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沖縄のそこらへんの木でも紹介しておけ! 番外編1 オオバギ

Macaranga tanarius(オオバギ)トウダイグサ科

首里城は領域全体が復元です。

建物はもちろん、石垣さえ復元されたものだとか。
城内の植栽も限られた情報をもとに復元したそうです。

管理者は、植物案内の筆頭にオオバギを掲げました。
古老へのヒアリングで裏づけがとれたのかもしれません。

参考資料


今回のランキングにおいて、オオバギはノミネートどまりでした。
南国らしくてよい木だと思いますが、見かける頻度が低すぎでした。
滞在中にオオバギを見つけられたらラッキーと思ってよいです。



雑談です。

オオバギの葉の形は面白いです。

葉の中央付近に葉柄がついています。
ハート型を通り越して、内側で葉が重なる植物はときどきあるのですが、
「葉を重ねるぐらいなら、最初からきっちり閉じておくべきだ」と、
円盤状に葉を広げる植物は多くありません。

この形の葉は、複数の植物で見られます。
 ・Hernandia nymphaeifolia(ハスノハギリ) ハスノハギリ科
 ・Hydrocotyle verticillata(ウチワゼニクサ) ウコギ科
 ・Macaranga tanarius(オオバギ)トウダイグサ科
 ・Nelumbo nucifera(ハス) ハス科
 ・Tropaeolum majus(キンレンカ) ノウゼンハレン科

遠縁の種で、似たような形が出現することを専門用語で
「収斂進化」といいます。

このタイプの葉が「盾状」という語で形容されることがあります。

たしかに葉身は盾っぽいのですが、盾に柄はありません。
人は、腕を使って、盾という道具を突き出しています。
日頃、「盾状」という語を使っている地質学者たちが
「生物学者は道具と腕の区別もつかんのか」と白い目で見る気がします。

<葉身とは> みんなの趣味の園芸 園芸用語集より引用

図鑑の執筆者たちは苦戦しています。
①「leaf base round(基部が丸い)」
②「Leaf stalks connect within the leaf itself(葉柄が葉の範囲内につく)」
③「leaf stalk near the middle of the leaf(葉柄が葉の中にある)
④「The leaf edge is distant from the leaf stalk attachment
 (葉の縁が葉柄の付け根から離れている)」

オオオニバスの記述は、いい線いっています。
⑤「Girder-like veins radiate from the petiolar (leaf stalk) attachment
 (桁状の葉脈が葉柄の付け根から放射状に広がっている)」
Gigantic floating leaves occupy a large surface area at an economical material cost | Science Advancesより引用。

オオバギは葉の主脈からも分枝するので⑤には当てはまりませんが、
「放射状に広がる」という動詞は覚えておいて損はないです。
英語は動詞の語彙が豊かです。
(注:日本語の「放射」は「発射」の意に近く、角度の網羅を示唆しない)

上記③、middleよりはcenterのほうがよいです。

middleには「中間」のニュアンスがあります。
読者は、葉身か葉柄かはっきりしない、中間的な形状をイメージしてしまうかもしれません。

centerは「中央」です。
centralized state(中央集権国家)の中央、center of diskです。
中央から水を送り、中央に養分を集めます。
配置だけでなく機能面を考慮しても、centerのほうがよいでしょう。

まだすっきりしません。
長文を使った説明は、「盾状」の一語に負ける気がしてなりません。
正確でないときですら、コンパクトなたとえは強いです。

モモタマナの実の形容は「モモタマナ型」で終了させました。
さくっと終わりにできたのは、あれほど見事な形が他にないからです。
葉身に葉柄がつく形は「収斂進化」で、あちこちの科で散発します。

ハスを代表にすべきでしょうか。
ハスノハギリという和名をもらった木があります。
日本人にとって、ハスはなじみ深い植物ですが、じつはアジアローカル。
この形をlike lotusとした文献は見当たりません。
(注:Lotus effectはそのままでよいです。ハスが研究の発端です)

