一人ぼっちのかくれんぼ

知人の家に遊びに行き、楽しく遊んだ。
それから数日後、知人が大切にしていたマグカップが割れたことを知人本人からではなく、その友達越しに聞いた。
知人は相当に落ち込んでいるらしい。
私は焦った。多分割ったのは自分だろう。あの時は気が付かなかったけど確かにマグカップは使わせてもらったし運ぶときに一度壁にコツンとぶつけた。
あの時ヒビが入ったに違いない。
どうしよう、なんて謝ってもあの人の大切なマグカップは戻ってこないんだ。

それからまた数日後、知人とばったり会った。
「実はあの日あなたが帰った後、別の友人も訪ねてきたんですが大切にしていたマグカップを割られてしまってね。」

私のせいではなかった。
知人から真実を伝えられた時に、心底ほっとしている自分と目が合った。
単純なことだ。知人が落ち込んでいたことを想って思い悩んでいたわけではなかったのだ。
ただ自分が非難された、悪者になったことをどうやったら隠せるか、無意味なかくれんぼを一人ぼっちでしていただけだった。
知人は少し離れた場所で割れたマグカップを見つめて涙を流していたのに。

ほっとしている自分の目を見て「よかったね」と声を掛けた。

自分一人でかくれんぼをしている様子は意外と周りからはよく見える。
「あの人、また部屋の隅に隠れて自分を守ろうとしているよ。」
周りの人はそんな私を鈍感さ故に気が付かないところで評価を下す。

「いいわけないじゃない」
しばらくして返事が返ってきたけど、それはまだかくれんぼの延長である。


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