入することも必要である。この際、人口減少等の社会情勢を踏まえ、都道府県ごとの汚水処理施設の整備等に関する「都道府県構想」の見直し等を推進し、汚水処理施設の整備の効率化を図ることが必要である。例えば、地域の実状によって有効な汚水処理施設の種類が異なることから、従来の技術基準にとらわれない低コストで、かつ、早急かつ機動的に整備できる施設の開発と導入(例、「工場製作型極小規模処理施設(接触酸化型)」を行うことも求められる。一方、ノンポイント汚濁負荷対策については、面的に様々な負荷が存在することから、関係部局で連携して事業を推進できるような枠組みが必要である。
また、水源地で生産された土砂は、水系を通じて海岸に運ばれていくことから、土砂管理に当たっては、上下流が連携し下流沿岸域までを含め流域全体として、総合的な土砂管理の観点から対策を推進することが必要である

③都市域での対策
都市域においては、「排除・処理」から「雨水浸透・貯留」や「活用・再生」に発想を転換し、市民・河川管理者・下水道管理者及び地方公共団体が協働して、雨水貯留施設の整備促進、雨水地下浸透を促進し、流出抑制を図り、雨水の活用ポテンシャルを高めるとともに、平時における水量の確保、湧出水・井戸水量の復活に務めることが必要である。また、再生水については必要に応じて高度処理を行い、雨水、湧水と併せて有効利用する施策を講じることが再生水の利用促進と健全な水循環の構築に必要である。また、都市域における下水道の多くが合流式であり降雨時に水質が悪化することに鑑み、合流式下水道の汚濁負荷を分流式下水道並みの汚濁負荷とすること、未処理放流回数を低減すること、夾雑物の流出防止を図ることなどが求められる。また、処理場末端に閉鎖性水域を抱える場合には、高度処理の導入を促進し、閉鎖性水域に対する栄養塩負荷の抑制を図ることが重要である。このためには、今後増加する処理場の改築時に導入することを念頭に置き、既存のストックを最大限活用する技術やコンパクトで高性能な超高度処理技術の開発を進めることが重要である。

④地下水対策
地下水については、施肥、家畜排せつ物、生活排水等に由来する硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の環境基準超過率が高いことに鑑み、流域からの汚濁負荷源の解明と制御可能な汚濁負荷源については、対象施設からの有害物質を含む水の地下浸透の有無を確認できる確実かつ安価な検知技術の開発が必要である。特に、施肥、家畜排せつ物、生活排水等に由来する硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の環境基準超過率が3.6% と最も高くなっており、これらに係る有効な施策を立案する必要がある。

⑤水ビジネス海外展開
現在、我が国が保有する優れた水処理技術及び上下水道施設運営・管理ノウハウを海外展開する水ビジネスを政府・地方自治体・民間企業が一体となって進めている。土木界としても、気候変動によりる洪水・渇水対応の観点からも水ビジネスの海外展開に積極的に関与していくことが必要である。

2)長期的施策
広域的かつ長期的視点に立ち、水量と水質、治水・利水・環境を一体的に取り扱い、水が本来有する多面的な機能を発揮できるようビジョンやシナリオを策定する。策定に当たっては、水循環系のモデリング・モニタリング手法を開発・適用し、水に係わる様々な現象の予測・評価・監視技術の高度化が求められる。また、将来人口が減少することも念頭に置き、災害の発生の恐れのある地域での土地利用の誘導、都市のコンパクト化等を念頭に置きながら、これらの動向をビジョンやシナリオに反映させることが重要となる。前述した短期的施策も、長期的なビジョンやシナリオを構成する要素と位置付け、各施策の効果をモニタリングし、課題を抽出しながら、短期的施策の内容に修正等を加えながら順応的に実施するとともに、効果や課題を長期的なビジョンやシナリオに反映させ、更に、短期的施策を抜本的に変更していく双方向的な仕組みを取り入れることが求められる。
また、水そのものの関心を高める啓発活動だけでなく、水が河川や地下水、湖沼、ため池、水路・管路網等の水循環系と一体となりながら多面的機能を発揮していることを理解されるようにし、水需要の抑制だけでなく、健全な水循環の構築を促す社会づくりを行うための施策を継続する必要がある。
更に、シナリオや施策の策定・実施に当たっては既存の水に係わる学問領域、行政機関が多様な分野にまたがっていることに鑑み、水を横断的に管理するための学問体系、仕組みの整備が必要である。水を横断的に管理する仕組みについては、市民が主体となり、もしくは積極的に関与することにより個々の流域もしくは小流域を管理するガバナンスの発展が必要となる。したがって、このために必要な制度的・財政的・技術的支援に必要な施策も継続して実施する必要がある。


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