何かよい形容はないものか。

軸付き砥石、ポテトマッシャー、漬物メーカー、皿回し。

皆それぞれ、身近にあるものを挙げそうです。
何を挙げるかで内緒にしていた趣味がばれそうです。

Hydrocotyle(チドメグサ属)には、この形になる種が複数あるようです。
チドメグサ属の英名を眺めてみましょう。

・Hydrocotyle verticillata 
  whorled marsh-pennywort(輪生/渦巻状の湿地性のペニー硬貨草)
  shield pennywort(盾のペニー硬貨草)
  water mushroom(水生のキノコ)
・Hydrocotyle vulgaris
  water coin(水生の硬貨)
・Hydrocotyle umbellata
  種小名ウンベラタは傘の意

葉が硬貨サイズであるときは「硬貨型の葉」でよいかもしれません。
ペニーでなく、half dollar(50セント)という表現もありました。
現代人は現金で払わないので、だんだん意味不明になりそうなたとえです。
それはさておき、オオバギの葉は硬貨サイズではなく、形も雫型です。
硬貨という表現は使えそうにありません。

「傘」は目指すところに近づいた気がします。

柄に言及しなくてはならないので、傘状ですませてよいか自信がないです。「傘状」と書くと柄を除いた上部を想像する人が多い気がします。
雨傘に採用されている湾曲のある形を思い浮かべる人も多く、
オオバギを表現できた気がしません。

傘の形を標準とする、キノコの表記を参照してみましょう。

 [ 傘の形 ]
  ・半球型(hemisherical)
  ・釣鐘型(campanulate)
  ・円錐型(conical)
  ・饅頭型(convex)
  ・中高扁平型(plane and umbonate)
  ・扁平型(plane, flat)
  ・皿型(cotyliform)
  ・杯状(crateriform)
  ・漏斗状(infundibriform)
 (wikipedia 「キノコの部位」より引用)

豊富な表現が頼もしい。
やはり傘はキノコの上の部分のみを指すようです。
もうひと声!

 [ 傘に対する柄のつき方 ]
  ・中心生(central)
  ・偏心生(eccentric)
  ・有柄側生(caulescent-lateral)
  ・無柄(lateral)
 (wikipedia 「キノコの部位」より引用)

さすがキノコ。キノコの研究者はぬかりありません。

centerという表現は、おおむね合っていたようです。
柄が中央にあるときは、シンプルに、
The leaf stalk is central(葉柄は中心生です)でいけそうです。

eccentric(エキセントリック)は微妙・・・。
学問領域の外で使用すると、偉い人から
「学術表現かもしれませんがニュアンスがちょっと。変えてくれませんか」
と指摘が入りそうです。

くうぅ、そうじゃない、違うんだ。
被子植物はキノコと違って柄が葉の中央付近につくこと自体、珍しいんだ。
葉柄が葉面に対して、垂直か、傾いているかは二の次なんだ。
読者には慣性モーメントとか、そっち系の絵を思い浮かべてほしいんだ。

・・・。

ハノイの塔のような(like Tower of Hanoi)がいいな (*゚ー゚)
(たぶん、数学家しか同意しない)

逆ハノイ型の葉って珍しいですよね^^
(採用するのかっ)

オオバギの葉の記述案 (瀬戸)
 The leaves are like upside-down Tower of Hanoi.
 The leaf is drop-shaped and entire.
 The phylloplane is almost flat.
 The leaf stalk connects near the center of underside.

*一行目は冗談なので本気にしないでください。


オオバギよ、楽しい時間をどうもありがとう。
読者置き去りで申し訳ないです。

オオバギの花と葉  撮影地:首里金城
「柄の付けどころがセンターでしょ」

トップ画:designbeginnerさん

追記
「丸テーブル型(like round table)」とすれば、うまく伝えられそうです。

昨夜は思いつきませんでした。
脳とピクルスは寝かすに限る。

外山 滋比古が
「だからいったじゃないか。寝る研究者は育つぞ?」
といいそうです。

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